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女王と犬。
必要無い、と言った川原だったが、その生徒はそれを無視して手当てをする。
「委員長の命令ですので」
そう言い切った彼の左腕には、やはり純白の腕章があった。
川原は、真里谷の躾が行き届いているのだと実感したのと同時に、その恐ろしさを知っているだけに何も言えない。
川原が手当てをちゃんと受けたのを見届けた真里谷の視線は、瞠目している田多良に移る。
目が合ったのと同時に、田多良はハッとした。
「あなた、何処のクラスの生徒ですか?生徒会に向かって生意気な口をきいて・・・・・・」
「おや。どうやら今期の生徒会は僕の事をご存じないらしい」
田多良が真里谷の事を知らないという事実に、周囲の生徒達は僅かにざわめく。
その反応に田多良達の方が動揺する。
「委員長。自己紹介をされてはいかがでしょう?」
「今更だね」
「というより、生徒会役員であるはずの彼らが委員長の事をご存じないとは。生徒会とは名ばかりか。聞いて呆れます」
霧沢の苦言に、真里谷は溜息を零しながら頷いた。
「此処にいる生徒達は知っているのにね?仕方無いから自己紹介でもしようか」
田多良の前に立った真里谷は、ふっ、と小さく笑った。
「僕は、紫堂学園第十八代美化委員長、真里谷麗」
「委員長は、通称"白の女王"と呼ばれる御方です」
女王、の呼称を聞いた田多良達は更に瞠目した。
まさか――・・・。
「まさか・・・・・・あなたが"女王のお茶会"の主催者ですか?」
「それも今更だよ、副会長殿」
「あなた方の親衛隊員達は皆、委員長の事もお茶会の事も存じていますよ」
勿論、そのお茶会の意味も。
霧沢は更に付け加える。
「ちなみに、私は美化委員の霧沢です」
女王の犬、とも呼ばれますが。
それを自分で名乗る辺り、霧沢は名前よりも犬と呼ばれた方が嬉しいようだ。