銀色の髪のアリシア4
「【アリシア】。この俺が出て来たからには、もう貴様の好き勝手にはさせぬぞ!!」
と、誇らしげに高笑いするジュリアス・ハロルド・ザガン。
それに対しアリシアは
“うっわ〜! うっざ〜!!”
ひたすら面倒臭いだけであった。
“それにしても“ハロルド”ねぇ”
アリシアはその名にゲンナリと肩を落とす。
““ハロルド”って……初代の名じゃないの? 何? って事は奴ら、初代の名を後生大事に名乗ってる訳!?”
アリシアは思わず吐き気を覚えた。
“そりゃ……“ハロルド”なんかを神聖視していたら堕ちる所まで堕ちる訳だわ。納得”
アリシアは一人納得顔である。
ザガン王国初代国王、ハロルド・アダム・ザガンは愚王として有名だった。
そして、数百年前に神から遣わされた【アリシア】を利用するだけ利用して葬り去ろうとした張本人である。
当時から非常に珍しい色合いの銀髪と紫の瞳を持つ救国の乙女、アリシア・ベレスに興味を持ち、何かといやらしい目で見てきては卑猥な台詞を耳元で囁いてくるような下衆野郎であった。
当然【アリシア】は最低限の礼儀をもって接し、ハロルド王とは距離を取っていたのだが……それがお気に召さなかったハロルド王に魔女の烙印を押され、マルファラ公国を降伏させた暁には魔女として処刑される事が内々に決まっていたのだ。
正直、人間が行う刑罰など神の御使いには何の効果も無いが……鬱陶しいことには変わりない。
なので、勝利が確定した筈のあの時にさっさとザガン軍から離脱したのだ。
“後は自分たちだけで勝利を掴みなさいよ”
そう思って。
それがまさか覆されるとは……それを知った時、アリシアは開いた口が塞がらなかった。
目の前で粋がっている青年は、確かにあのハロルド王にそっくりだった。
“何か……容姿だけじゃなく性格もあいつにそっくりだわ……”
今からこいつの相手をしなきゃならないとは……
“面倒臭!”
アリシアの感想はそれに尽きた。それに……
“あいつが持ってるあの槍……私がユリンにあげた奴じゃ?”
ジュリアスが自慢げに掲げている槍に何か見覚えがあると思ったら……かつて【アリシア】の護衛騎士だった女性騎士、ユリン・エクターに与えた神槍だ。
“まあ。私の相手をするのに神槍を持ち出したのは賢いけれど……”
残念ながら数百年の時間を経て、神槍に宿る神の力はほぼ失われている。現在の神槍は、ただの“クソ重い槍”でしか無い。
“あれなら破壊するのも、そう苦労しなくて済みそうね”
本来、神の力を宿す神器は御使いといえども破壊は不可能だ。しかし、元神器ならばそう難しい事では無い。
“この分じゃ……この後神剣や神弓なんかも出て来そうね”
思わず溜め息を吐くアリシア。
「ねえ、あんた。ちょっと聞くけど」
後で出て来るなら、もうここで一緒に出してくれたら楽だなぁ〜、と思ってアリシアはジュリアスに尋ねる。
「何だ?」
ジュリアスは尊大な態度で応じる。
「あんたがその槍を持ち出して来たって事は……他に剣と弓がある筈よね? 今何処にあるの?」
「そんな事、貴様に教える義理は無い!……と、言いたい所だが、特別に教えてやろう」
ニヤニヤ笑いながらそう答えるジュリアス。
「いや。良かったらその2つもここに呼び寄せたら? っていう提案だから」
「何?」
これにジュリアスは眉を吊り上げる。
「だから、折角神槍がここにあるんだから、神剣と神弓も一緒にした方が本来の力を発揮出来るわよ」
「……」
これにはじジュリアスも考え込む。
「いや、止めておこう。万が一それが貴様の偽りでない保証は無い」
きっぱりとそう言い放つジュリアス。
対するアリシアは
「あっそ」
それだけであった。
“ま、好きにすればいいわ”
ぶっちゃけ、今の神槍で【アリシア】を討ち取る事は不可能だ。恐らくぶつかり合った瞬間に神槍は砕け散るだろう
そんなとき兄弟の武器が近くにある恩恵が働くのだ。
“せめて兄弟武器がすぐ近くに存在すれば、お互いが共鳴し合って威力も耐久力も向上するのにね”
しかし、ジュリアスはその選択肢を自らかなぐり捨てた。この時点でジュリアスに勝ち目は無い。
“まあ、窮鼠猫を噛むとか……何処かの国に言い伝えられているし油断はしないけどね”
アリシアとしては、どちらでも良いのでそれ以上は言わない。
「まあ。何でもいいから、そろそろ始めましょうよ」
アリシアが少々焦れたようにそう言うと
「そうだな。無駄に喋り過ぎた。……では、参る!!」
こうしてジュリアスとアリシアの一騎打ちが始まった。
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