表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

追跡者と追われる者(2/3)

その怪異は、人の形をしていた。


でも明らかに“人ではない”のは、動きだった。

関節が逆方向に曲がる脚、ぶら下がった首、

擦れたようなノイズだけを吐き出す口。


「あれ、喋ってないか……?」


よく耳をすませば、確かに言葉のようなものが混じっている。


「……来る、あれは拒絶者……“拒む者”……に、近づけば……」


そして真澄が、何気ない足取りで近づいた瞬間。


『ひ……あ゛あ゛あああアアアアアアァァ……!』


怪異が悲鳴を上げた。

全身が震え、煙をあげながら、粉々に霧散していく。


まるで――真澄の存在そのものが、“毒”だったかのように。


僕は、声を出せなかった。


あまりに一方的で、あまりに静かな死だった。


「……真澄、今のって……」


「え?あ、近づいたら勝手に消えちゃった。逃げてたから、止めようと思っただけで……」


首を傾げて微笑むその姿が、いちばん、こわかった。


そのとき、空間が“割れた”。


まるで怪異が残した“記憶の断片”が逆流するように、

廃工場の空気がぶわっと歪んでいく。


「記憶の渦が漏れ出している……!」


朔が札を構えるが、押し返される。


「くっ……湊、今のお前なら、喰えるか!?」


「試すしかねぇだろ……!」


僕は叫びながら、闇の中心へ突っ込んだ。


頭の奥で、何かが囁く。


——あれはかつて、人間だった。

名前を呼ばれず、忘れられ、怯え、そして“記録”になった怪異。


それを、僕は喰う。


悲鳴ごと、痛みごと、記憶ごと。


周囲の空間が安定しない中、朔が封札を重ねる。


「“封止せしは名なき記録、永久に静謐へと還れ”!」


結界が収束し、記憶の霧が薄れていく。


だが最後の断片が残った。


怪異の“残響”が空間に滲む。


「お前たちではない……あの白いのが……“喰えない”から……逃げた……」


真澄が、一歩、踏み出す。


その瞬間、異界空間が完全に崩壊した。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ