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銀色の髪のアリシア  作者: 朝顔
7/7

銀色の髪のアリシア7

「……」

 アリシアにザガン王国の国宝たる神から授かりし武器を破壊されたジュリアスらは、呆然としたまま動かない。

「……そ、そんな」

「か、神の武器が……こんなにあっさりと……」

「……この国はもう、お終いだ」

 各々、何やら呟くばかりである。



 “あ〜あ。情けないわねぇ”

 アリシアは、呆けて動かなくなったジュリアスたちを眺めて溜め息を吐く。

 “武器を失ったくらいで、あんなに意気消沈しちゃって”

 騎士ならば、たとえ武器を失くしても最後まで抗ってみせろ! と思うが……

 “そういえば……こいつらって、何かといえば神の武器に頼っていたものね”

 と、溜め息を吐く。



「あんたたち。敵の前で、そんなに呆けていていいの?」

 ジュリアスらの為体(ていたらく)に呆れ、アリシアが声を掛ける。しかし……

「……終わりだ……我がザガン王国は、もう終わりだ!!」

 と、頭を抱えるジュリアスに

「そ……そんな……」

「か、神の……武器が、全て……」

 と、茫然自失としたまま、目の前のアリシアの事も見えてはいない。

 “駄目だ、こりゃ……”

 アリシアは盛大に溜め息を吐いた。

「んじゃ。お望み通り、綺麗さっぱりとこの国を滅ぼしてあげる」

 アリシアは、もうジュリアスたちに付き合うのが心底面倒になり、(てのひら)に力を集積し始める。



 その時、不穏な気配を感じ取ったらしいジュリアスがハッと我に返り、アリシアの掌に力の塊が集積しているのを見て

「な! な、何をしている……?」

 と、アリシアの掌を凝視し、震える声で問う。

「ん? これ?」

 アリシアはニタ〜ッと嗤って

「これは、この国を滅ぼす為の力で〜す!」

 と、わざとコミカルな口調で答える。

「……」 

 ジュリアスはしばらく呆気に取られた後

「や! 止めろ!!」

 と、力の限り叫んだ。

 しかしアリシアからは

「い・や・!」

 とニタニタと嗤いながら断わられただけだった。



「じゃ! いくわよ〜! 覚悟はいい〜!?」

 アリシアは巨大な球状に膨れ上がった掌の力を頭上に掲げ、にこやかに宣言した。

「や……止めろ……止めてくれ!!」

 ジュリアスは必死に懇願するが、アリシアは

「い・や!」

 と繰り返すだけだ。

 アリシアは

「そ〜れ!!」

 と、その力を空中に投げ上げた。

「……」

 ジュリアスは呆然とその力の行き先を目で追っていく。そして

「!!」

 アリシアが空中に放り投げた力は凄まじい勢いで破裂し、ザガン王国全体に降り注いでいく。



 その力の破片たちはザガン王国のあらゆる場所に降り注ぎ、各地で阿鼻叫喚の地獄絵が繰り広げられた。

 アリシアの力を受けて、アリシア襲撃の際に僅かに生き残った各地のザガン国民たちは、あらかた死滅してしまった。

 先ほどまでアリシアと勇敢に戦っていたジュリアスとアーサー、マリウスも同様に息絶えている。



「……」

 アリシアは生者のいなくなった焼け野原に一人立ち、その光景を眺めている。

「……終わった、な」

 アリシアは深い深い溜め息を吐いた。



「皆、もう……いなくなったんだね……」

 これで神から与えられた任務は終了だ。これで天界に還れる……そう思うのに、胸に去来する想いは歓びよりも虚しさや得も言われぬ悲しみばかりだった。



 【アリシア】としてこの世に肉体を得る度に罪人だと蔑まれ、虐待の限りを受けて来た。

 その為、この国や国民たちの事を愛しいなどと思った事はただの一度も無いが……

「それでも……私は【アリシア】として生きて来たんだもの……」

 何だかんだで、これまで自分が関わってきた国を自分の手で滅ぼしたのだ。

 そう思うと、何だか複雑な気持ちに襲われるのだ。


 

「だけど。これでザガン王国は片が付いたわ……後はマルファラ公国ね」

 マルファラ公国はマルファラ公国で腐敗が進み、神の滅亡へのGOサインがいつ出てもおかしくはない状況である。

 しかし

「マルファラ公国は、私の担当じゃないし」

 そう。マルファラ公国にも神の御使いが降臨し、国の行く末を観察しているのだ。



 不意にアリシアの背後に何かの気配を感じた。

「……」

 この気配は……アリシアは嬉しさと懐かしさで涙がこぼれそうになった。

「……ユリン……ジーナ……エメラ……」

 アリシアは目を瞠った。アリシアの元に現れたのは、かつての護衛騎士、ユリン・エクターにフィジーナ・レットン、エメラティア・パーセルの霊体だった。



『アリシア様、お疲れ様でございます』

『アリシア様、よく頑張りましたね』

『アリシア様』

 三人は口々にアリシアを(ねぎら)ってくれた。

「……ありがとう」

 アリシアは涙をこぼしながら、そう呟いた。



「皆、還ろう」

 アリシアは三人にそう伝え、手を差し伸べる。

『……私たちもご一緒出来るのですか?』

 ユリンが不安げに問うてくる。

「大丈夫。貴女たちはもう、私の眷属だもの……一緒に天界へ還ろう!」

『はい!』 

『何処までもお供致します!』

『私も共に!』

 三人の返事にアリシアはニッコリと笑い

「うん! 還ろう!!」


 アリシアは三人と手を繋ぎ、天界へと還って行った。



                     完 


 

 

 


本作をお読み頂きありがとうございました。

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