おせち
番外編1
仕斗と閤央との生活を始めて早数ヶ月。
一人でいた事を忘れてしまうぐらい楽しい日々を送っていた。
気がつけばすでに暦は年末を迎えようとしていた。
私は、ずらりと並んだ食材を前に考えこんでいた。
(今年の正月は仕斗と閤央がいる。正月らしく豪華なおせちを作りたい。)
だが、材料を揃えたものの、何から手をつければ良いのかわからず私は途方に暮れていた。
私が台所に立ち悩み唸っていると、海がヒョコッと廊下から顔を覗かせた。
「時雨どうしたの?お腹すいたなら何か僕がつくろうか?」
海には食材を前にした私が、何を食べるか悩んでいる様に見えたのだろう。
「お腹空いたわけじゃなくて、数日後にはもうお正月でしょ?今年は一人じゃないし、おせちでも作ろうかと思って。」
大掃除や供物用の餅など、年末年始の行事の準備を仕斗が手伝ってくれたので早く済み時間に余裕もあったのだ。
「なら僕も手伝うよ。ってか時雨料理出来るの?」
海程の腕前ではないが、一人で生活をしていたのだ。
私にだって料理の心得はある。
「失礼な事を言わないでちょうだい。私だって料理は出来るわ。」
私達の話し声で、台所で何をやっているのかと、掃除をしていた陸と空が集まってきた。
陸は、箒を片手に勝手口から顔をだし、
「なんだ、どうした。」
廊下の方からは、はたきを持った空が顔を出し、
「時雨様のエプロン姿!いいですね、似合います‼︎」
っと頬を染めた空がうっとりと私をながめていた。
「空、顔がニヤけてて完全に変態オヤジになってるぞ。」
陸のツッコミが入り、空が顔をさっと引き締める。
「そんな顔などしていませんよ!そ、それより時雨様、何をしようとしているです?」
空は声をうわずらせながらも、なんとか誤魔化そうと話題を逸らしていた。
いつも空は私の事を褒めてくれるが、それが逆に気恥ずかしく、私をいたたまれなくさせる。
「今年はみんながいるからおせちの準備でもしようかなっと思ってて。」
私は気恥ずかしさを隠す様に空から顔を逸らし、視線を下に向ける。
「おせちですか!時雨様の手作り…。」
空は何やら考え込んでいるのか、妙な間が空いた。
「空、顔…。」
陸が再び突っ込みを入れると、空は頭をブルブルと振り、想像(妄想?)の世界から帰ってきてくれた。
「ゴホン。では、みなさんにおせちについての問題を出して差し上げましょう。」
咳払いをして顔を引き締めた空は、
「おせちを作るなら、その知識があった方が作る思いがより込めやすいでしょう?」
っと、突然クイズ大会を始めてしまった。
「では第一問、おせちはなんのために作るのでしょうか?早押しです。」
何も押す物がないのに早押しとは…。
空のボケ度が日に日に増していく気がし、心配になる。
ふざけることが好きな海は、ノリノリでピンポンといいながらボタンを押す真似をしていた。
「余裕余裕。家族の繁栄や健康を願う為に作るんだよ♪」
空がパチパチと手を叩き、頷いている。
「その通りです。稲作の収穫を祝って神に感謝する『節供』として、季節の節目に作物を供えるという風習から発展していきました。では、第二問です。何故重箱に料理を詰めるのでしょうか?」
「沢山入るからだろ。」
陸が壁に身体を預け腕を組みながら答えていた。
「確かに沢山入りますが…違いますね。〝めでたいこと“や〝幸せ“が重なるようにという願いを込めているからが正解です。では、三問目です。重箱の中には日持ちの良いものを選び入れますがそれは何故でしょう。」
答えがわかった私は、ハイっと勢いよく手を上げる。
「それなら私でもわかるわ。正月三が日は休み、台所に立つのを避ける為でしょ?」
空は再びパチパチと手を叩く。
「流石です。時雨様‼︎三が日はやってはいけない事があります。掃除、水仕事、刃物を使う、火を使う事などが挙げられます。それぞれ、運や福を吐き出したり、福を洗い流してしまう、縁を切ってしまったり、争い事をさけるといった意味でタブーとされています。他にも意味や理由はありますから詳しく知りたかったらググりましょう‼︎」
「ググるってどういう意味だ空?」
空はふくみわらしをしていた。
「先見の目が無いですね、陸。そのうちあなたにもわかる時代がやってきますよ。」
「……?」
私もググるの意味はわからないが、空が先見の目がないという言葉を使うのは間違っているということだけはわかった。
「さぁ次の問題に行きますよ。黒豆は何の意味を込めて作るのでしょうか?」
「俺の言ってる事は無視か。豆か、豆…。」
無視をされても、律儀に問題に答えようとする陸を見てやはり彼は優しい性格をしているのだと思った。
「そんなの甘くて美味しいからでしょう♪」
砂糖は神♪っと甘いものが大好きな海らしい解答だった。
「神を信仰する我々が、砂糖と神を同列にするのは如何なものでしょう。」
はぁ…っとうなだれ呆れた空が解説をいれる。
「黒豆には、〝健康とまめに働くことを祈る“という意味が込められています。数の子は子孫繁栄を願う縁起ものです。ですので時雨様はしっかりと食べて、お世継ぎを。」
と言った空がの顔が次第に青ざめていき、小声でブツブツと呟き始める。
「お世継ぎということは、時雨様が他の男と…その…あの…時雨様が、時雨様が取られてしまうのでは…」
俯いていた空はバッと顔をあげ、私の両手をグッと掴んだ。
「時雨様!やはり食べてはいけません!でもお世継ぎは大切だし…」
と、再び俯きブツブツと呟き始めてしまった。
「空、いつまで経っても話が進まないよー♪」
昔は冷静な奴だったと言われる空が、おふざけ担当の海にまで突っ込まれていた。
「ハッ、すみません。ま、まぁ他にも色々と願いが込められて、おせちの料理は作られています。以上です。」
っと、心ここにあらずといった様子の空は、急に話を切り上げると、はたきを叩く動作をし、忙しいと言いながら、どこかへいってしまった。
こうして突然始まったクイズ大会は、唐突に終わりを迎え、床には置いていかれたはたきが、寂しそうに横たわっていた。
※番外編は、本編とは時間軸が異なります。
単体のショートストーリーとしてお楽しみください。




