異界迷宮(1/3)
僕たちはついに異界へ踏み込んだ。
そこは、恐怖と記憶と孤独が渦巻く迷宮だった。
天城晃を取り戻すために、僕らは自身の内側に潜む弱さと向き合う。
これはもう、逃げるわけにはいかない戦いだ。
天城が姿を消してから三日目の夜、僕たちはついにその場所に立った。
古い神社の裏手に広がる雑木林。その中央に朽ちかけた鳥居がある。
「ここが、“異界への入口”だ」
朔は、記憶の継承を通じてこの場所を割り出したらしい。
普段はほとんど動揺を見せない彼の指先が、小さく震えていた。
真澄が静かに口を開く。
「……本当に行くんだね」
「ああ。天城をこのまま放ってはおけない」
僕は迷いなく答えた。
もう、戻れない覚悟はできている。
朔が前に出て、懐から古びた札を取り出した。
「門を開くぞ」
札を鳥居に貼り付けると、闇がうねり、亀裂が走る。
まるでそこだけ世界が裂けたように――黒い入口が姿を現した。
「行こう」
僕たちは互いに頷き合い、異界の中へと踏み出した。
足を踏み入れた瞬間、目の前が真っ暗になった。
気がつくと僕は一人、見知らぬ教室の中に立っていた。
「……あれ?」
僕は、どこかでこの教室を知っている気がした。
教室の隅で震えている小さな少年が目に入る。
よく見ると、それは昔の――小学生の頃の僕だった。
『なんで、俺ばっかり……』
幼い僕が呟いている。
誰も助けに来ない。ただ孤独と恐怖に震えている。
これは、僕の中に残る恐怖の記憶だ。
僕は少年の自分に声をかけようとした。
だが――喉が詰まって声が出ない。
体が震え、全身が冷たくなった。
「あ……ぁ……」
教室の扉がガラリと開く。
そこに立っていたのは、天城だった。
彼は幼い僕を見て、笑った。
『お前が俺をこうしたんだよ』
僕は恐怖に飲まれていた。