夢の外、世界の底(1/3)
今回の物語は、天城晃の視点で描かれます。
彼はただの平凡な少年のはずでした。
けれど、その日常は少しずつ、
誰かの記憶で塗り替えられていきます。
「自分が自分ではない」――その違和感が、
やがて彼を物語の中心へと導きます。
最近、妙な夢ばかり見る。
真っ暗な空間の中に、扉がいくつも並んでいる。
それを一つ開けると、知らない教室、知らない景色、知らない人の声が溢れ出す。
その一つに、見覚えのある顔を見つけた。
『空閑、湊……?』
廊下の隅で震えている彼の姿が見える。
怯えていて、泣きたくても泣けない、そんな表情だった。
別の扉を開けると、薄暗い和室があった。
少年が誰かの葬式のような場に立っている。
その顔――久野瀬朔だった。
さらに次の扉を開くと、柊真澄が立っていた。
けれどその視界はぼやけ、誰の顔も映していない。
ただ、自分自身の手だけを静かに見つめている。
俺は混乱した。
これは、俺の夢だ。なのに、どうして俺がいない?
『これ……誰の記憶なんだよ……』
そのとき、闇の底で誰かが囁いた。
『お前のものだよ。天城晃』
翌日。
教室に入ると、また“それ”が始まった。
生徒たちの声がノイズのように響く。
人の顔がぼやけ、目が合った瞬間に知らない記憶が混ざり込む。
ノートには、俺の手で書いた覚えのない落書きがされていた。
『世界のノイズはお前だ』
俺はその文字を急いで消した。
目の前に久野瀬朔が通り過ぎた瞬間、俺の中で低い男の声が響く。
『……継いでいけ。久野瀬の記憶を。封じるのは俺たちの宿命だ』
俺は頭を抱えた。
何だよ、これ……。
そしてその視線の先、空閑湊がいた。
空閑と目が合った瞬間、“喰われる怪異”の記憶がフラッシュバックした。
『喰われたくないなら、喰え』
その言葉は、俺のものだったのか?
「……おい、空閑」
思わず呼びかけると、湊が怯えた目をした。
「……な、何だよ、天城」
「俺、お前になんかしたか?」
「……え?」
空閑の戸惑う表情が、逆に俺の不安を掻き立てた。
もしかして俺は、本当に何かをしたのか――?