銀色の髪のアリシア5
「はあ!!」
掛け声と共に神槍で次々に攻撃してくるジュリアス・ハロルド・ザガン。
それを易々と躱すアリシア。
“おおぅ。槍の扱いは中々様になってるじゃないの”
だがしかし
“やっぱりユリンとは比べ物にならないわね”
と、アリシアは思った。
槍は元々ジュリアスが使う武器なのだろう。構えや攻撃は熟れたものがあるが、どうにも神槍に振り回されているように見受ける。
“腐っても神の武器って事ね”
数百年の時間が経ち、神の力は殆ど失われているが……ほんの僅か、一欠片程は残っている。
その為、その力に振り回されているようだ。
“ユリンは完璧に使いこなしていたのにな”
それを思うと、ちょっぴりやるせない。
【アリシア】が数百年前にザガン軍に在籍していた頃、信頼する部下が3人いた。
それが神槍使いユリン・エクター、神剣使いフィジーナ・レットン、神弓使いエメラティア・パーセル。
この3人だけは【アリシア】も心から信頼し、彼女たちもまた【アリシア】に絶対の忠誠を誓っていた。
故に【アリシア】が神の御下に戻ると決めた時も、彼女らは全力で力になってくれた。
【アリシア】は、そこまでしなくても良いのだと固辞したが
「この戦が終われば、私たちも処断されますから」
と言って聞かなかったのだ。
だから【アリシア】が御下に戻る直前に、彼女たちを安全な場所まで逃げ延びられるよう加護を与えていたのだが……
“彼女たち、逃げなかったのかな?”
もしそうなら、彼女たちには申し訳無い事をした。
アリシアがそんな感慨に耽っている間にも、ジュリアスの猛攻は続いている。
“何だか遊んであげるのも飽きてきちゃった。こいつ、攻撃が単調だし”
ジュリアスは神槍を握っているので、それなりに攻撃は重いし速さもそこそこある。しかし攻撃のパターンが同じ為、見切るのは簡単だ。
“じゃ、もう終わりにしようかな?”
そう思い、間合いを詰めようとした時
ヒュッ!
どこからか矢が飛んできた。
そして次の瞬間
アリシアに剣が振り下ろされた。
「おっと!」
これは流石に避けた。何故ならば
「ふ〜ん。神剣に神弓か……やっと出て来たのね」
アリシアは特に焦る様子も無く呟く。
「神剣使いアーサー・ウル」
「神弓使いマリウス・フォスター」
と名乗りを上げたのは、やたらと仰々しい装備を纏った2人の騎士だった。
しかしアリシアの反応は
「あっそ」
それだけだった。
“槍に剣に弓。これで昔、私が彼女たちに与えた武器は全て出揃ったわね”
アリシアは懐かしさに思わず目を細めた。
「アリシアよ。これで神から授かった我がザガン王国の宝・神の力宿りし武器は揃った! もうお前に勝ち目は無い! 大人しく投降しろ!」
ジュリアスは高らかにそう宣言した。
「え? 何で?」
アリシアは思わず聞き返してしまった。
「何で、って……お前、聞いていなかったのか? これらは神から授かりし剣と弓を携えている。最早お前に勝ち目は無いのだぞ!!」
ジュリアスはムキになって怒鳴る。
「だから何で? 神の力宿りし武器って……そこまで神の御力が抜けてしまっていたらタダのクソ重い武器でしか無いと思うんだけど?」
アリシアがそう言うと
「は! 何を馬鹿な事を! これらの武器はこれまで様々な奇跡を起こして来たのだぞ!!」
「そうだ! これらの武器には神の力は間違い無く宿っている、本物の神の武器なのだ!」
アーサーとマリウスも躍起になって言い返してくる。
「あんたらこそ、ちゃんと話を聞いてたの? 私は別に偽物とは言ってないわよ。ただ、神の御力が殆ど抜け落ちているからタダのクソ重いだけの武器に成り下がっていると言ったんだけど?」
アリシアが呆れ気味にそう言うと
「……」
「……」
「……」
3人は同時に固まってしまった。
「……か、神の力が……抜け落ちている?」
「……そ、そんな事が?」
アーサーとマリウスは何やらショックを受けている。
「あのさ〜。それ、いつ“神”から授かったの?」
アリシアがそう問うと
「……数百年前だと伝わっている」
ジュリアスが渋々答える。
「ふ〜ん。で、数百年前に誰が授かったの?」
「それは……ハッ!?」
アーサーが答えかけて、不意に何やら気づいたらしい。
「……もしや、これらの武器を我が国に授けたのは……【アリシア】か?」
アーサーの呟きにジュリアスとマリウスは驚愕の表情になる。
「正解〜。あんたら、【アリシア】は忌み嫌いながら、【アリシア】が授けた武器はのうのうと使ってたのね〜」
アリシアが揶揄すると
「……」
「……」
「……」
3人はまたもや押し黙ってしまった。
「まあ、そういう訳でさ。あんたたちがそれを使ってるのを見るのは気分悪いんだよね」
だから、破壊するよ
アリシアの宣言にジュリアス、アーサー、マリウスは戦慄し血の気が引いていった。
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