閤央の懸念
-Gouou side-
(全く愚かものばかりだな。この様な状態になっても変わらず時雨を責めつづけるのか。)
祠に向かいながら閤央は先ほどの村人達の様子を思い出していた。
(主の仰っていた真意を読めていないではないか。)
確かに時雨にも至らぬ所はあっただろう。
しかし、力が封じ込められたことを知らない者達でも、まだ十の子供に期待をかけすぎではないか。
やれることなど限界があることは容易に想像できるだろう。
なんの後ろ盾もなかった時雨には、長の重圧に耐えるのは辛かったに違いない。
逃げてしまうのも致し方のないことだ。
この様な状態で、時雨の変わり祠に向かってはいるが、果たして潤清が我々の思いに応えてくれるかどうかもあやしい。
「また、後でな。閤央」
身を隠しに行く陸と途中で別れ、祠までやってきた。
狼の姿を解き、時雨の念を受け取るため、本来の姿に戻る。
(目立つからあまりこの姿にはなりたくないのだが。やむをえん。)
準備が整い離れている時雨に念を送る。
『時雨、私だ。わかるか?今祠についた。今からお前にも私がみている景色がみえるようになるはずだ、念じろ、そして、潤清に願いを捧げるといい。』
そう告げると、スッと時雨の念が、身体に入り込んでくるのを感じた。
『ゴウちゃん、わかる?これでいいのかな?』
初めての経験に戸惑いながらも己の役目を果たそうとする時雨の態度は褒めるべき所だろう。
『それでよい。では始めよう。』
私はこうべを垂れ、祈りの姿勢をとり、時雨の念を響かせる。
『大いなる神。潤清神よ。祝詞を奏上いたします。潤清神の御加護をお願い申し上げます。この地に同胞が居を置くことをお許しください。村を守り、人々を心身健やかに過ごせるように希望の光でお導きください。太陽の光により、豊かな収穫をお授けください。自然の恵み、日々の幸福、そして人々との絆に感謝の意を込め、ここに祝詞を奏でさせていただきます。』
祝詞を終えても、あたりは静寂に包まれたままで、潤清が応答する気配はまるでなかった。
『やはり応えてはくれぬか。』
私の中に芽生えていた疑問は確信へと変わった。
しかし、状況を把握できていない時雨は、動揺している様だった。
どうしたものかと頭を捻り考えていると、近くでカサカサっと音がした。
陸が警戒体制をとったのが感じられた。
出てきたのは、カワウソの身体に亀の甲羅を背負っている姿の生き物だった。
奴は、潤清の使いの聖獣獺亀だ。
『久しぶりだな、獺亀。』
かつて苦難を共にした仲間の姿を目の前にしていた。
『久しぶりだね、閤央。君の主は、懲りもせず地に落ちた人間達を守ろうとしているのかい?』
獺亀は眉をひそめ、怪訝な顔をしていた。
『潤清様も呆れているよ。君も理由はわかるだろう?いくら愛し子の末裔の願いでも今の状態では聞いてはやれないと潤清様はおっしゃっている。彼らが自ら気づきを得るまでは、手助けするつもりはないっとね。』
『やはり、そうか。』
千年前、この村に起きた出来事考えると潤清が応えないのも察することはできていた。
『いつまでもここにいても無駄なだけさ。さっさと帰ったほうがいいよ。』
獺亀は肩をすくめ呆れた顔を浮かべると、くるりと踵を返し、その場を去っていった。
時雨はこの状況に困惑している様だった。
そんな時雨に、再び念を送る。
『時雨今のやりとりは聞いていたな?私は今からそちらに戻る事にする。』
『うん、聞いていたよ。ゴウちゃん、ありがとう。気をつけて戻ってきてね。』
時雨は悲しみを堪え、私を気遣い明るい声で返事を返してきた。
時雨にとって今回は辛い出来事だったかもしれないが、私は成長途中の彼女にとっては良い経験になったと思っていた。
時雨達と合流する為に狼の姿にもどった私は、陸にひと吠えし帰りの合図を送った。
獺亀:水の神 潤澄の使い




