年初めの祈祷
番外編2
暗闇の中、年始の祈祷を行う為に焚かれた火がシトシトとふる雪を溶かしていた。
吐く息は白く、肺に入る空気はひんやりとしていて心を清めてくれる様だった。
このアメノミナに住む者達が、新たな一年を平穏無事に、健康で幸福に過ごせる様にと願い、神の加護を求める為に私は装束を纏い、社の前にひざまついていた。
『大いなる五神よ、ここに集まり給え。祝詞を奏上いたします。
木の神・颯命樹神、火の神・熾閃煌神、水の神・潤澄神
金の神・富栄神、土の神・巡地守神
五神の御加護を願い申し上げます。
我らを厄災から守り、道を導き、大地に恵みを与え、太陽の光と月の静寂にて人々へ平穏をもたらしたまえ。
昨年の恩恵への感謝と、今年の新たなる門出を迎えることができる歓びを心より申し上げます。
森羅万象に感謝しここに祝詞を奏でさせていただきます。』
私の願いを受け入れたというように、ビューと突風がふき、炎が勢いよく燃え上がった。
その後、私は仕斗の奏でる楽に合わせ、手に持った鈴をシャンシャンと響かせ舞始める。
楽の音、鈴の音、絹の擦れる音が調和し、その場には、神秘的な雰囲気が漂っていた。
私は一挙一動に神経を集中させ風の様に舞い、神へ舞を奉納する。
これが年初めに導神族が担う大切な祭事である。
新年の大仕事を無事に成し遂げ、私はホッと胸を撫で下ろす。
祈祷を終え屋敷へ戻り、縁側で私と仕斗で祝い酒を飲んでいた。
「時雨様、お見事な舞でしたね。」
空が私の盃にトクトクとお酒を注いでくれた。
「長として貫禄がついてきたな。」
陸は、グイッとお酒を飲み干していた。
「いっぱい舞の練習してたもんね♪」
海は酒はほどほどに、落雁を頬張っていた。
「新年の祈祷は毎年やっていても慣れないわ。」
今度は私が空の盃へと酒を注いでいく。
たわいもない話をしながら、シンシンと降る雪を眺め皆で酒を呑む。
華やかな香りと口当たりの良い祝い酒は、普段お酒を飲まない私でも美味しく飲むことができた。
お酒で体が温まり、私はその心地よさにウトウトし始める。
すると、一年前の光景がふっと蘇ってきた。
祈祷の後、皆の目を避けるように部屋に戻り、皆が賑やかに騒ぐ声を聞きながら寂しく目を閉じていた。
しかし、今回は賑やかさはないが仕斗が隣にいて穏やかな気持ちで目を閉じることができている。
「みんな、ありがとう。」
私は隣にいた空の肩に頭を預け、日頃の感謝の気持ちを伝える。
「こちらこそですよ。」
っと、空の声が上から降ってくる。
「時雨がいての僕たちだしね♪」
海の明るい声が私の心に刺さった棘を抜いてくれた様に感じた。
「本当にな。一人でよく頑張ってきたな。」
と、陸が私にそっと毛布をかけてくれた。
その暖かさが眠気を促し、私を夢の中へと誘っていった。
※番外編は、本編とは時間軸が異なります。
単体のショートストーリーとしてお楽しみください。




