異界迷宮(2/3)
その頃、朔は別の場所に立っていた。
そこは暗い和室。
畳はすり切れ、壁には古い遺影が並んでいる。
「これは……俺の家だ」
朔はすぐに理解した。
これは自分が継承した、家系の記憶が渦巻く場所だと。
奥の部屋から、かすかな話し声が聞こえてくる。
『朔には、継がせるしかない』
『でもあの子は、耐えられるでしょうか……』
両親の声だった。
朔が小さい頃、密かに交わされていた会話の記憶。
「……やめろ」
朔は自分の頭を押さえた。
だが、声は止まらない。
『朔、あなたがすべて背負うのです。
これは、私たち一族が生きるための宿命なのだから……』
「黙れ!」
朔は叫んだ。
継承したくてしたわけじゃない。
この記憶が、朔自身を侵食し続けている。
それでも朔は歯を食いしばった。
「俺が選んだ道だ。誰にも……文句は言わせない」
真澄もまた、一人だった。
周囲は真っ白な空間。
何もなく、誰もいない。ただ無音の世界が広がっている。
「……ここが僕の心の中か」
真澄はため息をついた。
自分はずっと、こんな場所で生きてきたのだと。
ふいに足元に鏡が現れた。
そこには、泣いている真澄が映っていた。
鏡の中の自分が、小さな声で囁く。
『どうして、誰も僕を見てくれないんだろう』
真澄は黙って目を閉じた。
『みんな拒絶するのは、僕じゃない。世界のほうだ』
真澄は震えた指を握りしめた。
「それでも……拒絶だけが、僕のすべてじゃない」
真澄は強く目を開け、歩き出した。
僕は、幼い自分のそばに立ち尽くしていた。
このままでは、恐怖に飲まれる。
「違う……これは、もう終わった記憶だ!」
叫ぶと同時に、自分の中の“喰う力”が動き出した。
恐怖を喰らい、力に変える。
それが、僕のやり方だ。
『逃げない……もう二度と』
僕は幼い自分の手を握った。
その瞬間、世界が再び歪み、僕は仲間たちと合流した。




