交錯する因果(3/3)
翌日になっても、天城は戻らなかった。
学校は混乱に包まれていた。
『原因不明の集団失踪事件』として報道され、僕らはひどく落ち込んだ空気の中にいた。
放課後の屋上で、僕と朔、真澄の三人は無言で空を見つめていた。
「……天城はどこへ行ったんだろう」
真澄がぽつりと言った。
朔はじっと前を見据え、静かに答えた。
「異界だ。あいつ自身が、“門”になった。
もう戻って来られないかもしれない」
その言葉に、僕は強く歯を食いしばった。
「……俺たちは間違ってたのかな」
二人は黙っていた。
でも、その沈黙が何よりも雄弁に答えを示している気がした。
――僕たちは、間違えた。
喰って、封じて、拒んで。
そうやって得た力の代償が、これだったのだ。
「……天城を取り戻そう」
突然、僕の口が勝手に動いた。
「絶対に連れ戻す。俺たちが壊したなら、俺たちが直すんだ」
朔がゆっくりと頷いた。
「当然だ。因果をばらまいた責任は取らないとな」
真澄も、微かに笑って頷いた。
「僕も行くよ。彼を拒んだままでは終われない」
僕たちは再び立ち上がった。
今度こそ、誰かの犠牲ではない方法で。
今度こそ、天城晃を救い出すために。
そして、その頃。
世界の“外側”のような場所で、天城晃は静かに目を開けた。
「ここが……異界……」
彼の目の前には、終わりのない闇が広がっている。
けれど、彼の顔に浮かんだのは絶望ではなく、
微かな――ほんの微かな、笑みだった。
「……やっと、一人になれた」
天城はゆっくりと、異界の奥へと歩み出した。
第6話「交錯する因果」、ご覧いただきありがとうございました。
今回、初めて主人公たちの間に本格的な衝突が起きました。
そしてそれは同時に、天城が自分の中に押しつけられた“異界”を抱え、姿を消すきっかけとなりました。
ここから物語は一気に加速していきます。
次回、第7話「異界迷宮」。
どうか、最後まで見届けてください。