拒絶する世界(3/3)
放課後。人気のない屋上。
風が強くて、柊の髪がさらさらと揺れていた。
「……なんか、最近変な目で見られるんだよね」
柊はそう言って笑った。
自覚していないようで、でも、どこか気づいているようでもあった。
「空閑くんも、久野瀬くんも、ちょっとだけ怖い顔するじゃん。……俺、なんかしたかな」
僕は、すぐには答えられなかった。
「……柊、お前は……なんで、あんな怪異に襲われないんだ」
「うーん。わかんない。でもたぶん――俺、誰とも深く繋がれないからだと思う」
「それって、どういう……」
「たとえばね」
柊は風の中に目を細める。
「俺、家族の誕生日も覚えてないし、友達の趣味も知らないし。
誰かに“自分のこと話したい”って思ったこともないんだ」
「それって……」
「俺、たぶんさ――“誰かを受け入れる”ってことが、できないんだと思う」
そこにあるのは、ただの事実だった。
感情もなければ、嘆きもない。
淡々と、自分を“そういうもの”として受け入れている顔だった。
帰り道。
朔が静かに言った。
「柊は“拒絶者”だ。異界も、人も、すべてを拒む体質の持ち主。
でも、それは同時に――“すべてから拒絶される”という意味でもある」
僕は、思わず立ち止まった。
「……じゃあ、柊って、ずっと……」
「ああ。誰からも干渉されずに、生きてきた。
そして、たった一人だけ――天城晃だけが、柊を拒絶しなかった」
その言葉に、背筋が凍った。
思い出す。
柊が天城にだけ、少しだけ距離が近かったことを。
あの笑顔は、誰にも向けていなかったはずの“繋がり”だった。
けれど、もしそれが――
“天城に、何かを預けていた”のだとしたら……?
第3話、ご覧いただきありがとうございました。
次回、第4話「追跡者と追われる者」




