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34_45:僕が死ぬ日の青い空(13)

この作品には、一部性的な表現や暴力的な描写が含まれています

免疫のある方のみ、お進みください

▼▼▼







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

「次は、何だっけ? 板歩きの刑? 大事なところをちょん切る? 殺して、バラバラにする? 一つずついこうか。板歩きの刑ってどうやるんだ? 見せてくれよ」

 そう言ってザイオンは、座っている数十人の男達を見渡すが、皆、顔を伏せていた。


「なんだよ。貴族育ちのユージーンがやってみせたのに、お前達にはできないのか。軟弱だなぁ、がっかりだよ。他人のケツの具合を気にする前にさ、お前らこそ、雄の印がついているかどうか確認した方がいいぞ? ちょうど今、視線の先にあるだろ? 寒さで縮み上がった、ちっぽけなやつが? それ、本物か?」

 なんて面白い事を言うんだ俺、と調子付いて笑うザイオンに、数人が怒りに満ちた視線を向け、目が合いそうになり、慌ててまた俯く。


「わざわざ板なんて用意しなくても、僕が海に直接投げ込んだ方が早いよ?」

 マクシーは、いい事を思いついた、という顔をして言った。

「誰を投げ込むの? 僕が決めていい?」

 それを聞いた乗組員達が、悲壮感を漂わせ始める。


「馬鹿だなぁ、マクシミリアン。自分が死ぬ事をわかって、泣きながら板を歩いていく姿を、みんなで笑って見送るのがこの刑の面白さなんだよ、多分な。こいつらは、そういうのが大好きなんだ。俺は大嫌いだけれど」

 ザイオンは、蔑まれて悔しがりながら、自分がターゲットにならないように顔を伏せて耐えている連中の表情を眺める。

 それでほんの少しだけ、溜飲が下がった。

(本当に、性格悪いよな、俺。今更か?)


「僕も、そういうの嫌いだな。時間がかかる。さっさと全員殺して、早く帰ろうよ、ザイオン。クロエが、泣いてるかも。ユージーンに服を着せてあげないといけないし。ルファンジア、迎えに来てくれるって言ってたから、そろそろ来る頃だと思うんだけれど」

 マクシーが血の付いた収納袋を抱き締める。回収したユージーンの服も、そこに入っている。


「そうだな」

 早く帰りたいという気持ちは同じだったので、ザイオンはそう言った。

 最近のマクシーはクロエだけでなく、ユージーンも思いやったりして、人間らしい情緒が育ってきている。良い傾向だ、と思う。

(三年も学校に通って、友達の名前を一つも覚えてこなかった頃とは随分変わったよな……)


 裸で座っている男達が一斉に顔を上げて、ザイオンを見ている。

 放心したような表情、心底怯えた表情、最後の足掻きを試みようと思い詰めている表情など、様々な感情がそこにあった。

 彼らの大量虐殺にうっかり同意してしまったのだと気づいて、ザイオンは急いで続けた。


「そろそろ迎えが来るなら、残念だが時間切れだな。ここの族長が言うには、みんな族長の息子に嘘を吐かれて踊らされただけらしいから、俺としては、こいつらが心を入れ替えて弱い者虐めを止めるのなら、今回はここで手を引いてもいいかなと思う」

 小さな安堵の息が、あちこちで漏れた。


「という事で、話はこれで終わりだ。ちょん切られる役とバラバラにされる役は、族長の息子にやらせることにしよう。みんな、服を着て解散してくれ」

 そう言うと、男達は一斉に脱いだ服を拾って着始めた。

 その後、睨み付けながら下層への階段を下りて行く者が何人も居たが、当初に比べると随分大人しく、扱いやすい。

 皆殺し発言をしたマクシーに恐れをなしているのだろう、とザイオンは思う。


「待ってくれ」

 族長の息子のロープを掴んで引き立てているところへ、ザイオンの足に縋り付くようにして、裸のままの族長が膝をつく。

「俺にしてくれ。息子はまだ、若すぎて、善悪の区別がついていない。殺すなら俺を、代わりに殺してくれ。頼む」

「父さん……」

 族長の息子が、グズグズと涙を零す。若すぎると言うほどには若くない。成人はしているだろう。


「……あんたも、服を着ろよ」

 族長の必死な表情を、じっと見下ろしてから、ザイオンは言った。

「俺達の父親にあんたの百分の一でも父親らしい情があったら、俺達、もう少しまともな人間に育ったのかもな」

 それを聞いたマクシーが、不思議そうな顔でザイオンを見た。


「……兄弟なのか?」

 族長は驚いた顔になる。

「早く服を着ろ」

 促されて、急いで服を身に着ける族長の後ろに、息子が隠れる。いつの間にか、服を着終えた乗組員達数人が、周囲を取り囲んでいた。


「俺が、ルキルスの仇をとる」

 さっき一番にマクシーに殴りかかってきた男が言った。

「ルキルスは、俺に読み書きや計算を教えてくれた。それで何度も、欺されずにすんだ。弟の作った借金も、楽に返せる方法を一緒に考えてくれた、俺達兄弟の恩人なんだ」


 男を押しのけるようにして、別の男が言い募る。

「俺がやる! ルキルスには、命を救われた事がある。船の上で病気になった時に、あいつが看病してくれたから、俺は死なずにすんだんだ」


 似たような事を言い立てる男達が他にも数人いたが、ザイオンが左手を挙げると彼らは一斉に黙った。

「これと同じブレスレットを、ちょっと前にそこの息子にはめたんだが」

 ザイオンは、自分の左手首にあるブレスレットを示す。

 操作して見せながら、ザイオンは言った。

「この順番でボタンに触れると、こいつが酷い怪我をしても元に戻せる。普通のリセット系魔導具と違って、全ての生体データが保存されているから、死んでも蘇るはずだ……試した事はないがな」

 死なせないために作った魔導具なので、死んでも蘇るかどうか試すなんて、これまで考えた事もなかった。


 魔力(MP)が戻せるというのなら、(HP)そのものも戻せるに違いないという推測はできた。だが、瀕死のユージーンに使って、死んでしまった後にリセットブレスレットで生きている状態に戻せたとしても、果たして『魂』まで元に戻せるだろうか?

 生きているけれど、何か、違うモノになってしまったら?

 そんな人体実験のような事を、ユージーンで試せる訳がない。

 だからどうしても、ブレスレットをユージーンにもう一度はめる気にはなれなかった。


「それじゃあ、試してみようじゃないか、殺しても蘇るかどうか」

 男達の一人がそう言うのを聞いて、クヲンは父親の後ろからさっと走り出し、逃げようとして、別の男に阻まれた。

「嫌だ、嫌だよぉ」

 子どものように足をバタバタさせながら、族長の息子は、二、三人がかりで引き摺られていく。甲板の中央に、大きな斧を持った男が進み出た。

「待ってくれ! ……止めてくれ! ……お願いだ!」

 族長が、その後を追う。


 ザイオンはマクシーのそばに戻ると、彼と同じように木箱にもたれて座った。

 袋から出したジュースの瓶を、マクシーは差し出す。

「気が利くようになったな」

 受け取ったザイオンが蓋を開けて、コップが無いので仕方ないと自分に言い訳をしながらラッパ飲みしていると、マクシーが言った。

「ザイオンは、まともな人間だと、思うよ?」


「……どうだろう?」

 下弦の月が昇り始めた東の空を見ながら、ザイオンは考える。

 まともでない彼は、まともでない弟と共に、あの家で懸命に、まともな生活を築こうとしていた。

 それを邪魔されて、怒りを抑えきれずに憂さ晴らしをした。

 まともな人間なら、あんな暴力的な方法は採らない。


(ユージーンが帰ってきたらもう一度、クロワッサンを焼こう)

 憂さ晴らしの後には、空しさと哀しさに見舞われていた。

(切れ目を入れて、野菜とチーズを挟んで。マクシーが一人で五つ食べてもいいように、多めに焼いて……バターを買い足さないと……)

 溺水で肺を病んだユージーンが、治るのかどうか、いつ治るのか、見当も付かないのに、ザイオンは心の中で買い物リストを作り始める。


 カンテラに照らされたメインマスト前の甲板中央では、断末魔が響いていた。

 グロテスクな実験結果を、ザイオンは見届ける。

(まともな人間は、平気でこんな修羅場を作り出したりはしない……)


 苦痛の中で死に、生き返り、再び殺され、また生き返る、修羅場というよりは地獄だ。

 あの鶏冠頭の男はルキルス殺害以外にも、父親の溺愛をいいことに、乗組員達を虐げるような行為をこれまで散々やってきたんだろうと、ザイオンは推測する。


「ステルスが生きてる事、教えてやらないの?」

 と、マクシーが尋ねる。

「誰だそりゃ」

 ザイオンは笑う。


「あ!」

 マクシーが空を指さす。光がチカチカしながら、近づいてきた。

「ルファンジアかな?」


「本当に、目がいいな、お前」

 ザイオンは、星を遮りつつ近づいてくる飛行船の形を見上げる。花火を上げなくても、甲板にカンテラの灯りがたくさんあるから、今回は見つけやすかっただろう。


 長かった一日が、ようやく終わろうとしていた。











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