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第七話 山頂の攻防1

 冒険者たちは、ミハイルと名乗った少年の案内で叛乱軍の拠点へと足を運んだ。

 王都ブラッルーから程近い山岳地帯である。

 ここに、王都侵攻作戦のための物資などが蓄えられているという。


「敵陣へ深く進行すればするほど補給路は長くなり、輸送にも連絡にも困難をきたすっていうからね。

 侵略戦争に付き物のパラドックスよ」

「その矛盾を整合するためには?」


 シェルフィが訊ね、


「戦略上の橋頭堡を、補給や編成の拠点を攻撃目標近くに建設する」


 ごく簡単に応えるアナスタシア。

 まったく、言うのは簡単だ。

 どこの馬鹿が、自国の王都近くにそんなものが作られるのを黙ってみているというのか。


「でも、現実にだいぶできてるじゃねーか」


 イスカが叛乱軍キャンプを見回す。

 いくつものテントが立ち並び、女性兵や少年兵たちが忙しく動き回っている。

 総兵力はざっと五〇〇ほどか。

 大軍とはいえないが、補給拠点ならばこんなものだろう。


「ジョシュアと申したか。

 ここに布陣したのはいつのことじゃ?」


 王都での惨劇の後、黙りがちだったティアロットが、叛乱軍のリーダーに声を掛けた。

 二週間ほど前、という回答を得て、さらに考え込む。

 なにかがおかしい。

 王国軍はたしかに追いつめられているのだろう。

 あのような虐殺は、順境にあるならば行う必要がない。

 となれば、叛乱軍の大攻勢が近いのも頷ける。

 追いつめたからには、たたみかけないと意味がないのだ。

 そのための補給拠点というのも、考え方としてはよくわかる。


「じゃが‥‥」

「どうしたんですか?

 ティアさん」


 考え込む仲間に小首をかしげるスピカ。 

 彼女にはまだ、戦術レベルでの判断は難しい。

 それを理解するのは、パーティーではアナスタシアとシェルフィくらいのものだろう。

 一応はカールレオンも軍学校の学生だが、彼は考えるより身体が先に動くタイプだ。


「どうして王国軍は拠点が完成するまで待っているのかってこと?」

「たしかに、それもある」


 神妙な顔でティアロットが頷く。

 王国軍の力が衰微していて攻勢をかける余裕がないのかもしれない。

 考えられる事態ではあるが‥‥。


「だからこそ、死に物狂いの攻撃を仕掛けてくるのではないか?」


 疑問がわだかまる。

 ここに橋頭堡を築かれたら終わりではないか。

 その程度のこともわからないほど、アリーズ王国には人材がいないのだろうか。

 然らず。


「もしかしたら、待っていたのかも‥‥」


 唇に指を当てたアナスタシアが呟いた。

 彼女もまた、この状況の危険度に気が付いたのだ。

 すなわち、


「敵襲っ!!」


 突然、大声が響き渡る。

 哨戒活動をおこなっていたものたちが、王国軍に出くわしたのだ。


「敵数およそ四万っ!!」


 大部隊だ。

 ここの戦力は五〇〇を超える程度。

 太刀打ちできるような兵力差ではない。


「大丈夫だ!

 我々の援軍も近くまで来ている。

 それまで持ちこたえれば良い!

 それにここは山頂だ!

 天然の要害なのだ!!」


 ジョシュアが味方を鼓舞している。

 志気が上がる兵士たち。


「ティアロット‥‥私、もういっこ気づいちゃった」

「儂もじゃ。

 これは少々まずいぞ」


 ささやきあう。


 五〇〇しかいないという事実。

 山頂に布陣しているという事実。

 援軍がくるという事実。

 危機的状況だ。


「どうしたんだよ? サーシャちゃん」


 急に険しい顔つきになった恋人に、イスカが声をかける。


「この拠点そのものが罠だということじゃ」


 応えたのはティアロットである。

 仲間たちが怪訝そうに見る。

 むろん魔法使いの少女は説明するつもりだった。

 王都に攻め上がるための軍勢が、たった一万や二万ということはあり得ない。

 少なくとも、一〇万は揃えているだろう。

 ということは、王国軍がたかだか四万の戦力で拠点を奪ったとしても再奪還されるだけだ。

 まして、ジョシュアが言うように天然の要害ならば、攻略する前に叛乱軍の増援が到着して、最悪、挟撃される可能性がある。


「なら、なんで王国軍は攻めてきたんだ?」

「簡単だよ。

 レオ。

 彼らは知らないんだ。

 援軍が近づいていることを」


 冷たい汗を滲ませ、シェルフィが応えた。

 王国軍がこれまで攻めなかったのは、拠点の完成を待っていたからだ。

 理由は完成した拠点から物資を奪い取るため。

 そして叛乱軍は、王国軍がそのタイミングで攻勢をかけることを知っていた。

 だからこそタイムリーに援軍が到着するのである。

 つまり、王国軍の主力を一挙に包囲殲滅するための壮大な罠というわけだ。


「ちょっと待てよ‥‥じゃあここの連中って‥‥」


 イスカの言葉。


「見てわからぬか?」

「いや‥‥」


 ティアロットの反問に首を振る。

 まともに戦力としては役に立たない少年兵や女性兵ばかり。

 何を意味するかは一目瞭然だ。


「捨て駒‥‥か」


 認識は苦い。


「どうする?」

「ここまできたら選択肢は二つしかなかろうな。

 さっさと逃げるか、あるいはこやつらを一人でも多く逃がすために戦うか」

「女子どもばかりなんだぜ。

 見捨てられるわけねぇだろ」


 カールレオンの言葉。

 軽く肩をすくめるティアロット。

 こういう結論になるだろうということは、だいたいわかっていた。


「じゃが、物資はあきらめるしかないぞ?

 それは良いな?」


 念を押す。

 少女の視界のすみが赤く染まった。

 敵兵が、もう近くまで侵入しているのだ。


「時間がないようじゃな。

 手短に作戦を説明する」

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