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出会いのレモンチキン 1



 乙女ゲーム『今宵、君に伝えたい』

 通称キミコヨの舞台となっているエストレ王国には三大公爵家というものが存在する。

 そのうちのひとつ、美人三姉妹と名高いベラクール公爵家――その三女は悪役令嬢だった。


 優雅で利発的な長女、麗しげで親しみやすい次女。そんな姉二人と両親に蝶よ花よと愛でられ育てられ、苦労のくの字も知らずに育った末娘。

 祖母に似た黒髪のロングストレートに、まだあどけなさが残る容姿は人から見ると妖艶で美しいとかなんだとか。お察しの通り、その末っ子令嬢が私リアーヌ・ベラクールである。

 付け加えて言うならば、本来悪役令嬢だった女。王太子の婚約者になっていたはずの女――である。


 私がそういった前世の記憶を思い出したのは、ある日王宮からの呼び出しを受け、国王陛下直々にとある男性たちの肖像画を見せられた瞬間だった。



「婚約、ですの?」

「あぁ、リアーヌ嬢も年頃であろう? 我が国が誇る貴族の中でも選りすぐりの名家の令息たちがいる。美しく可憐なリアーヌ嬢にどうかと思うのだが」



 人払いされた部屋の中、にこにこと人当たりの良い笑顔を浮かべて肖像画を――ひいては令息たちを薦めてくる陛下。これがまた不思議なことに、乙女ゲームキミコヨ初代シリーズ攻略対象者と見事に一致するのだ。王太子も含めて全員である。

 ヒロインはどうしたのかしら? と当然の疑問が浮かぶけれど口には出しにくい。なぜって、私はゲームの舞台となる学園に通っていないからだ。


 あれは十二歳の頃。それまで問題なかった魔力回路が突然半壊し始めた。

 魔力回路というのは人体に血管のように流れる魔力の通る筋のようなもの。それが欠損または欠陥すると人体に多大な負荷がかかる。その症状は人によって様々だが、立って歩くことすら困難に陥る場合もある。私はまさにそれだった。自力で歩くことができなくなり、入学目前だった学園に通うことは一切ないまま自宅療養と教材での自学自習。名前だけは籍を置いていたためテストなどはしっかり受けていたけれど。

 あまりにも偶発的ではあったが、本来悪役令嬢ポジションにあった公爵令嬢はそうして本来の役割を回避することに成功していたのだ。


 ゆえに私はヒロインの存在どころか、彼女と交流を深めるはずだろう攻略対象者たちの今現在の状況など知る由もなく。



「陛下ぁ~……?」

「チャッ、チャールズ……っ!?」



 はて困ったわ。そんな顔で肖像画と陛下の顔を交互に見ていたら、いつの間にか部屋に訪れていたお父様の姿がそこにある。

 笑っているけど怒っている。そんな顔で。



「陛下ぁ? 娘にこの話をするとき私の同席が条件だと事前に申しつけましたよねぇ? これは一体どういうことでしょうか?」

「いや、これはだな……ゴホンッ。いやなに、お前を呼びに行くところだった」

「ほぉ? その割には部屋の前で警護する騎士たちに止められましたがね?」

「手違いであろう。ははははは」



 事情はよく分からないけれど、まぁ大方の状況は察する。

 お父様の登場で詳しい説明がされるのだろうと踏んでとりあえず微笑んでおいた。案の定、隣に腰を下ろした父の手により奪われた肖像画。それらを見て青筋を立てるお父様はしばし眺めたあと、こちらに向き合う。



「リア、実はだね」



 と、語るお父様の話を要約すると。


 ヒロインは存在した。

 そして攻略対象者たち全員と親睦を深めた。

 結果、各々婚約者がいたにも関わらず恋路に走り、有望とされていた未来が崩壊。なんでも王太子の婚約者である伯爵令嬢に言いがかりをつけて返り討ちにあったとか。

 彼らは信用を失い、婚約破棄されすっかり落ちぶれた。平民生まれのヒロインは秀でた才能もなく元いた市井に戻る。だが、令息たちはこれからも貴族の中で生きていく。だからなんとか名誉回復をしたい。


 そこでとりあえず白羽の矢が立ったのが私だった。

 長女次女と揃って優秀なおかげで家は安泰。三女の私を嫁にやらずともよいならば、今のまま家で甘やかして家族で愛でていたい。という両親の願望により、幼少期から人前に出されず隠されていた令嬢が、なんと学園に通わずとも優秀な娘だった。なので私と婚約を結べば少しは名誉回復に繋がるだろう――と。


 ただ、王太子に関しては返り討ちにした令嬢との婚約が継続されている。けれど陛下はそのご令嬢よりも三大公爵家の私を据えたいらしい。十二歳からずっと寝たきりで婚約者候補から外されていたけれど、十八歳となりすっかり回復した今ならば――と。殿下の婚約者であるご令嬢に対して大変失礼な話である。もちろんお受けする気など一切ない。



「そういった事情も事前に説明し、リアの意見を尊重することも条件でしたよね? そもそもこの肖像画、王太子様がいらっしゃるのも狙ってますよね? あわよくばうちの可愛いリアを王太子妃に据えようとしていますよね? むしろそれが目的ですよね? ――そちらから反故にしたのですからこのお話、なかったことにいたしましょう」

「チャ、チャールズッ!?」



 学生時代からの付き合いだという陛下とお父様はとても仲が良い。変装して時おり王都のタウンハウスに遊びに来る陛下の、こういった姿を見るのは幼少期以来かしら? その時と変わらぬ友人だからこそのやり取りが見て取れる。懐かしさに口角を緩ませていると、それに気づいた二人が同時に咳払いをした。そんなところまで仲が良いなんて本当に気が合うのね。



「まぁ、なんだ。私たちはリアには家にいて欲しいと思っている。ただ、出会いや機会もないまま私たちの身勝手な願いで縛りつけるものではないと陛下に諭されてね。家柄も家柄だしその意見には多少なりとも思うところはあったのだが……だが、王太子の婚約者などと馬鹿げた提案を諦めないのであればこちらもそれ相応の――」

「そ……そんなに怒らなくてもよいではないか、チャールズ」



 と、また仲の良さを見せつける二人の姿を微笑ましく眺めつつ、お父様の手にある肖像画を覗き見る。


 乙女ゲーム『今宵、君に伝えたい』通称キミコヨはアプリとして配信されていた。

 学園が舞台とされており、そこで出会う素敵な男性と恋に落ちる……というのはよくある展開だが、このゲームがヒットしたのは多岐にわたる育成要素にあった。

 ヒロインは貴族の隠し子や聖女といったものではなく、本当に平民生まれの平民育ち。学園に設立された平民クラスがあり、そこの一生徒だ。

 各パラメータを自由に伸ばし、各々攻略したいキャラに指定されたパラメータの値を達成することによって話が進んでいく。途中で攻略キャラを変更することもできるし、学園の花壇でアイテムとなる花を育てたり、攻略せず戦闘スキルを伸ばして騎士になることもできる。放置ゲームの要素もあったので、ストーリーを進めない限り放置で育成が済んでしまうところも現代人には合っていた。


 なによりこのアプリゲームが人気だったのは、ヒロインが本当の普通の女の子だったところ。

 育成という努力を経て、それがあったからこそ広がっていくストーリーが没入感を呼び、またヒロインを応援したいと愛でられた。

 今なお人気を誇るのは学園が舞台とされた初代だが、前世の記憶を辿る限りかなりのシリーズが配信されていて、総じてどのシリーズも努力型のヒロインが謳われている。


 すべてのシリーズをプレイしたわけではないけれど、前世の私は恋愛要素よりも主人公を育成することが楽しくてプレイしていたタイプなので、いきなり誰と婚約したい? と言われても正直困ってしまうもの。各キャラルートは楽しく見ていたけれど、自分の育てた主人公を娘のように感じていたのよね。



「ともかくだ。近々建国記念日を祝したパーティーが王都で開かれる。彼らも出席するのでそこで話してみて決めるのはどうだろう? ちなみに私が薦めるのは息子の王太子なんだが」

「リア、婚約者を見つけても見つけなくても、お前の自由にしていいからね」



 と、前世の記憶に思い馳せている内に陛下とお父様の話はどうやらまとまっていたらしく。

 本来のストーリーから逸れてしまった悪役令嬢ポジションになり損ねた私リアーヌ・ベラクールは、ただ困ったように笑顔を浮かべる他なかった。



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