第9話 「見た目も財布も…氷の洞窟での試練」
*この作品には…過度な飲酒描写と喫煙描写が含まれていますので、
苦手な方は ブラウザバックして下さい(震え声)作品中の行為や行動について
よい子の成年は絶対真似しないでください(注意喚起感)
なお、お酒とたばこは20歳になってから…容量・用法を守って
正しく摂取してください(未成年への注意喚起感)
村を後にし、ロイド一同はまた旅に出ていた。
牧師ルーファスの言葉によれば――
「この先の氷の洞窟を越えた場所に、魔王に関する情報を知っている者がいる」
その一言を頼りに、勇者パーティは極寒の山道を歩み続けていた。
そして、今――
氷の洞窟は目前に迫っていた。
極寒の風が容赦なく吹き荒れ、雪が視界を曇らせる中。
ひときわ哀愁を帯びた絶叫が、あたりに響き渡る。
「なんで俺だけいつもの格好なんだよぉぉおおお!!!」
雪原に立ち尽くすロイドの姿は、まるで“間違ったコスプレ”。
ミニ丈のスカート。ピンクの網タイツ。キラキラのハイヒール。
背中ではフリフリのリボンが元気よくたなびいている。
「なんで!?なんでみんな防寒してるのに俺だけこの格好なんだよ!?」
その問いに、ぬくぬくダウンジャケット(社名ロゴ入り)を着込んだリー・アルが、満面の笑みで答える。
「シャッチョサン、それはワタシの営業戦略アルよ」
「営業……戦略だと……?」
リー・アルは空中にA4サイズのプレゼン資料をパッと展開する。
“プロジェクト・スカマホ”と書かれたその文字が、不穏な輝きを放つ。
「“星空のスカート魔法使い”ってブランドを広めるために、ワタシが会社に企画を通したアル!
だからその衣装、今や広報用衣装アルよ!脱いだら違約金発生アル!」
「なんでそんな呪いみたいな契約成立してんだよおおお!!」
「今、地下アイドル界隈と変態ファッション層で話題沸騰アル!スカマホVer.氷、今冬の目玉商品アル!」
「やめろォォォ!そんなラインナップいらねぇよ!!寒いんだよ!!」
一方で――
コトは和柄の羽織にくるまり、湯気の立つどぶろくを手にしていた。
「拙者の装備、自前の旅館土産……保温性抜群でござる……」
リリィも高級感あふれる白マフラーを優雅に巻きつつ、煙をくゆらせていた。
「わたくしの装備も自前ですの。煙も熱も逃さない――まさに信仰と実用の融合ですわ」
「お前ら!なんでそんなに準備万端なんだよ!?俺なんて今スカートが凍って“カチン”って音したんだけど!!」
その言葉通り――
ロイドの網タイツがパリパリに凍りはじめ、スカートの裾は氷の彫刻のようにカチコチに。
「ううっ……寒……もうダメだ……動けねぇ……」
ガクン、とロイドが崩れ――
そのまま「カチィィィンッ!」という音を残して、完全に氷像になった。
「シャッチョサン!?氷像化!?これはイベントシーンアルか!?バグか!?」
コト「合掌……寒さに散った変態の魂に、黙祷を……」
リリィ「これはもう……祈るしかありませんわね」
しかしそのとき。
リー・アルの目がキラーンと光る。
「むふふ……ついに使う時が来たアルね……!」
彼女はロイドの左手首にある、キラリと光るアクセサリーに手をかざした。
「“簡単勇者ブレスレット”、緊急起動ッ!!」
ピピピッ――とブレスレットが光り、凍ったロイドの衣装全体がブルブルと震えだす。
そして次の瞬間!
ブォォンッ!!
ロイドのスカート、タイツ、ブーツにかけて、一斉に発熱エネルギーが展開!
蒸気を吹き上げながら氷が砕け、ロイドが蘇る!
「うおおおっ!?あったけぇぇぇえ!!ナニコレ!?すごいぬくい!!
え、これ……衣装そのものが発熱してる!?しかも自動保温!?まさか――!」
リー・アルがにこりと笑って指を立てた。
「そうアルよ。“簡単勇者ブレスレット”のオプション機能、
《寒冷地仕様・超微粒子ヒート加工(初回お試し30分)》で復活したアル!」
「やったー!ありがとな、リー・アル……いや~助かったわ!これで俺もやっと冬を越えられる……!」
その時だった。
リー・アルが、帳簿のようなものを取り出し、にっこり微笑んで言い放った。
「ただしこの機能、30分後からは……別途使用料金が発生するアル♪」
ロイド「………………………………え?」
「内訳は、防寒起動費12ゴールド、毎分加熱維持費1ゴールド、スカートヒラミ割増が2ゴールド追加で――」
「追加要素に“スカートヒラミ割増”!?なにそれ!?意味がわからない!!」
リリィ「契約書って……本当に読まなきゃだめなんですね……」
コト「拙者、契約と名のつくものはすべて“人生の罠”と教わったでござる……」
ロイドはがっくりとうなだれ、頭を抱えた。
「ぬくもりと引き換えに……財布が凍死する……!!」
リー・アルはブレスレットをトントンと叩きながら、朗らかに笑う。
「シャッチョサン、“ぬくもりは課金から”。
これは我が社の社訓アル!」
「そんな社訓があってたまるかああああああ!!」
こうして、ぬくもりを得る代わりに財布の命を失いかけたロイドを先頭に、
勇者パーティは氷の洞窟へと――ややテンション低めで突入していくのだった。
氷の洞窟とアイスゴーレム
キィィィィィィン……。
氷の洞窟の中は、思った以上に静かで、思った以上に寒かった。
天井から氷柱が下がり、足元には凍った地面がミシミシと軋む音を立てていた。
「……ロイド様、大丈夫ですの? その……冷え、ましてません?」
リリィがタバコをくわえながら問いかける。
「大丈夫なわけねぇだろッ!!ヒーター30分限定だって言われてるんだぞ!?残り20分しかねぇんだぞ!?残り湯みたいに言うなよな!?」
「シャッチョサン、使いすぎると追加料金発生アルよ?
“温風ブースト・ふとももモード”とか、細かく設定されてるアル!」
「もはや温風ヒーターの課金ゲーじゃねぇか!!」
その横で、コトが寒さに震えつつ、どぶろくの瓶を両手で包んでいた。
「拙者のどぶろくも……氷結寸前……このままでは“飲める氷柱”になってしまうでござる……」
「それはそれで新商品っぽくてイヤだ!!」
そんな冗談を交わしながら、洞窟の奥へと進む一行。
――その時だった。
ズズン……ズズン……と、地鳴りのような音が響く。
「シャッチョサン、前方に反応アリ!モンスター接近中アル!」
そして氷の壁を突き破って現れたのは――
全身が分厚い氷でできた巨人、アイスゴーレムだった!
「うわぁ……見た目からしてめっちゃ固そう……!」
「コト、いけるか!?」
その問いに、コトはどぶろくの瓶をぎゅっと握りしめた。
「へっ……やってやらぁよ!」
そして――ごくっ!と豪快に飲み干す!
ピキンッ!
コトの瞳がギラリと光り、表情が一変する。
「……うおおおおおッ!おいらをナメんじゃねぇええ!!」
「お、来たぞ……どぶろくモード……!」
「氷だろうが岩だろうが、酒さえありゃ斬れるってもんよッ!!」
酔気をまとい、ふらつく足取り――しかしその動きは予測不能。
まさに酔拳の応用、千鳥足殺法の極み!
「――千鳥足殺法・六ノ脚《霜酔の乱牙》ッ!!」
コトが氷壁を駆け登り、アイスゴーレムの胸に渾身の斬撃を叩き込む!
ズバァッ!!
「おおっ、効いたか!?」
――だが。
バリバリバリッ……
砕けた氷がみるみる再結晶化し、
アイスゴーレムの脚が再生していく。
「なんだと!?自己修復だと……!」
「再生はやッ!!…おいらのの一撃が……まさか無意味だったとは……」
「こいつ……セ〇並みだな……!」
「ドラ〇ンボールの世界からきたアル?」
だがその時、タバコの香りと共に、優雅な声が響く。
「ならば、わたくしが――追い風を差し上げます」
リリィがくわえタバコを深く吸い込み、紫煙を大きく吐き出す。
「――《煙魔法・セブンスター・加速の恩寵》」
煙がコトとロイドを包み、その身体能力を一時的に強化する支援魔法。
吹き込まれるのは、ニコチンと信仰と女神の祝福。
「リリィ助かるぜ!」
ロイドがリリィへ感謝しながら、タイマーの残り時間を見る。
《ヒーター残り:12分》
「時間ねぇ……!でもやるしかねぇ!」
網タイツのスカートをひるがえし、ポーズを決めて――
ラッパ飲みの時間だ!!(ウイスキーをぐびぐび)
「アル・チュープリズム・パワァァァァァァ・メイクアーーップ!!」
光が弾け、謎の音楽と効果音とともに現れる
スカートがさらに短く、網タイツがよりギラギラに、ヒールがより高く。
ピンクのオーラをまとい、変態魔法使いは再び降臨した!
「ブェクション!?なんだ一瞬氷かけたぞ!」
「変身時の体温、マイナス三度でございますわね……」
「祈るしかねぇ……ロイド殿の風邪が悪化しないように……」
寒さを気にせず変身したロイドは、スカートをまさぐり、中から今回の武器を引き抜く。
キラリと輝くスカート。氷の洞窟でも容赦なく煌めくヒール。そして……
スカートの奥から、今宵の武器――巨大氷結ブーメラン「クールミント・フロストスライサー」を取り出す!
「よし、合わせるぞコト!」
「上等だァ!!」
二人が走る。
氷を蹴り、空を裂き、迫るアイスゴーレムに向かって――
ロイド「――《変態奥義・凍解のグリッタースピン》!!」
コト「――《千鳥足殺法・七ノ脚《北酔の終刃》ッ!!》」
網タイツの華麗な回転蹴りと、酔いどれ侍の渾身の乱舞斬撃が交錯する!
ゴオォォォンッ!!!
ふたりの必殺技が交錯した瞬間、アイスゴーレムのコアが砕け散り、
巨体がガラガラと音を立てて崩れていく。
ドサァァァ……!
氷片が散る静寂の中、ロイドがヒールを鳴らして立ち上がる。
「よし……やった……!」
コトもフラつきながら、瓶を掲げてガッツポーズ。
「おいらの……どぶろく斬り、冴え渡ったろぉ……?」
「煙と酔いと変態で倒す魔物って、どんなRPGだよ……!」
リリィは満足げに煙を吐き出しながら、にこりと微笑む。
「まったく……信仰と肺に沁みる戦いでしたわ」
《ヒーター残り:1分》
「ヒーターもギリギリだったな……よかったよかった……」
その時、リー・アルがにこにこしながら近づいてきて――
パチンと、レシートのような明細をロイドの顔に突き出した。
「防寒機能でブーメラン装備でのスカート変形維持費、たったの追加15ゴールドアル!
あ、ヒーター3分延長ごとに5ゴールド、氷耐性補正10ゴールド、スカートの“ピラッ”演出強調補正が――」
「やめろォォォォ!!その“補正”項目、何項目あるんだよォォ!!」
「契約書に書いてアルね♪」
リー・アル契約書の小さなところ(虫眼鏡でようやく読める)を指した
「こんなとこ読まねぇし、読めねぇだろぉぉぉぉ」
「シャッチョサンが契約書をよく読まないのが悪いアル♪」
「ちなみに、洞窟脱出までに合計7回延長されてるアルから、合計で――」
「言うな!数字で言うな!俺の精神が解凍される前に破砕される!!」
コトが瓶を振りながら笑う。
「借金、増えすぎて逆に気持ちいいなァ、シャッチョサンよぉ!」
「全然気持ちよくねぇわ!!むしろ凍えるわこの残高ッ!!」
リリィはにっこり微笑んで、煙を吐き、タバコを灰皿(氷の破片)に押し当て、
「まぁ、命があるだけでも安い買い物ですわよ?」
「お前、宗教的にまとめようとしてんじゃねぇよ!!」
だが、現実は残酷だった。
結局――
ロイドは氷の洞窟を抜けるまで、計7回の“防寒維持延長オプション”を自動適用され、
そのたびに着実に課金が重なり、気付けば借金は前回の倍に膨れ上がっていたのだった。