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喰われる前に喰え(2/3)
真っ暗な空間だった。
底のない水の中に沈んでいくような、冷たくて、重たい感覚。
——喰われたくないか?
声が響いた。
男か女かもわからない。なのに、ひどく馴染んだ声だった。
——なら、お前が喰え。
「……え?」
返事をしたはずなのに、言葉は泡のように消えた。
ただ、その言葉と同時に“何か”が、僕の喉の奥から這い出した。
黒くて、濡れていて、触手のようで、内臓のようでもある。
それが僕の手から伸びて、目の前に現れた“影”を――喰った。
バリバリと。ズルズルと。
まるで飢えた獣が肉を引き裂くように。
止まらなかった。止められなかった。
僕は、喰ったのだ。