第7話 「星空のスカート魔法使い…炎の山での戦い」
*この作品には…過度な飲酒描写と喫煙描写が含まれていますので、
苦手な方は ブラウザバックして下さい(震え声)作品中の行為や行動について
よい子の成年は絶対真似しないでください(注意喚起感)
なお、お酒とたばこは20歳になってから…容量・用法を守って
正しく摂取してください(未成年への注意喚起感)
灼熱の火山地帯――。
赤黒くうねる岩肌、地鳴りのようなゴボゴボ音を立てる溶岩池。空気は熱波でゆらめき、まともに歩くだけでも命がけ。だがその中を、のんきに三人組が歩いていた。
「なあ、リー・アル……お前の言ってた“近道”って、これのことか……?」
ロイドが額から流れる汗を拭いながら、隣をふわふわ飛ぶ小さな妖精に鋭い視線を投げた。
「そうアルよ!この道こそ、最短最速、金脈一直線アルね!」
リー・アルは片手に契約書の束をパタパタさせ、胸を張る。
「本当だろうな?オレの靴、もう溶けかけてるんだけど?」
しかし、ロイドの視線に気圧されたリー・アルは、急に視線を泳がせた。
「……実はナビはちょっと……テキトーだったアル。」
「テキトーっておい!ふざけんなよ!!」
ロイドがブチ切れかけた瞬間、後ろから一歩、静かに現れたのは――
侍姿の青年、コト。腰に差した二本の刀をカチャリと鳴らしながら、落ち着いた声で言う。
「ロイド殿、妖精に逆らうのは愚策でござる。拙者の経験上、ここは黙って従うのが最善でござる。」
「なにその“経験”!?どんな侍人生歩んできたらそうなるんだよ!?」
「火山にて三日間迷子になった後、溶岩に飛び込んで生還したことがあるでござる。」
「もう突っ込む気力もねぇよ!」
リー・アルが誇らしげに空中でぐるぐる回りながら言った。
「安心するアル!ナビはちょっとポンコツでも、フレイムワームっていう高額賞金モンスターがこの火山には生息してるアルよ!金欠の冒険者には最適アル!」
「お前、道案内より営業トークのほうが10倍うまいな……」
「シャッチョサン、月末の家賃払えなかったら大変アルよ〜?」
「うぐっ……ぐぬぬ……」
ロイドが悔しげに歯を食いしばっていると、コトが真顔で進言した。
「拙者もそろそろ財布がスカスカでござる。ここで資金を得ねば、どぶろく代も刀の研ぎ代も払えぬ。」
「お前も地味に困ってんじゃねーか!」
その時、のどが乾いたのか…コトがふと腰のどぶろくを一口飲み始める。
その姿にロイドが背筋を凍らせた。
「やべえ…また、こいつ…」
目が据わっていくコト。言葉遣いが変わる。
「おいらのどぶろくがなくなりかかってるってことは……つまりそろそろ暴れる時間ってことだな……!」
「人格変わったー!!やめろ今は真面目な侍モードに戻れー!!」
「フフ……フレイムワーム、震えて待ってるがいい……おいらの刀の錆にしてやるぜぇ……!」
リー・アルが空中でくるくると一回転して言う。
「よーし!営業モードから戦闘モードにチェンジアルよ!目指すは一攫千金アルね!」
「もう全員、テンションおかしいんだよこのパーティ!!」
老婆カレンとの出会い
火山の麓、小さな石造りの小屋の前に、三人は立っていた。
もはや恒例とも言える、変な依頼の気配がぷんぷんしている。
そこに現れたのは、杖をついた腰の曲がった老婆。目が光っている。
「お前さんたち、火山に行くのかい?」
「……まあ、そんなとこだな」
ロイドがうなずくと、老婆はニヤリと笑いながら一歩前に出る。
「ならあんたたちに頼みがあるんだよ。火山に続く洞窟は入り組んでてな、地図がないとすぐ迷う。地図を教えてやってもいいよ。ただし――その中で暴れてるフレイムワームを倒してくれたらの話だ。」
「うわ、絶対なんかあると思った!」
ロイドが頭を抱える横で、リー・アルがノリノリで宙返りした。
「シャッチョサン、これは金と名声を稼ぐ大チャンスアルよ!」
「お前は毎回そう言ってるけど、だいたい俺が燃える役なんだよ!」
「炎の中で舞うスカート魔法使い!映えるアルね~!」
「やめろその二つ名で呼ぶなあああああ!!」
その叫びに、老婆の眉がピクリと動いた。目を細め、ロイドの顔をじっと見つめる。
「……待てよ。あんた……どこかで見た顔だと思ったら……」
老婆がびしっと指を突き出す。
「星空のスカート魔法使い!!いまだに村の掲示板でネタにされてるよ!“星降らせて脚も見せる、夜の変質者”ってねぇ!」
「そのコピー誰が考えたのほんとに!!俺はまともな魔法使いなんだよ!!」
「まともがスカートひらっひらなわけないだろうが!」
老婆はプイと顔を背けた。
「変質者に地図は教えたくないけどねぇ……腕だけは確かって聞いてるからさ。倒してきな、フレイムワーム。話はそれからだよ、 星空ミニスカ魔法使いさん。」
「グレードアップしてるーーー!!」
そのとき、後ろでガチャガチャと酒瓶をぶら下げながら、千鳥足の侍が登場。
――コトである。いつの間にかどぶろくを飲み切っていた。
「へっへっへ……もうちょっとで酔いの極意に達するぞぉ……」
足元ふらつきながら、目がギラリと光る。
「こらコト!飲みすぎてんぞ!今だけはマトモでいろ!」
「フッフッフ……心配ご無用、おいらがいれば一撃必殺だ……!」
「おいら!?」
リー・アルが爆笑しながら回転。
「出たアル!酔うと人格が変わる侍アル~!」
「おいらは“千鳥足殺法”の継承者……ふら~っとかわして、くるんと転び、ズバッと斬る!三拍子揃った必殺剣なんだぜぇぇぇ!」
「転ぶの前提なの!?」
老婆が首をかしげる。
「……こいつら、ほんとに大丈夫なのかい?」
「それはこっちのセリフなんだよ……」
ロイドは額を押さえながら、フレイムワームのいる洞窟の方を見やる。
遠くから、ゴゴゴゴ……と不気味な地鳴り。
「どうせ行くしかないんだろ?もういいよ、派手にやってやるよ!」
「シャッチョサン、スカートひるがえして登場アル!」
「やめろそのナレーション口調!!」
「おいらも……フレイムワームのど真ん中で、酔いの極みに達する……!」
(※おいら=今のコト)
フレイムワームの襲撃
灼熱の洞窟にて、一行は巨大な魔獣――フレイムワームと対峙していた。
マグマのような鱗を身に纏い、地面を蠢くその巨体。咆哮とともに高熱の風が吹き荒れる中、最初に前に出たのは、一人の女侍――コトだった。
「……おいらが最初にいくぜ」
ピシリと結んだ黒髪に揺れる赤い紐。着崩れた羽織の下に、刀が二本。だがその足取りは妙にふらついている。
「おいおい……大丈夫か?」とロイドが思わず声をかけるが、返事の代わりに彼女は前へ踏み出した。
「千鳥足殺法・一ノ脚《紅梅の斬》!」
ふらつき、滑るような踏み込みから、繰り出される斬撃は美しく、鋭かった。まるで紅梅の花が一瞬だけ咲いては散ったような一閃。フレイムワームの腹を浅く裂く。
「……すげぇ……」
ロイドが呆れるほどに見事な一撃。しかし次の瞬間――
「……あれ、ちょっと……あれ……?」
ぴたりとコトの動きが止まり、そのまま膝をついた。
「え、ちょっ、どうした!?」
ロイドとリー・アルが駆け寄ろうとする中、コトはしょんぼりとうつむき、呟いた。
「……おいらの……どぶろく、切れちゃった……」
「え、酔ってないと戦えないの!?」
ロイドが叫ぶ。
「そんな設定知らなかったアルよ!?契約書に書いてないアル!」
コトはその場にぺたんと座り込み、しゅんとなった。
「……正直、シラフだと緊張しちゃって……足、つるんだよね……」
「いや可愛いかよ!!いやダメだろ!!戦闘中に!!」
ロイドは慌ててポーチを探り、旅先で入手したビールを取り出す。
「もういい!俺が行く!!今回はこれで……!」
瓶を一気に飲み干すと、体内に炭酸の魔力が広がっていく。小さく息を吸い、叫ぶ。
「アル・チュープリズム・パワーメイクアップ!!」
光が彼を包み、旅人の服は消え――代わりに、フリル付きの極短ミニスカート、ピンクの網タイツ、ラインストーンがぎっしりのハイヒール、そして背中には不明な用途のリボン型飾りが舞う。
「今日も最高アル!」とリー・アルが満面の笑みで飛び回る。
ロイドは顔を引きつらせながらも、右手に具現化したビール泡ハンマー《シュワシュワ・クラフトハンマー》を構え、突撃。
「冷却と泡の力、今こそ活かすぜ……!」
ロイドの攻撃がフレイムワームのブレスを打ち消し、その隙に彼はスカートの中をごそごそと探り、缶ビールを一本取り出す。
「これだ……コト!」
彼はそれをどぶろく瓶に注ぎ、投げ渡す。
コトはそれをキャッチし、ごくごくと飲み干す。
「……ああ……おいらの酔い、帰ってきたぁぁ……!」
ふらりと立ち上がり、再び構える。
「千鳥足殺法・二ノ脚《酔燕の舞》!」
乱れ舞うその姿は、酔っているのに妙に優雅で、的確だった。ロイドも続いて突撃。
「スターライト・スパーキング・ジョッキブレイク!」
二人の攻撃が決まり、フレイムワームは崩れ落ちた。
勝利の余韻が漂う中、二人は肩で息をしながら並んで立った。
……が。
「ねぇロイドさぁん……おいら、今めっちゃキテる気がするのよ……!」
「……は?」
「今なら五十人くらい斬れる気がするぅぅう!!さあ、次は温泉!温泉行こう!混浴!!」
「おいやめろ!落ち着け!冷静になれ酔侍!」
コトはヒラヒラと自身の羽織を脱ごうとし、ロイドは慌てて羽交い締めにする。
「リー・アル!なんとかしてくれ!」
「無理アル。酔いがまわったコトさんは最強アルよ。物理的にも精神的にも。」
「こいつ本当に侍なのか!?」
「むしろ“酔い武者”アル」
「誰がうまいこと言えと!!」
戦いの余韻がまだ熱く残る洞窟の出口で、コトは静かにその場に座り込み、ぽつりとつぶやいた。
「……おいら、もう……酔い、まわったから……ねむい……」
そう言った瞬間、ぐらりと身体を傾け、ふかふかの火山灰の上にそのまま崩れ落ちた。
「お、おい!今寝るのかよ!?」
ロイドが駆け寄るが、女侍のコトはすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。手には空になったどぶろく瓶、頬はほんのり赤い。武士の気配はどこにもなく、ただの酔っ払った女の子が一人、ぐうぐうと夢の世界に旅立っていた。
「完全に寝てるアルね」
リー・アルが小さく拍手した。
「拍手するな!この状況わかってんのか!?おぶって帰るの俺だぞ!?」
「シャッチョサン、”勇者”アルよね?”勇者”なら”仲間”を見捨てるはずがないアル!」
「そういう問題じゃねえよ!!」
仕方なく、ロイドはコトの背中に回り、そっと抱き上げた。酔っているせいかコトの体は妙に力が抜けていて、背中にピタリとくっつく。
「……おい、変なとこ当たってるぞ。いや、気にするな俺……俺は今ただの運搬人……」
赤面しながらも、ロイドはゆっくりと歩き出した。ハイヒールをカツカツ言わせながら、網タイツとミニスカートの魔法使いが、酔いどれ女侍を背負って歩くという構図――誰がどう見ても、通報一歩手前の絵面だった。
そして、ようやく火山の麓の老婆の住む、あの小さな石造りの小屋にたどり着いた。
戸口でこちらに気づいた老婆が、ぎしぎしと杖をつきながら顔を上げた。
「……ん?」
ロイドの姿を見た瞬間、老婆の表情が固まった。
ピンクの網タイツ。
キラキラのハイヒール。
フリルミニスカートの下から覗く全力の脚線美。
そして、背中におぶわれているのは、ほろ酔いで熟睡中の若き女侍。
しばらく沈黙のあと、老婆はぽつりと呟いた。
「……あんた……見た目だけじゃなく、心も本物の変質者だったんだね……」
ロイドの顔がピシィと引きつる。
「ちっ、ちっ違う!これは違うんだ!コトが酔って倒れたから!で、俺がたまたま運搬係で!」
老婆は視線を鋭くしながら、言葉を重ねた。
「彼女が酔っ払ってるのをいいことに、よくもまあ堂々と……。人として大事な何かを火口に落としてきたんだねぇ……」
「ほんとに違うからぁぁ!!そもそも俺が女好きみたいな前提が間違ってるんだってば!!」
リー・アルがにこやかに言う。
「シャッチョサン、もうここまできたら誇るべきアルよ。変質者の中の変質者、プリズムの頂点アル!」
「誰が変態界のプリズムだぁぁああ!!」
老婆は何かを悟ったように目を閉じ、巻物を静かに差し出した。
「……地図はここにあるよ。もう何も聞かない。好きなように……生きなさい」
「この空気やめろぉぉおお!!!」
一方、背中のコトは夢の中で小さく呟いた。
「……うへへ……ロイド殿、今度は……おんぶじゃなくて……おひざに……」
「やめてえええええ!!誤解が加速するううう!!」
こうして、変質者扱いがいよいよ公式認定となったロイドと、酔い姫コト、そして爆弾発言製造機リー・アルの次なる冒険は――一層カオスな香りを帯びていくのだった。