過去からの囁き(1/3)
異界の深部で僕たちは自分自身の過去と向き合うことになる。
それは逃れられない宿命ではなく、乗り越えるべき壁だった。
僕たちは天城を救うため、さらなる真実へと足を踏み入れていく。
異界の深層は、冷たく、静かな場所だった。
無音の空間の中を進んでいると、朔が突然立ち止まった。
「この場所……誰かの記憶で作られている」
「記憶?」
僕は朔を振り返った。
朔は眉を寄せ、静かに頷いた。
「ああ。ここは強い感情や記憶が集まって作られた世界だ。
そして、天城晃はその感情や記憶を、無意識に吸い込んでいる……」
真澄が小さく呟いた。
「だからあいつは、ここに取り込まれてしまったってこと?」
「……その可能性が高い」
僕は唇を噛み締めた。
あいつは、僕らが押しつけた記憶と感情で苦しんでいる。
僕らはさらに歩を進める。
すると、目の前に霧が立ち込めた。
霧の中から、ゆっくりと誰かが現れる。
「……お前、天城?」
そこに立っていたのは、数年前の、まだ僕をいじめていた頃の天城晃だった。
彼は無表情で僕を見つめた。
『空閑、お前が弱いから俺がこうなったんだよ』
冷たい声が響いた。
僕はその言葉に息を飲んだ。
これは幻影だ。
でも、あの頃の僕が受けた傷は本物だった。
「……違う」
『違わない。お前が弱かったから、すべてが狂った』
幻影が近づいてくる。
僕は拳を握り締めた。
――逃げてはいけない。
これはもう終わった過去だ。
「違う……俺は、もう弱くない」
言い切ると同時に、幻影は霧散して消えた。
僕は深く息を吐き、前を向いた。
過去に囚われている暇はない。
天城を助ける。それが僕のやるべきことだ。




