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第3話 謎の少女との邂逅(後編)

「ねぇ、起きて!」


 夢現の中、カコの声が聞こえる気がした。


「キョウちゃん。朝だよ!」


 朝の弱い俺を起こすためにカコは毎朝、俺の部屋に侵入してくる。

 思春期にもなる男の部屋に、だ。

 俺が自分の欲に負けて万が一カコに酷いことしてしまったらどうするんだ、と部屋に来ないように言っているのに、カコは何も気にする様子がなく俺の部屋に入ってくる。

 俺の親もほいほいと家にあげるんじゃないよ。


「ねぇ。起きて」


 うるさいな。もう少し寝かせてくれ。


「時間がないから」


 先に学校に行ってても良いんだぞ。


「⋯⋯そうやって彼女の夢を見るのも良いのだけれど、もう起きないと風邪ひくわよ」


 ⋯⋯⋯⋯どういうことだ?

 俺は今布団に包まっているはずだが。

 寒い冬でもぬくぬくとした暖かい部屋と厚手の羽毛布団のおかげで外気から完全に守られているはず。

 なのに、やけに肌寒い。

 そして、聞こえてきた声はカコのものではなく、もう少し低めで凛とした――さっき聞いたばかりの声のような⋯⋯⋯⋯。




「――ハックシュン!!」


 自然と出たくしゃみのせいで俺の意識は強制的に浮上した。

 目を開けると、最初に視界に入ってきたのはカコ――――ではなく、凛とした美人顔とカコにはない二つの大きな山。

 その奥に見えるのは星が煌めく黒い背景。

 そして、後頭部に伝わるこの柔らかい感触は⋯⋯⋯⋯。 


「――――ッ!!」


 それを認識した途端、俺の脳に急速に血が駆け巡り、反射的に上体を起こした。


「やっと起きたわね」


「お、おま、おま、え? どう⋯⋯!?」


 脳に血が昇ったとはいえ、この状況を受け止めるほどまだ活性してはいない。

 パクパクと口を開け閉めしている俺に対して、ミクは大した動揺もなく淡々とした無表情だった。


「どうしたのよ? 急に飛び起きて」

「どうしたじゃねぇよ! 今、いったい何をしてた?」

「膝枕よ」

「ひ⋯⋯!?」

「あら、顔が赤いわね。まさか本当に風邪でもひいた?」

「う、うるせぇ! そうじゃねぇよ!」


 自分のした行為を特に気にしていない平静な彼女と違って、俺の心臓は恐ろしく暴れまくっている。

 女の子に膝枕してもらった経験なんてないし、ましてやカコ以外の女の子の身体に触れるなんて初めてなんだ。

 尤もカコにしたって、中学生になってからは一緒に歩いている時に手が少し当たるくらいしかなかった。 

 そんな女性に免疫のない俺が女の子の太腿を枕に寝るなんて、動揺しないわけがない。

 むしろパニックだ!


「ふう。とりあえずすぐに目を覚ましてくれて安心したわ」


 だが、そんな俺の状態を無視して、ミクは立ち上がると俺の方を冷たく見る。


「ほら。貴方も立ち上がって。時間がないの」

「時間がないって⋯⋯――それよりここって⋯⋯?」


と漸く俺は辺りを見渡して、ここが俺の部屋でもなく、意識を失うまでいた霊安室でもないことがわかった。


 一面土で固められその上に砂が撒かれた地面に、周りを柵で囲まれている。

 俺がいる所よりかなり離れた所にブランコやすべり台、動物を模した遊具が水銀灯の灯りで照らされているのが見えた。

 そして俺が今座っているベンチ。


「公園⋯⋯?」


 それら全てが、ここが公園であると物語っていた。

 だけど見覚えがない。

 どうやら俺が知っている場所とは違うようだ。


「そうよ。ここは〇×市中央公園。貴方が住んでいる街の隣ね」

「隣!?」


 俺は目を丸くして叫ぶ。

 俺やカコが住む街の隣である〇×市。

 駅前に飲み屋が充実していて働く男達で賑わうおっさんの街。

 電車で五分程度の距離だが、この場にミクしかいないっていうことは彼女がここまで俺を運んできたらしい。


「いったいどうして?」

「歩きながら説明するわ。だから立ち上がって」


 そう言って、ミクは俺の手を掴むと強引に立ち上がらせた。

 そしてそのまま俺の腕を引っ張りながら歩みを進める。


「お、おい。ちょっと、ま、待てって!」


 俺は抵抗しようとするが、その手を離すこともミクを止めることもできず。

 引っ張られるがままにミクについていく。


「おい、待ってって!」

「――――」


 ミクは黙ったまま、歩みを速めている。急に動かされた俺の足はもつれそうになる。


「お、おい! この手、離してくれ!」

「離したら、貴方、逃げ出さない?」

「逃げねぇよ! ってかこのままじゃ転ぶから!」

「そこは頑張りなさい。時間がないの」

「はぁー!?」


 ミクは俺の言うことも聞いてくれず、理不尽なことを言いどんどん前に進んでいく。

 『歩きながら説明』してくれることもなく、少々、いや、かなり不信感を募らせながら俺は彼女に連行される。

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