追跡者と追われる者(3/3)
怪異が消えたあと、残されたのは静寂だけだった。
崩れた空間、歪んだ光、鈍い耳鳴り。
それら全てが、真澄が一歩を踏み出した瞬間に“止まった”。
僕は呆然とその背中を見つめていた。
柊真澄。
いつも笑っている、誰とでも話せる、やさしい少年。
でも――そのやさしさの中には、
何も繋がらない静寂が広がっていた。
「……ねえ」
真澄が振り返る。
「俺ってさ、怪異に嫌われてるのかな」
言葉が出なかった。
その夜、僕はベランダで空を見上げた。
湿った夜気の中、風が音もなく揺れている。
スマホの画面が通知を弾いた。
──《天城晃:おい空閑。今、変な夢見た。お前らが全部、俺の中にいた》
心臓が跳ねた。
次の瞬間、画面がノイズに包まれる。
白い、ギラついた光だけが、映っていた。
その光は、まるで“誰かの目”のように見えた。
翌日。
教室に入ると、天城が窓際に立っていた。
「なあ空閑。俺さ……夢の中で、お前に名前を呼ばれた気がすんだよな」
「……俺?」
「ああ。久野瀬にも、柊にも。
でも、誰も俺の名前を呼ばなかった。だから、俺、自分の名前がわからなくなって――」
そこで言葉が止まる。
天城は僕を見たまま、微笑んだ。
その目の奥に、うっすらと“異界の色”が揺れていた。
第4話「追跡者と追われる者」、ありがとうございました。
今回は、初めての三人同時バトル回でした。
そして天城晃。
いよいよ、彼の中に“異界の何か”が芽を出し始めました。
次回――第5話「夢の外、世界の底」