過去からの囁き(3/3)
僕らの前に現れた巨大な怪異は、過去の記憶が渦巻いているような、歪な姿をしていた。
「行くぞ!」
僕が踏み込むと同時に、朔が封印札を投げた。
しかし怪異はそれを容易く弾き返し、嘲笑うような声をあげた。
『お前たちの過去は、お前たち自身だ。逃げることはできない!』
怪異の体から無数の影が伸び、僕らを包み込もうとする。
僕はそれに向かって、手を伸ばした。
「逃げない……俺は、過去の恐怖すら喰って進む!」
影を握りつぶすと、恐怖が僕の中で力に変わる。
朔も叫んだ。
「俺たちはもう、記憶に囚われはしない!」
朔の封印が怪異を包み、動きを鈍らせる。
そして真澄が一歩前に踏み出した。
「僕はもう、自分自身を拒絶しない!」
真澄がその力を解放すると、怪異が苦痛の叫びを上げた。
僕らの力が一体となり、過去の怪異を飲み込んでいく。
そして――ついに怪異は静かに砕け散った。
怪異が消えた後、静けさが訪れた。
朔がふと前を見て、呟いた。
「あれは……石碑?」
僕らはゆっくりと近づいた。
石碑には、古い文字で言葉が刻まれていた。
『器となる者、その因果を背負う』
その下には、小さく『天城晃』という名が記されている。
「これって……」
僕の言葉に朔が答える。
「天城は偶然選ばれたんじゃない。
最初から、異界と僕たちの因果を背負わされるために存在していた……」
真澄が肩を震わせた。
「僕らが彼にしたことは……全部、必然だったっていうの?」
僕は拳を強く握りしめた。
「違う……運命なんて関係ない。
天城は俺たちが絶対に助ける。今度は俺たち自身の意志で!」
そのとき、石碑が揺らぎ、その背後に新たな扉が現れた。
扉はゆっくりと開き、さらに深い異界が姿を現した。
僕は強く頷いた。
「行こう。この先に、天城がいる」
朔と真澄も頷き、僕らは迷いなく前へ踏み出した。
もう過去には縛られない。
運命すらも、僕ら自身で切り開くために。
第8話「過去からの囁き」をお読みいただきありがとうございます。
今回、湊たちは過去の呪縛を乗り越え、新たな真実を知りました。
次回、第9話「運命の向こう側」。
引き続きお楽しみください。




