交錯する因果(2/3)
天城の言葉が響いた直後、校舎裏の空気がぐにゃりと歪んだ。
「あれは……!」
僕の前に、無数の黒い亀裂が走る。
まるで空間が悲鳴を上げているかのように。
「異界が、開きかけている……!」
朔が焦ったように叫ぶ。
だが天城本人は、自分の足元に広がる異界を、呆然と眺めているだけだった。
「俺は……何も望んでないのに……」
彼の呟きとともに、周囲の景色が飲み込まれていく。
そこにいた生徒や教師たちが、一人、また一人と“異界の狭間”に引きずられていった。
僕は思わず手を伸ばした。
「天城、止めろ! お前だってこんなことは望んでないはずだ!」
「望んでない?……笑わせるなよ、空閑。
俺はずっと“望まないもの”を押しつけられてきたんだ」
その瞬間、僕らの足元も崩れ始める。
「……朔!」
「ああ、封じるしかない!」
朔が札を投げ、真澄が天城に近づこうとした。
だが、その瞬間、天城の周囲から黒い光が溢れ出す。
「うわっ……!」
真澄の体が弾かれ、朔の札が虚しく焼け落ちた。
僕も踏み込もうとしたが、天城の目を見て、足が止まる。
彼は、泣いていた。
でもその涙には、怒りと絶望が混ざり合っていた。
「お前たちのせいで、俺はもう俺じゃないんだ……!」
その叫びとともに、僕らは黒い渦に飲み込まれた。
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目が覚めると、校舎裏は静まり返っていた。
「……天城は?」
辺りを見回しても、彼の姿はどこにもない。
真澄が震える声で呟いた。
「僕が……拒んだせいだ。天城に全部、押しつけて……」
朔が苦々しく拳を握りしめる。
「封じるはずの俺が、一番因果をばらまいていたのか……」
僕は拳を地面に叩きつけた。
「違う……一番悪いのは、俺だ」
喰ってきた怪異たちの記憶が頭の中でぐるぐる回る。
天城の言ったことは、本当だった。
僕らが、彼を壊したんだ。