表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/36

夢の外、世界の底(2/3)

放課後の教室には、俺と柊だけが残っていた。


窓から差し込む夕焼けが、教室の中をぼんやりと赤く染めている。


俺は思い切って柊に尋ねた。


「なあ、柊。お前、昔から俺のこと覚えてるよな?」


柊は、ゆるく微笑みながら頷いた。


「うん。当たり前じゃん。天城晃は、最初からここにいたよ」


最初から、ここに。


その言葉は不思議な安心感をくれるはずだった。

だが、逆だった。俺の中に、静かな恐怖が広がった。


「……俺、本当に俺なのかな」


つい漏らしたその言葉に、柊は一瞬だけ目を細めた。


「じゃあ、誰だと思うの?」


その問いは、あまりに無邪気で、あまりに鋭かった。

柊の笑顔が、やけに白く見える。


俺は言葉を失った。


答えが出ないまま、その問いだけが頭の中で繰り返されていた。


――じゃあ、俺は誰なんだ?


帰り道。街はやけに静かだった。


気がつけば、通行人もいない道に立っている。


足元が滲んでいるのに気づいた時、すでに視界は歪んでいた。


「あ、やべぇ……」


それは“にじみ”だった。

空閑たちが戦っている、“あれ”が俺の目の前で現れた。


でも、今日のそれは、少し違った。


異界は街を飲み込みながら、俺を中心に静止しているように見えた。


「……やめろ」


自分でも驚くほどはっきりと、そう口にした。


その瞬間、にじみが止まった。

まるで俺の言葉を待っていたように。


そして次の瞬間、街を覆っていた霧が一気に俺に吸い込まれる。


「ぐ……う……」


意識がぶれる。


俺の中に、いくつもの記憶が流れ込んできた。

泣いている子供、怒っている老人、笑う女性――すべて見知らぬ人間の記憶だ。


全身が震えた。立っているのもやっとだった。


「……なんだよ、これ……」


でも、俺はその意味をわかっていた。


これが、俺の役割だとでも言うのか――?












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ