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第2話 謎の少女との邂逅(前編)

 少女の凛とした声が聞こえて、ハッ、として周りを見渡す。

 霊安室の扉の所にその娘は立っていた。

 金髪のロングにキリッとした茶色の瞳。Tシャツにジーパンといったラフな格好で、その大きな胸を際立たせるように背筋をピンと伸ばし、腰に片手を当てている。


 その姿をどこかで見たことがあるような気がした。

 ――だが、その娘を俺は知らない。記憶にはない。


「なんだよ、お前は?」


 偉そうな態度のわりに不思議な雰囲気を醸し出す娘に俺はそう問い詰めた。


「私はミク。貴方の後悔を無くしに来たの」


 似たようなセリフをもう一度口にする。


「⋯⋯? どういうことだ?」

「詳しく説明する時間はないわ。とにかく私についてきて」


 ミクと名乗った娘の真意が分からず、詳しい説明を求めると、彼女はそう言って俺に向かって手を差し伸べた。


「⋯⋯そんなこと言われても⋯⋯何をする気なんだ?」


 だが、そんな簡単にその手を握るわけにはいかない。

 初めて会った娘だ。信用できるわけがない。

 しかも『後悔を無くす』というのがどういうことなのかが全くわからない。


 カコの手を掴み損ねたことか?

 その後悔をどうやって消すというのだ?


 犯してしまった過去は変えることができない。

 時間を逆行するなんていうのはSFで、現実ではありえない。

 そんなの普通に高校生まで生きていたならわかる。


 常識だ。


 そういった言葉を娘は口にした。

 今傷心で気落ちしている人間に向かってだ。

 言葉巧みに縋りたいような誘惑をする奴なんて詐欺師以外の何者でもない。

 カコを失ったからといって、そんな言葉に騙されない冷静さがまだ俺にはある。


 だから手を取れない。


 そこにどんなに魅力的な謳い文句があるからとはいえ、簡単に救いを求めるわけにはいかない。

 そんなようなことをミクに対して吐き捨てるように言うと、


「やっぱり貴方らしいわね」


と一言呟く。

 そして、ミクは意を決したように俺に近づいてきた。


「な、何をする気だ!?」


 突然のミクの行動に俺は目を丸くすると、カコを守るように立ちはだかった。

 ミクが何をしようとしているか全くわからない。

 だが――亡くなっているとはいえ――カコにこれ以上危害を加えるつもりなら、俺は全力でこの娘に抵抗するつもりだ。

 だが、彼女はカコには何もしなかった。


 代わりに――。


「ング――――!」


 鳩尾に激痛が走る。

 息を吸うことが全くできず、胃の中にある内容物が逆流しそうなのを堪える。


「悪く思わないでね。ここだと彼女を巻き込んじゃうから」


 そんな言葉を聞いて、俺はやっとミクに殴られたのだと理解した。だが、遅かった。


「――――」


 激痛と酸欠と混乱と、そして(精神的な)疲れで俺の意識は深い底へと落ちていってしまった。

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