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Something failed(7)

この作品には、一部グロテスクな表現や暴力的な描写が含まれています

免疫のある方のみ、お進みください▼▼▼







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 ザイオンもこんな気持ちなのだろうかと、ユージーンは思う。

 自分が強いから弱い者を守る、弱いから逃げ出す、というのではなくて、たまたま自分が、誰かを守れる位置にいる。

 それならできる限りの事をして、守れるものなら守りたい。




 食堂内は風もなく、命中させる事自体は簡単だった。

 弾丸(ペレット)が怪物の左側頭部にめり込んだが、予想した通り、貫通はしない。

 ひしゃげた状態で、弾丸(ペレット)がポトリと下に落ちた。

 怪物は弾の落ちた金属音に反応して、探すような仕草をする。全くダメージが入っていないように見えた。


(それでも、足止めぐらいにはなるはずだ)

 これだけの騒ぎだから、必ず助けは来る。

 保安官事務所と食堂棟、医療センターなど、拠点の基盤を支える建物は同じハブ広場に面している。

 助けが来るまでのほんの数分、注意を引きつけられればいい。


 ユージーンはもう一度、弾丸(ペレット)を撃った。

 圧縮された空気の軽い音が響く。

 当たったはずの瞬間、怪物の身体が薄く光り、金属音がして、弾丸(ペレット)が床に落ちたのがわかった。


(当たらなかった……?)

 怪物は発射音に気づいたのか、警戒するようにじっと動かず、耳だけを蠢かしている。


 撃ったのは普通の弾丸なのに、一瞬光ったように見えた理由がわからない。

 ユージーンは怪物から目を離さないようにしながら、火炎弾を取り出す。

 装填し、トリガーを引くと、魔力の載った弾丸は確実にまっすぐ怪物に向かって行った。


 怪物の全身が再び薄く光ると同時に、火炎弾は炎を上げ、別方向へ弾かれる。

 発射音で方向を見定めたのか、怪物はユージーンの居る方向へ頭部を向けた。


(効かない。あの光が、弾丸(ペレット)を跳ね返しているように見える)

 まるで、ザイオンが家に施している魔法障壁のようだとユージーンは思った。

(この怪物も魔法障壁を張り巡らせて、攻撃を跳ね返しているのか……?)


 光って見えるのは、障壁に利用している魔力だろうか。

 だが、最初に弾丸が当たった時は、光らなかった。

(一時的に魔法障壁を切っていたのかも知れない。何か、理由があって……?)


「痛い!」

 叫ぶ声がして、怪物は再び顔を食堂の前方へと向ける。

「押すな、危ないだろう!」

 食堂前方の扉に集まる人の数はかなり減ってきているが、まだ全員出るまでには至っておらず、我先に出ようとする者と、前にも後ろにも動けない者とで押し合っていた。


 怪物が獲物を見つけたとばかりに彼らの方を向き、後ろ足に力を込めて、ジャンプしようとする。


「こっちだ!」

 ユージーンは電撃弾を撃った。

 魔法障壁でダメージは入らないが、怪物はユージーンに向かって大きく口を開けた。

 人のような頬袋が欠けていて、口の中に並んだギザギザの歯が見える。

「そうだよ、こっちだ」


 ユージーンは氷結弾を銃に装填して、構える。

「おいで」

 自分でも不思議なほど、恐怖を感じなかった。倒せるか、倒せないか。それだけを考えていた。


 怪物がじっとユージーンを見据える。

『マ……、マ……』

 息が漏れるような音が聞こえたかと思うと、怪物がジャンプした。


 迫って来る怪物の姿が自分よりも大きく見えて、これは死ぬかも知れないな、とユージーンは思う。

 近くで見ると、人に似た頭部には頭髪のような名残がある。ユージーンに噛みつこうと、上下に大きく開かれた口の中に、鋭い牙と、退化したヒダのような舌が見えた。

 タイミングを見計らって、ユージーンは前に飛び出す。

 一気に間合いを詰め、着地直後の怪物の口に右手を銃ごと突っ込んで、撃った。


 今度は、怪物の身体は光らなかった。

 何かを食べようとしている時や、攻撃をしかける時には、対象を弾かないように障壁を消す必要があるのだろう。

 そして思った通り、内側からの攻撃に障壁は効かないようだ。

 一瞬で凍り付いた怪物の身体から、ユージーンは素早く手を引き抜く。


 怪物は石像のように動かなくなり、ゴトリと鈍い音を立てて床の上に落ちた。

 だがまだ油断はできない。怪物は凍り付いただけで、微かに動いていた。

 氷結弾の効果がどれだけ続くのか、効果が切れたらどうなるのか、初めて使ったユージーンにはわからない。


 ユージーンは再び銃に氷結弾を装填して、狙いを付ける。トドメを刺す事はできないにしても、撃ち続けて、氷漬け状態を維持するつもりでいた。

『マ……マ……』

 声なのか、ただの息なのか。

 まるで喋っているかのように、怪物の方から、言葉が聞こえた。

『サ……ム、イ……ママ……』


 銃を構えたまま、ユージーンは目を見開く。

 魔法を使えるのはエルフだけだと聞いた事を、思い出した。

 では、魔法障壁を操る、虫のようにも人のようにも見えるこの生物は、エルフ族なのか。


(僕は、人を撃ったのか……?)

 一瞬の逡巡が、致命的だった。


 空気を鋭く裂く、小さな音に気づいた時には遅かった。

 長い触手のようなものが、怪物の下半身から伸びている。

 本体よりも先にソレは、氷結状態から回復したらしい。男性器そっくりの先端が迫って来る様子を、スローモーションのように眺めながら、ユージーンは動けずにいた。

 先端から鋭い針が飛び出し、透明な液体を帯びているのが見えた。

 おそらく、毒液だ。


(あんなモノに殺されるなんて。嫌だな)

 後で兄の死に様を聞いたクロエは、何を思うだろう。

(爽やかな朝の食卓で、僕の話題を出せなくなってしまうよね……)

 いつだったか、マクシミリアンが下ネタを出してザイオンに怒られていた姿を思い出した。


 刺される、と思った瞬間。

 衝撃と共にユージーンは、床にひっくり返っていた。


「気持ち悪りぃ、なんだあれ。気持ち悪りぃ」

 青ざめた顔で、ユージーンを庇うように大きな身体で上に乗っているのは、ルキルスだ。

 首の辺りから血が流れている。

「大丈夫……? 刺されたのか……?」


「大丈夫!」

 と答えたのは、ルキルスではなかった。

 聞き覚えのある脳天気な声だ。

 ユージーンは、すぐ目の前にある黒ブーツと黒ズボンに気づく。見上げると、グレーの長袖シャツを着た、マクシミリアンが居た。


 マクシミリアンはこちらに背を向けたまま、伸ばした左手で触手の先端を掴んでニコニコしている。

 触手は必死に、逃れようとのたうっていた。

 どうやらルキルスは刺された訳ではないと知って、ユージーンは安心する。

「でっかいチンチンだなぁ」

 臆すことなくマクシミリアンはそう口に出し、両手で捻じり上げ、引きちぎった。


「ひょっ」

 ルキルスが身体を起こしながら、変な声を立てて息を吸い込む。

(でっかいというか、長いんだけれど)

 ユージーンは心の中で突っ込むだけにした。

 助かった、死なずに済んだ、と思って気が抜けたせいか、身体に力が入らない。


 先の千切れた触手を手繰り寄せたマクシミリアンは、そのままブンブン振り回し始める。

 その様子は、新しい玩具をもらった子どもが嬉々として遊んでいるようにも見えた。

 氷結状態が溶けた怪物は時々光っていたが、そのささやかな魔法障壁ごと、マクシミリアンによって何度も床や壁に叩き付けられる。

 手足の鉤爪で必死に何かに縋ろうとするたび、マクシミリアンが乱暴に怪物を蹴り飛ばした。次第に動きが弱っていく怪物に、ユージーンは同情の念を抱き始めた。


 ユージーンがルキルスに助け起こされているところへ、見覚えのある女性保安官と、その部下達が食堂に駆け込んできた。

 ヨアン保安官は、怪物を振り回しているマクシミリアンを見て、溜め息を吐く。


サムシングフェイルド(人型モンスター)への対応はマクシミリアン一人でいい。他は現場保存と救助活動だ」

 彼女の部下達が迅速に、倒れている怪我人の救助を始める。


 ハノクの侍従が、担架で運ばれていった。ハノクと、もう一人チェーンメイル姿の男が担架に付き添っていく。食堂の前方にも何人か、避難の時に倒れて踏み付けられたらしい怪我人がいて、応急処置を施されていた。


 ユージーンはルキルスに支えられて立ち、銃をホルスターに仕舞った。

 右手の甲や指の背に裂けたような傷があり、血が出ている。

 怪物の口に手を突っ込んだ時、牙に当たったらしい。興奮していて、痛みを感じなかった。


「君達もまずは医療センターへ行ってくれ。話は後できく」

 ヨアン保安官にそう指示されて、ユージーンとルキルスは食堂を出ようとする。

 鈍い音がして振り返ると、動かなくなった怪物の首を、マクシミリアンが捻じ切っていた。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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