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歓迎のバーベキュー 2



 ――というわけでオーダム家の調理場にてバーベキュー準備の開始よ!


 バーベキューの定番と言えばまずお肉だろう。この世界のお肉は魔物肉が主流ではあるが、簡単にいえば見た目がそれっぽい形をしているものが牛肉や豚肉や鶏肉のイメージである。ウィリアムたちが準備していたのはミノタウロスの肉だが、そこにオークとコカトリスも追加して三種のお肉をゲットしたら、それぞれ部位に合わせて食べやすいように切っていく。

 次に馬車旅で不足していた野菜ね。玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもにキャベツ、ネギとカブ。色んな種類の野菜を用意してくれていたので、それも食べやすいように切っていく。


 味付けは塩コショウも美味しいけれど、やはりバーベキューソースも欲しいところ。


 というわけでまずはトマトをみじん切りに、それを鍋にいれたら煮詰めていく。その間にすりおろしたタマネギ、ニンニク、水を別の鍋で煮て、さらにもうひとつの鍋にはシナモンやローリエも少々入れて酢を投入。初めに煮詰めたトマトをガーゼで裏ごししたら、すべてをあわせて塩、砂糖を加えてとろとろになるまで煮詰めてなんちゃってトマトケチャップの出来上がり。


 次にフライパンにバターを溶かし、小麦粉を加えてひたすらにかき混ぜながら炒めていく。さすがに重労働なのでコックたちが代わってくれたが、色が変わり始めて煙が出ると「焦げてませんか……?」と不安そうに見てきた。もちろんまだまだ止めないわ。やがて彼らが根を上げそうになってきた頃、焦げ茶色にまで炒められたそこにワインを加え、だまが出来ないようにさらに混ぜてとお願いする。成り行きを見守っていたウィリアムだが、彼お手製のブイヨンがあると聞いていたので――正しくは調理の前に調理場を物色したとも言う――それも加えて煮詰めたらブラウンソースの出来上がり。


 なんちゃってトマトケチャップとブラウンソース、それからすりおろしたりんごも少々混ぜ合わせたら、これでなんちゃってバーベキューソースの完成だ。

 ウスターソースのほうがいいのだろうけれど、あれって確か発酵させる必要があるような? という曖昧な記憶だったので今回は止めておいた。


 さて、ソースを作るあいだにソーニャとジェシカ、他のシェフたちには串焼きをお願いしておいた。

 厚切りステーキなどはそのまま焼きたいけれど、一口大にカットした各種お肉と野菜を好きなように串に刺してと頼んだのだ。

 結果、肉だけ・野菜だけの串もあれば、肉と野菜が交互に刺されたものもあるし、なんなら一番上と一番下が野菜であとはお肉がぎっしりなんて串もある。そんな串焼きの準備をする皆はとても楽しそうで見ているこっちまでわくわくする。

 そんな私に気づいたソーニャに「リアーヌ様はどんな串がお好きですか?」と聞かれ、ジェシカに手を引かれた。私はね、と応えながらソース作りしていた皆も混ざっていたら、いつの間にか大量の串が完成していた。


 やがて串を届けて一度どこかに消えた閣下が戻ってきた。なぜかその後ろに控えるアルノルドたちの目が死んでいた。一体なにが……? と尋ねる前に「庭にいらしてくだされば分かりますので……」と消え入りそうな声で言われたけれど、本当にどうしたのだろう。


 恐る恐るやってきた庭に、確かにそれはあった。



「ええと、ご説明しますね。火竜は脱皮するそうなのですが、そのとき貰ったとされる代々オーダム家が保管してきた火竜の皮を使って作ったのがこちらです」



 顔面蒼白なアルノルドが示す先、脱皮といわれたそれは確かに薄く濁ってはいるものの、赤々とした立派な鱗が並ぶ皮で作られたバーベキューコンロがあった。私が描いた絵を参考にして組み立てられたそれは確かにコンロの形をしているが、なんというか物々しい。

 蛇の脱皮の皮に大きな鱗が残っていて、さらにすごく分厚い……そんな材質で作られたバーベキューコンロを想像してみて欲しい。

 加えて言うと、本来網がある部分も火竜の皮がある。どうやったのかは知らないけれど、細く裁断されたものを格子状に重ねているようで、ちゃんと外せるようになっていた。


 形を伝えたら鉄で作ってくれるかと思っていたので、さすがにこれにはあ然とした。火竜って本当にいるのね、なんて小並感の感想しか出てこない。



「あ、あのう……閣下? 鉄で作った方がよろしかったのでは?」

「お前が望むものを鉄で作ることも可能だが、夜までとなれば難しい。そもそも必要があれば使えと受け継いだものだ。火に強い材質だからちょうど良かった」



 それはつまり私のせいということでは……? あぁ、今夜やりたいと言ったのは間違いだったのかしら。

 アルノルドたちと同じく顔面蒼白になりつつあると閣下が続ける。



「保管場所を見せるわけにはいかないが、まだまだ大量に余っているからちょうど良かったと言ったんだ。それに、お前はバーベキューはみなで楽しむものと言っただろう。みなで使うものならば必要だと思うが、違うか?」

「……そう言われてしまうと、違うとは言えませんわね」



 物々しいバーベキューコンロであることに違いはないけれど、必要があれば使えと受け継いだものを閣下なりに有効活用したというならまぁ……いいのかしら?



「いやいやいや、そんな素晴らしいものがあるならそれで防具を作れますよ! 最高級の防具ですよ!」

「そういった使い方は出来ないと言っただろう。火竜が今も実在すると知れたらどうなるか、お前も分かるだろう」

「ぐ……うぅ……っ! ですが、ですが閣下……! 剣を扱う者として、これほど尽くしがたいこの感情もお分かりですよねぇ!?」



 うっかり閣下の意見に納得しそうになっていれば、横から血の涙を流しそうな勢いで食って掛かるアルノルド。閣下はそんな彼に対してなんとも辛辣だが、まるで聞こえないとばかりにスルーしていらっしゃる。

 馬車旅仲間……というより戦闘をメインとする彼らにとって火竜の(脱皮した)皮はやはり喉から手が出るほど素晴らしいものなのだろう。まぁ、そうよね。前世の記憶でも竜って貴重な存在だったもの。あら? でも待って?



「ねぇアルノルド、私思ったのだけど……この火竜のコンロを使ってバーベキューを楽しむということは、つまり火竜のエネルギーを摂取するということではなくて?」

「………………かっ!?」



 火竜のエネルギー!?

 アルノルドと馬車旅仲間たちの声が重なった。耳がキーンとするほどの大合唱の圧に思わず仰け反る体を閣下が支えてくれる。



「そうか……そういうことになるのか……? これで肉や野菜を焼くって言ってたよな……? つまり摂取するという奥様の意見も間違ってはいない……?」



 真剣な顔で屈みながら円になり、ぶつぶつ呟く彼らの様子がちょっと怖い。やがて勢いよく立ち上がると、そこには晴れやかな笑顔があった。



「して、奥様! なにかお手伝いは必要でしょうか? 俺たちなんでもやりますよ、お任せください!!」

「あ、えぇ……あ、ありがとう」



 ――かくして、バーベキューコンロと材料が揃ったところでいよいよオーダム家の庭でバーベキューが始まった。


 なんでもやる、と言っていた彼らに具材の運搬やテーブル等の用意をお願いして、そのあいだに料理長ウィリアムを筆頭にコック数人で大きな火竜コンロで焼いていく。

 焼きあがるまでの間、私はソーニャとジェシカにも手伝ってもらいながら、こっそりウィリアムに作り方を伝えてお願いしていたサングリアを皆に配っていった。

 サングリアの作り方はいたってシンプル。フルーツを数種類チョイスして、適度な大きさにカットしたものをワインに漬け込んだら完成。甘味料としてハチミツと、風味づけにシナモンも加えている。ウィリアムが選んだオレンジ、ブルーベリー、ラズベリーがふんだんに漬け込まれたお手製サングリアだ。



「さぁさぁ、あなたたちも飲んでみてちょうだい」

「え……? ですが、私たちは……」



 私と仲良くなった馬車旅仲間やコックたちとは違って、他の使用人たちは受け取っていいのか悩んでいるみたい。ちらりと私の近くにいる閣下の様子を伺っているので、構わずその手に差し出した。



「バーベキューは皆で楽しむものよ。だから今夜はお屋敷にいる皆で楽しむつもりよ。ねぇ閣下?」

「……あぁ、そうだな。みなで楽しむものらしいから遠慮せず受け取れ」

「……お二人がそうおっしゃるなら……」



 同意する閣下の言葉がお許しとなり、困惑していた使用人たちもおずおずと受け取ってくれる。それに笑顔で応える私を見て、使用人たちもぎこちないながら微笑みを返してくれた。



「リアーヌ様、焼きあがりましたよ!」

「まぁ! さぁ閣下、早速召し上がってみて!」



 ウィリアムに声をかけられ、閣下の手を引き火竜コンロの近くへ。

 皆で作った串はもちろん、厚切りステーキにたくさんの野菜。どれもとても美味しそうでたまらない。



「塩コショウでもいいですし、こちらのソースもおすすめですわ」



 と、お手製バーベキューソースもばっちり勧めよう。

 しばし悩んだ閣下は肉をソースに絡めて食む。そして目を開いた。



「美味しいですか? 閣下」

「これは……とても美味いな」

「ふふふ。そうでしょう、そうでしょう」



 馬車旅で食べた焚火で炙ったお肉も美味しいけれど、バーベキューで食べるお肉はまた一味違う。それに今回はソースもあることで印象は大きく変わるはずだ。今までもそうだけれど、閣下はあまり美味しいものを食べても表情が大袈裟に変化することはない。ないのだけれど、なんだかとても嬉しそうなオーラが漂うのだ。黙って食べ続ける様子も決して頬張っていないのにそんな感覚を覚えて、見ていてとても愛らしいというか。



「リアーヌも食べろ」

「んむっ!?」



 もぐもぐしている閣下を使用人たち同様、微笑ましく見守っていたら唇に押し付けられたお肉。絡まるソースが零れないように急いで口を開いたら。



「んんん~~~~っ!!」



 口いっぱいに押し寄せる香ばしいお肉の匂いとうま味!

 お手製バーベキューソースに使用した食材たち本来の味が凝縮されて、それが噛むほどにあふれ出る肉汁と混ざりあうことで美味しさが何倍にも増している!

 焚火とは違う……さすが料理人であるウィリアム達が焼き上げたお肉は絶妙な焼き加減で、それがまた良いのだ。


 そんな口の中にワインより若干カジュアルめなサングリアを投入。

 熱々だったお口の中に流れ込むフルーティーな涼しさ……あぁ、この変化を一生ループしたい。



「しあわせ……」



 うっとり蕩けて呟いてしまうけれどまだ始まったばかりのバーベキュー、そう楽しみは続くのよ!


 お次はお肉と野菜が交互に刺された串焼きを頂こう。

 串の根元を掴み、ぱくりと先端のお肉をまるっとお口にご招待。あら、これはまた違うお肉ですわ。豚肉っぽいですわね。これはこれで甘みのある脂が塩コショウで引き立っていて、とっても美味しいわ。脂でこってりし始めたところで焼き目のついた玉ねぎを食めば、しんなりしつつもシャクッとした嚙み応えが残っていて爽やかだわ。


 ああ、焼いたお肉と野菜ってどうしてこんなに美味しいの……!



「美味そうだな」

「ふぁい……ほれはもう、んぐ……最ッ高ですわ!」



 隣で見ていた閣下に頷く。少ししてハッとした。


 閣下と私が食べる様子をずっと見ていた皆の動きが止まっていたのである。私ったらまたやってしまったわ!



「さ、さぁ皆さんも召し上がって? 遠慮なんてなさらないでね。美味しさの前では皆平等なのだから、皆で楽しみましょうね」



 自分だけ美味しさを味わってしまった罪悪感を誤魔化すように固まる皆に口早でそう告げる。私のこんな姿を何度も見ていたアルノルド率いる馬車旅仲間たちは笑い出し、そのあと焼いたお肉や野菜を我先にと貰っていた。彼らが「うっめぇええ!!」「このソースなんだ? すっげー合うぞ!!」「串に刺してあると食べやすいな!!」と騒ぎ始める声につられるようにして、ソーニャとジェシカやウィリアムたち使用人の皆も勢いよく食べ始める。


 いくら大きくても一台しかない火竜コンロで焼くのは時間もかかるけれど、待ち時間にはサングリアを片手に皆で談笑モード。

 広いオーダム家の庭のあちらこちらから笑い声が飛び交い、上も下も関係ない気楽な解放感にお酒も進み、酔っ払った誰かが歌い出したり踊り出したりしても、それがまた楽しくてしょうがない。


 私はテーブル席で閣下と二人、そんな皆の様子を眺めながら一足先にのんびりしていた。

 近くにはソーニャとジェシカ、バージルたちもいるけれど、彼らは彼らで別のテーブル席に集まり談笑している。



「オーダム家に仕える者たちは皆、良い人ばかりなのですね、閣下」

「あぁ。彼らだから庭とはいえ、火竜の皮を使ったんだ」

「ふふ、そうですわね。大事な秘密を口外しない、そう信用できる者たちですものね」



 閣下の口には甘かったのか、ワインを飲む彼に微笑む。サングリアで唇を湿らせながら、もう一度皆を見た。

 誰も彼もが笑顔を浮かべて、今この瞬間を全身で楽しんでいる。


 本来のシナリオから逸れた悪役令嬢のなり損ない。別に今からなりたいとか、そんな願望は持ち合わせていないけれど。前世の記憶の中ではヒロインに負けて、こんなにも温かな世界を知らずに泣き崩れていたはずの私。偶発的とはいえそんな未来を回避していたけれど、でもこれだけは言えるの。


 閣下を選んだのは私の意思だってこと。



「閣下、オーダム領をもっともっと見せてくださいね。私、とっても楽しみにしていますのよ」

「もちろん。だがその前に正式に嫁に迎えたいのだが?」

「そっ……そう、でしたわね。私ったらもうすっかり閣下に嫁いだ気分でしたわ」

「光栄だ。なら今後は閣下ではなく名前で呼んで欲しいものだな」

「そ……っ! それ、は……追々でもよろしいと思いますの、おほほほほ」



 新婚のような甘い気持ちとは違うけれど、気分的にはもうオーダムの一員になったような心持ちでいたのは確か。けどだからといって閣下を名前で呼んだり旦那様と呼ぶのはまだ恥ずかしい。

 誤魔化すようにサングリアを飲む私の隣で、閣下は怒るでもなく呆れるでもなく、とても穏やかに顔を綻ばせていた。



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