表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

喰われる前に喰え(1/3)

これは、いじめられっ子が世界を変える話ではない。


ただ、世界の片隅で“誰にも気づかれなかった”少年が、

ある日、恐怖に喰われて、そして喰い返す物語だ。


この世界には、目に見えない“境界”がある。

それを越えてしまった少年たちの、

異界との接触録――


『異界境界録』、開幕。

僕は、世界のノイズだった。


誰かが僕を見て、声をかけて、そして次の日には忘れる。

ノートを貸してくれたクラスメートが、数時間後には「誰?」と言う。

机の中に仕舞った教科書が、勝手に捨てられたことになっている。


「存在感が薄い」とか、そんな生やさしい言葉じゃない。

僕は、本当にこのクラスに“いない”のだ。


「おーい空閑(くが)、おまえまだ消えてなかったの?」


笑いながら絡んできたのは天城(あまぎ)(あきら)だった。

同じクラスの男子で、なぜか僕の名前を間違えずに呼ぶ唯一の人間だ。


「……うん」


僕はそれだけ答えて、天城の視線を避けた。

どうせこれも、ただの気まぐれだ。


チャイムが鳴って、ホームルームが始まる。

先生が出席を取り始める。

当然のように、僕の名前は呼ばれなかった。


「先生、空閑くん、今日いますけど」


声を上げたのは女子の一人――白川だったか?名前は覚えてない。

でも先生は、キョトンとした顔で黒板を振り返る。


「……空閑くん? 誰だっけ、()()


冗談じゃなかった。

僕は、今日もこの教室から“はみ出している”。


下校途中。

西日が傾き、人気のない体育館裏に足を向けたのは、ただ静かでいたかっただけだった。


でも――そこに“いた”。


それはランドセルのようなものだった。古くて、黒ずんで、口を開けたようにぱっくりと裂けていた。

中から、じっとりと濡れた音が聞こえる。


ぞわり、と背筋に寒気が走った。


「……誰か、いる?」


問いかけた瞬間、

“それ”は動いた。


ぐにゃりと、ランドセルの影が伸びる。足元のアスファルトが、ねちゃねちゃと蠢き始める。

影が足首を這い、喉元へと迫る。


声が出ない。

手も足も動かない。

頭の奥で、何かが割れるような音がした。


そして、僕は――飲まれた。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ