四年後の誕生日にレンタルお姉さんを予約する
労働基準法が死して屍拾う者無しなブラック企業で働くこと十年。自分でもよくもまあ耐えたな。と、気晴らしにレンタルお姉さんを予約する事にした。ポスティングのチラシが気になったからだ。
いや、それは半分程度の理由に過ぎない。実は普段のブラックがたたり、会社が倒産したのだ。半分は気晴らし、もう半分はやけだ。この先新しい就職先を見付けるのかと思うと、実に憂鬱な気分になってしまう。
「…………微妙だな」
勿論、容姿の事だ。
レンタルお姉さんのサイトを見ても、ピンとくるお姉さんが居ない。別に性的なサービスを求めている訳ではないのだが、お姉さんをレンタルするのだから、やはりお姉さんらしさが求められる所であろう?
「お?」
超!高級店と呼ばれるレンタルお姉さんのサイトに、ビビッと来るキャストさんを見付けた。見るからにお姉さん的なオーラが凄い。
「──うっ……うう!」
「ど、どうしましたか!?」
電話をかけやって来たレンタルお姉さんを一目見て、俺は泣いてしまった。お姉さんがすぐ俺の肩を抱いてくれた。
「あまりにもお姉さんだったので……」
「はい。今日一日、村西さんのお姉さんです♪」
「ううっ!」
「泣かないで下さいって」
「だって……レンタルお姉さんでお姉さんがちゃんと来たのが嬉しくて……!」
「?」
「いつも醤油ラーメン頼んでも何故かチャーハンが来たり、カツ丼の出前頼んでも葬儀屋が来るし……」
「良く分からないですけど、苦労をしたのですね」
「昨日から無職です」
「それはとんだ苦労を……私にお手伝い出来ることがあれば何でも仰って下さいね?」
「えっと……」
部屋を見渡す。実に整理が行き届いた部屋だ。お姉さんを呼ぶに当たって失礼が無いようにハウスクリーニングをしたのだ。洗濯も無い。買い物はカップラーメンがあるから大丈夫。
「……すみません、お願いする事がありません」
俺は項垂れた。レンタルお姉さんを呼んだ後の事を考えて無かったのだ。実にアホだ。
「そう、ですね……では、西村さんのお話しを聞かせて下さい。話すだけでも気晴らしにはなるかもしれません」
「お姉さん……!!」
俺は泣いた。そして感動のあまりお姉さんに抱き付こうとした。
「おっと」
「おわっ!」
両手が空を切り、壁に激突した。地味に痛い。
「おさわりは、ダ・メ・よ・♡」
「すみまぜん……」
それから、俺は時間の許す限りお姉さんと話をした。お茶とケーキも出して、お姉さんをもてなした。
「あ、そろそろお時間ですね」
「もうそんな時間ですか……」
日が傾き始めた頃、お姉さんのタイマーが鳴った。別れの時間だ。
「それでは398,000円になりますね」
「……」
そっと全財産を差し出した。小銭までかき集めた398,000円だ。
「それではまたのご指名を──」
「そのお金を貯めるのに、四年掛かりました」
俺はお姉さんの顔をジッと見つめた。夕焼けがさしてとても綺麗な顔だった。
「また四年後に、お姉さんを指名してもいいですか?」
「はい。お仕事見付かると良いですね♡」
お姉さんはひまわりのような笑顔で去って行った。
「お姉さん……」
翌日、俺はハローワークでぶつかった見知らぬ女の子と、そのまま意気投合して会って三日後に結婚した。彼女が大企業に就職したので、俺は専業主夫となり、家計を支えている。