異界迷宮(3/3)
異界の歪みが晴れたとき、僕は朔と真澄と共に立っていた。
「みんな、無事か?」
朔が静かに頷き、真澄が微笑んだ。
「うん。……なんとかね」
僕らはそれぞれ、自分自身の恐怖と向き合い、乗り越えていた。
しかし、安堵する間もなく、目の前に巨大な影が現れた。
それは異界が生み出した、巨大な怪異だった。
歪んだ人影のような姿をしており、その体には無数の記憶が渦巻いている。
朔が呟いた。
「……あれは、天城が背負わされた記憶の集合体だ」
怪異が、悲鳴のような咆哮を上げる。
『お前たちが俺を壊した……!』
僕は唇を噛みしめた。
「みんな、力を合わせよう!」
僕が叫ぶと、朔と真澄がすぐに頷いた。
僕は正面から恐怖を喰らい、朔は封印を展開し、真澄は怪異を拒絶し、空間を狭めていく。
――だが、怪異は強大だった。
『お前たちの力じゃ届かない!』
怪異が僕らを飲み込みかけたその瞬間、真澄が前に踏み出した。
「君の苦しみは、僕たちのせいだ。
でも、君を取り戻したいんだ!」
真澄の言葉と共に、拒絶の力が怪異の形を崩し始める。
朔も叫んだ。
「お前が背負った記憶は、俺たちが引き取る!」
僕は拳を握りしめた。
「天城!お前は一人じゃない!」
その瞬間、僕らの力が完全に一つになり、怪異を貫いた。
怪異が消えた後、奥の闇に人影が見えた。
それは天城だった。
「天城!」
僕は叫んだ。
けれど彼はただ、静かにこちらを見つめるだけだった。
何も言わず、薄い微笑みを浮かべて――闇の中へ消えていった。
「待って、天城!」
真澄が声を震わせた。
しかし、彼はもういなかった。
朔が拳を握ったまま、静かに言った。
「まだだ。だが、届いたはずだ。
俺たちがここにいるということを、天城は知った」
僕は頷いた。
「ああ。絶対にあいつを取り戻す。
俺たちはもう逃げない」
異界の奥で、僕らは再び前を向いた。
もう戻れないなら、前に進むだけだ。
第7話「異界迷宮」、お読みいただきありがとうございました。
次回、第8話「過去からの囁き」。
湊たちは異界のさらに深層へ進み、物語の核心に近づいていきます。
どうか引き続きお付き合いください。




