8店目「襲撃者をも食らう!異世界料理の力強さを垣間見る 前編」
夜通し降り続いた雨も上がり、今日は角ウサギに討伐依頼に向かう。
目的地はウメーディの街から南方に位置する、サウザンドフォレストにある小さな村だ。
依頼自体の難易度は高くはない。
畑を荒らす角ウサギを討伐するだけだ。
角ウサギの驚異度はG~F。
さらに今回は、経験のある冒険者であるタンクのアインツと剣士のセリナとの共闘だ。
通常通りだと装備さえしっかり整えておけば、さほど苦労することなく達成できるであろう。
そう、通常通りであれば……。
僕はこの依頼に関して何かが引っかかった。
それが何かはわからない。
ただ、嫌な予感がするのだ。
その不安を払拭すべく僕は昨晩よりチャットGOTと共に、スマホで付近の様子を調べていた。
ただ、調べても調べても僕の不安が的中するような情報は出てこなかった。
角ウサギが農作物を荒らす以外街自体は平和で、街までの道中も変わったことがないようだ。
それでも不安が拭えない僕は、貯まったアプリポイントを使用し、アプリの強化と新しいアプリのダウンロードを行う。
僕の唯一の武器のスマホは、アプリポイントというものを使うと強化されるようだ。
このアプリポイントというのは敵を倒したり、記事を投稿した時に増え、貯まったポイントでアプリの性能の強化や新しいアプリのダウンロードができるようになる。
僕はまず、『ライト変換』アプリをレベルアップさせた。
これによりスマホのライトの機能が強化され、新しい『ヒールライト』というライトも覚えた。
『ヒールライト』で照らすと、どうやらその部分の傷は緩やかに回復するのだという。
これで僅かでも傷ついた体を回復できる。
魔獣が出る地域では、回復の能力は必要不可欠な能力であろう。
新しくアプリもダウンロードをした。
『バトルフィールド』は戦争をテーマにしたアクションシュミレーションゲームアプリだ。
現時点では、スマホの画面をタップすると、弾丸を射出することができるらしい。
攻撃力に難がある僕にとって、ぴったりのアプリじゃないだろうか。
準備が出来た僕は、待ち合わせ場所へと向かう。
今日の服装は、よりスポーティ感のある半袖のギンガムチェックシャツに、ダークグレーのストレッチスラックスを着用。
黒のタッセルローファーでカジュアルながらも上品にまとめた。
僕が待ち合わせ場所に到着すると、すでに全員揃っていた。
「ミツル、遅いよぉ」
「ごめん、ちょっと遅れた」
「これで全員そろったな。さぁ、出発しよう」
アインツの声に全員が頷く。
僕らはサウザンドフォレストへ向かうために、ウメーディの門を通り抜けた。
昨日とは打って変わっていい天気だ。
僕らの他にも数名の冒険者が、街を後にして別々の方向へ向かっている。
サウザンドフォレストまで、徒歩で約60分。
比較的見晴らしのいい道を進むので、魔獣が現れてもすぐにわかるだろう。
幸いにも魔獣の気配はこの辺りにはないようだ。
途中で何度もスマホで検索をかけるも、魔獣の姿は発見できなかった。
何の危険もないまま、僕らは目的地のサウザンドフォレストの村へと到着した。
サウザンドフォレストにある村は、おおよそ50人ほどが住む小さな村だ。
人参のような根野菜と、セロリのような独特な香りを持つ野菜を栽培をして生計を立てているようだ。
村の前には見張り役の男性が立っており、僕らが近づくと彼の方から話しかけてきた。
「この村にに来る冒険者ってことは、おらたちの依頼を引き受けてくれたのけ?」
「そうだ。依頼者に会いたい」
アインツはにこやかにそう答える。
「んだ待ってけろ、村長を呼んでくるだ」
彼は、大慌てで村の中へと走って行った。
村の中を見回すと、木造建築の質素な家が建ち並んでいる。
壁にはいくつもの穴が穿たれており、壁が崩れてしまっている家も一軒ではない。
門番以外に人通りもなく、外は明るいにも関わらず、村全体がひっそりとしている印象だ。
「始めまして冒険者様、私が村の村長です」
門番と共に現れたのは、40歳代前後くらいの浅黒い男性。
体格も大きく筋肉質で、村長というよりも戦士という風貌だ。
「立ち話も申し訳ないので、私の家へどうぞ」
村長はそう言うと、くるりと後ろを向き歩き始めた。
僕たちはお互いに顔を見合わせ、村長の後をついて行くのだった。
・・・・・・・・・・
村長の家は、村の奥にある小さな建物だ。
家には沢山の穴が穿たれており、外壁の一部が崩れ落ちている。
家の前には畑があるも、作物は何一つ育っていないようだ。
僕らは村長の家の中へと案内された。
住居の内部も質素で、必要最低限の物しか置かれていない。
僕らはテーブル席に座ると、奥さんらしき人がお茶を用意してくれた。
「まずは依頼を引き受けてくれてありがとうございます」
村長は僕らに深々とお辞儀をする。
「いったいこの村の荒れようはどうしたんだ?あの穿たれた穴は何なのだ?」
セリナが真っ先に口を開く。
よっぽど気になっていたのだろう。
セリナはこの村の様子に気づいた時より、どこかソワソワとしていた。
「角ウサギです。角ウサギが我らの村を襲ってきたのです」
……!?
「角ウサギは人間を襲わないんじゃ?」
僕はチャットGOTで、角ウサギの生態を調べていた。
角ウサギは通常単体で行動し、群れを作らない。
魔獣とはいえ草食系で、草や木の実などを食べ、森や草原などに生息するようだ。
「はい、通常はそうなのですが、この村を襲ってくる角ウサギたちは群れで行動し、作物だけでなく人間も襲ってくるのです」
角ウサギが群れを作って人間を襲う……
これってかなりの案件なんじゃ?
「どうやら角ウサギの中に指揮をするものがいるようです」
角ウサギの群れを統率するボス的なウサギがいるのだろうか?
「角ウサギはどのくらいいるんだ?」
神妙な顔をしたセリナが尋ねる。
ボスウサギも気になるが、やはり問題となるのは角ウサギの総数だろう。
「はい、正確な数は分かりかねますが、体感では50体ほどはいるかと思います」
50体の統率された角ウサギ。確かにやっかいだ。
確かに僕らだけでは荷が重いかもしれない。
「何体でも結構です。少しでも数を減らしてくれれば、後はなんとかします」
僕らはその場では答えを出さずに、一旦村長の家を離れた。
「どう思う、ミツル?」
アインツは僕に意見を求めてきた。
ギルドが提示した内容と、依頼の内容が大きく食い違っていた。
おそらく村長は真実を隠したままギルドに依頼したのだろう。
依頼内容が違っていれば、依頼を途中で解約しても違約金は払わなくてもよい。
はっきり言うと、この依頼は受けなくても良いのだ。
ただ、確かにこのままでは村自体が滅びてしまうかもしれない。
村を救いたい一心で、ギルドに依頼した損等の気持ちもよく分かる。
ただ、50体以上の統率された角ウサギは、どう考えても驚異だ。
僕たちはまだパーティを組んだばかり。
お互いの実力も分からないうちに、危険な任務は行うべきではない。
「この依頼受けよう」
セリナは僕が意見を言う前に発言する。
「そうね、私もそれがいいと思うわ」
ミトラは間髪入れずに、セリナの提案を受け入れる。
この二人はやけに気が合う。
でも確かにそれしか無さそうだ。
「僕も依頼を受ける方がいいと思う」
「なら決まりだな、村長にそう伝えよう」
アインツはそう言うと、村長の家へ入っていった。
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