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田多良達を見やり、最後に山瀬を見下ろす。
長身――といっても川原や霧沢よりは低い、真里谷よりも十センチ以上低い身長の山瀬を見下ろす事は容易だが、それが気に入らなかったらしい。
「お、おまえ!いきなり現れた癖に態度悪いぞ!こいつらを悪く言うなんて・・・・・・っ」
「そうかい?君の方が酷いと思うけどね?」
「それに!忍の事をい、犬って・・・・・・!」
「霧沢については本人が自称しているのだから僕は知らないよ・・・・・・それにしても霧沢。彼、おまえの事を名前で呼んでいるのだけど?もしかして知り合い?」
「まさか。マナー違反をするような知り合いは、私にはいませんよ。というより、名前を教えた記憶はないのですが」
「そう。良かった」
喚く山瀬をさらりとかわした真里谷は霧沢に確認をとり、知り合いではない事に安堵する。
もしこれで知り合いだったりするのならば、今後の付き合い方を改めなければならないところだった。
「僕には好きなものと嫌いなものがあってね、」
山瀬は、唐突に話題を変えられた事に驚いたようだが、それを気にせず真里谷は続ける。
「君と同じように、綺麗なものが好きなんだ」
「なんだ、一緒だな!」
その意味も意図も分からぬまま同意する山瀬に、真里谷は口許に笑みを浮かべる。
綺麗なものが好き、と言った意味には、嫌味も込められているのに気付かない山瀬を嘲笑したのに。
「そう、一緒だね?じゃあ、君の嫌いなものは何だい?」
「俺の嫌いなもの・・・・・・?」
真里谷の問い掛けに、うーん、と唸った山瀬はしばらく悩んだ末に答えを出した。
「俺が嫌いなものは、ピーマンだろ?タマネギと人参、それから・・・・・・」
「食べ物以外では?」
「食べ物以外?えーと・・・・・・」
再び頭を悩ませた山瀬は、あっと声をあげる。
「俺の言葉を無視するやつ!」
その発言は、静かな食堂に響き渡り、真里谷は更に口許の笑みを深めた。
それを近くで見た川原は、背筋がぞっとしたのを感じた。
「そうなんだ。君の嫌いなものが分かって良かったよ」
「うん?」
意味が分かっていないらしい山瀬を嘲笑った真里谷は、右手を軽く上げた。
「僕も嫌いなものがあってね」
「なんだ!?」
自分と話してくれる新たな人間を見つけたからか、身を乗り出すように真里谷の話を聞く山瀬に、周囲はこの後起こる現実に憐れみを覚えた。
「僕がこの世で最も嫌いなもの・・・・・・それはね、」
――汚いもの、だよ。
軽く上げられた手がすっと下ろされたのを合図に、真里谷の背後に控えていた生徒達が突然、山瀬を囲む。
「・・・・・・えっ!?」
突然の事に何が起こったのか分からない山瀬は、目を白黒とさせるばかりだ。
山瀬から一瞬で離された田多良達も同様。
「この間、君の事を食堂で見つけてから思ってたんだ」
この世に汚いものなど、感情以外で存在してはいけない。
人間の感情が醜い事など分かっているから許せるけれど。