表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/36

夢の外、世界の底(3/3)

夜、自宅の洗面所で顔を洗った。


まだ頭の奥で、見知らぬ人たちの記憶がぐるぐると回っている。

誰の名前もわからない。

だが、すべてが俺の中に沈み込んでいるのを感じる。


「……はぁ……」


息を吐き、鏡に映った自分を見る。


俺は、一体何を見ているんだろう。


その瞬間――鏡の中の俺が、笑った。


俺は笑っていない。だが、“そいつ”は確かに口元を歪めて笑っていた。


『やっと気づいたのか、天城晃』


鏡の中の俺が、喋った。


「……誰だ、お前」


『お前は最初から、ただの器だった。

 他人の記憶を受け入れ、怪異を呼び寄せ、異界を繋ぐ門となるためだけの――』


「違う……」


『違わない。お前をそうしたのは、“彼ら”だ』


「……彼ら?」


鏡の中の俺が、ニヤリと口元を吊り上げる。


『喰う者、継ぐ者、拒む者。

 彼らが生み出した因果を、お前はずっと押しつけられてきたんだよ』


頭の奥で記憶がフラッシュする。

教室で怯える空閑。

静かにこちらを睨む久野瀬。

そして、何も繋がらない笑顔の柊。


「嘘だ……あいつらが、俺に何かしたって言うのか……?」


『お前自身が知っているはずだ。

 なぜ彼らが“力”を手に入れたとき、お前だけが“何もなかった”のか』


その言葉に、俺は動けなくなった。


何かが、俺の中で崩れていく。


鏡の中の俺が最後に言った。


『この世界のノイズは、お前じゃない。

 ――彼らだったんだよ』


そして、鏡の像はゆっくりと元に戻った。


そこに映っているのは、いつもの俺。

けれど、もうそれを俺とは思えなくなっていた。


「……じゃあ、俺は、誰なんだよ……」


呟いた問いに、誰も答えなかった。












第5話「夢の外、世界の底」、ご覧いただきありがとうございました。

今回初めて天城の視点が登場しました。

次回、第6話「交錯する因果」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ