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女王様のお出まし。
周囲の空気がざわり、と揺らいだのが彼らにも分かる。
「な、なんです・・・・・・?」
田多良がそれを気味悪がって周囲を見回すと、自分達を遠巻きに見ていた一般生徒達が顔色を悪くしているのが分かった。
しん、とした食堂。
流石の山瀬も、オドオドとして思わず川原の手を離した。
ようやく離された手を取り戻してみれば、手首には力強く掴まれた痕跡が残されており、川原は溜息を吐く。
しかし、それ以上のものが食堂に踏み込まれた事に気付いた。
「・・・・・・来たか」
「えっ?」
唸るように呟いた川原の言葉に気付いた田多良は、瞠目する。
食堂の入口から、モーゼの十戒のように生徒達が端へ避けていく――響くのは足音のみ。
そして、それはやってきた。
艶やかな漆黒の髪と双眸、右目尻の泣き黒子、スラリとした長身の割りに細身な生徒――真里谷、のその左腕には純白の腕章。
「随分と、賑やかだね?」
口端が僅かに上げられる。
一切笑っていないその目とは間逆の行為は、見た者を恐怖へと陥れるには充分だった。
「川原」
「・・・・・・なんだ」
「どうしたのかな、その手首」
ただ、押さえていただけというのに、川原の手首の異常に気付いた真里谷は異常だ、という事に気付く者がこの場にいるのだろうか。
「・・・・・・駄犬に噛まれたんだ」
「駄犬、ね・・・・・・僕はてっきり野猿かと思ってたんだけど」
違ったかな?と真里谷は首を傾げる。
「まあ、犬だろうと猿だろうと躾はちゃんとしなければ。今度はその程度じゃ済まないよ」
「分かっている」
「そうかな?これでも僕は気に入っているんだよ、君の事」
だから早く治してね、と言ったのを合図に、真里谷の後ろに控えていた生徒の一人が救急箱を持って川原の前に立った。