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何かをするときに他人に宣言して逃げ道を塞ぐといいらしい。



 まさか登校初日に生徒会室に厄介になると思わなかった。そんなことを考えながら僕は長い長い廊下を歩いた。


 この学校はとても大きいそれこそ全校生徒が2000人ほどいるマンモス校だ。当然その分監視の目は届かず自由の校風が売りになっている。

 中には学校内で自分で会社を作り卒業と同時に法人化しそのまま成功を収めたやつがいるという噂もある。 学力自体はそこまで高くないがその自由な校風のおかげで何のためにうちの学校に入ったのかよくわからないほど頭のいいやつがゴロゴロしているのも事実だ。


 とは言えさすがにAランクは珍しい。


 先輩のことを少し考えながら廊下を歩いていると遠い旅路の末話に聞いていた生徒会室の前に着いた。僕はそれほど度胸がないまた生徒会などの重要な役割を担ったことなどもないつまり生徒会室は未知の領域だった。


 緊張した僕はドアの前で少し立ち止まっていた。


 どうしようか。これはノックした方がいいのかもしマナー違反になったらさすがにまた怒られるんじゃないか。


 そんなことを考えているとふと今朝のことを思い出した。


 そういや僕、高校からは何でもいいから何かやり遂げるって決めたよな。


 僕は決心をし生徒会室のドアをたたいた。


 こんこん


 どうぞ。


 中から少し柔らかい声が聞えた。たぶん今朝の天使ではない。意中の人がいなかったことに少し安心感を覚えてそのまま中に入った。


「失礼します。今朝の校則違反の件で沙汰を聞きに来ました。」


 僕はそのまま中に入った。

 生徒会室を少しだけ暖房が効いているのか肌寒い春先にはとてもいい感じの室温だった。中に入るとコの形に長机が置かれておりその真ん中に生徒会長らしき人がいた。

 さっきの声どうりでも優しそうな表情をしている人だ とても優しいんだろうなと思われる雰囲気を醸し出しており全体的に美人というより可愛らしいタイプの人だ。


 この人は多分人気あるんだろうなと思いながらぼくは彼女の前に立った。


 彼女はその柔らかい顔から時折鋭い目で僕を観察しているようだった。


 なるほど、僕が人生で生きてきて彼女ほど生徒会長に向いてる人はいなさそうだ雰囲気がある。


 彼女は僕の方を見て何か少し納得したのかうなずきながら目線を書類の方に移した。


「君が反省文最速記録の問題児だね。」


 彼女は早くもぶっこんでくる。


「問題児かどうかは別として最速で校則を破ったのは僕です。」


「正直だね。」


 彼女は観察するような鋭い目線をやめ雰囲気が明るくなった。


「なるほどなるほど、一応報告にあったこととあなたの目線から見た事をすり合わせておくよ。」


 彼女は報告書らしきものをファイルから取り出して読み上げた。


「えっとまず最初にあなたは今日で新入生よね。」


「はい。」


「それで今日が初登校だった。」


「そうです。」


「なるほどなるほど、校門の前で風紀委員長である東堂杏の邪魔をしたの?」


「邪魔をする気はありませんでした。ただ抑えられなくてプロポーズしてしまいました。」


 彼女はしきりにうなずく。


「なるほどなるほど、えっとじゃあなんで告白したのかな?初めて見たんでしょ?普通はもうちょっとためらうものじゃない?」


 それは僕も思う。


「そうだと思います。でも一目惚れだったんです。衝動が抑えられませんでした。」


「それで勝算もないままプロポーズを敢行して東堂風紀委員長に怒られたと。」


「はいそうです。」

 彼女はこちらを向きなおし満面の笑みを浮かべる。


「なるほど君は面白いね。そしてものすごく無鉄砲だね。」


 反論の余地がなかった。


「そんなに無鉄砲な性格はしてないんですよ。今回が初めてです。」


「へ~、それでバージンプロポーズをささげちゃったんだ。」


彼女はニマニマしながら再び書類に目を落とした。


「一応聞くけど何か言い訳ってある?」


「一応ありますけど。」


「一応言ってみて。」


 僕は先生の話を聞きながら考えた言い訳を始めた。


「僕は校則のことを知りませんでした。少なくとも去年配られたパンフレットには載っていなかった気がします。確かに確認する手段はありましたがまさか自由の校風の学園にこういう規則が生まれるとは思いませんでした。」


 彼女納得がいったのか仕切りに頷いている。


「うんうん衝動的にしてる時点で校則云々は関係があるのか疑問だけど、何となく君は意図して校則を破ったと思ってなかったんだよ。ごめんね最初、警戒しちゃって。最速で校則を破るような子はどんな子なんだろうと思っちゃってね。」


 彼女はパッと明るくなった。


「とは言え校則を破ったのは事実。それは受け止めてね。」


「はい。」


「うんとそれじゃあね。本当は奉仕活動を二週間してもらう予定だったんだけど、情状酌量の余地はあるということで3日にしてあげるよ。」


 彼女はとても話がわかる人のようだ。


「ありがとうございます。」


「うんうん でもこれからはちゃんと守ってね。はいこれ、預かってた学生証。」


 彼女は学生証をファイルから出してきた。すると他人の学生証と違い、赤いシールが貼られていた。


「このシールで何回校則を破ったかが分かるようになってるから。これが三つたまったら一週間の更生合宿が待ってるから気をつけてね。」


 すごく気になる言葉があったが、いったんスルーする。


「分かりました 。それでは失礼します。」


 僕は生徒会室を出ようとドアの方に足を向けた。


「そうそうちょっと待って。」


 もう一度彼女の方を向いた。


「優馬君だっけ 、あなたはこの学園で何かしたいと思ってることとかある?」


 彼女は多分何となく聞いたのだろう、世間話の延長線だ。ただ僕はどうせなら彼女に宣言してやろうと思った。


「そうですね 。中学までの僕は結構緩く生きてきたんです特に目標を決めず普通に大人になって、普通に就職して、普通の人と結婚して、生きようかなって。」


 僕は彼女に宣言する。


「でも、運命は変わりました。少なくとも東堂風紀委員長が卒業するまでに彼女と恋愛ができるほどの人間になろうと思います。」


 彼女がすごく面白そうと感じている顔になった。


「君にできるの。」


 僕は少しニヤッとした。


「はい、見ててください。」


そう言って、僕は生徒会室を後にした。



あれ、エタってない。奇跡か。

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