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お茶会という名の恐怖会議。
――ある日の午後。
四限目が終了し、昼食を開始しようとざわつく校内に、とある放送が流れた。
『只今より"女王のお茶会"が開催されます。参加する方は"十五時の間"までお越し下さい』
放送を聞いた大半の生徒達は首を傾げる――が、数人の生徒達は目を見開き、お茶会が開催される場所へ駆け抜けた。
ただし、何処へ向かうかはバレないように慎重に。
通称"十五時の間"と呼ばれる部屋は旧校舎の三階にあった。
そこは旧音楽室だったが、今は使われていない。
その癖、室内が清潔さを保っているのは真里谷のせいである。
「――さて、揃ったかな?」
教壇に置かれた椅子に座り、優雅に足を組む真里谷は、目の前に揃った生徒達に微笑む。
彼らに行き渡ったティーカップと、それに紅茶が注がれたのを確認した霧沢は頷いた。
「さあ、"お茶会"を始めよう」
* * *
旧校舎で"女王のお茶会"が開催されていた昼休み。
いつものように美形達を侍らせて食堂に来ていた転校生・山瀬は、"女王のお茶会"に行きたいと騒いでは田多良達を困らせていた。
「俺も参加したい!」
「陽平・・・・・・すみませんが、"女王のお茶会"なるものを僕達も知らないんです」
「「ごめんねー、陽平」」
「"十五時の間"も分からない」
申し訳なさそうに謝る田多良達だったが、山瀬はそれでは納得しない。
謎の解けない怒りの矛先は、一匹狼達にも降り懸かる。
「おまえらは!?」
「・・・・・・悪い、俺も知らねぇ」
「ごめん、陽平・・・・・・」
それもそうだ。
"女王のお茶会"、"十五時の間"を知る者は限られている。
その限られた人物の中に、彼らは入っていないのだから。
「なんだよ!俺に内緒にするなんて酷い!」
そう喚く山瀬を睨み付けるは、階下の生徒達。
そのほとんどは親衛隊だが。
実は、親衛隊員達は"女王のお茶会"を知っていた。
何故、親衛隊員達が知っているのかといえば、親衛隊になるには"女王のお茶会"の主催者と一度は面通しをしなければならないのだ。
だから、"女王"を知っている。
そして、その女王については他言無用だと"女王の犬"なる者から言われているのだ。
もし他言すれば・・・・・・なんて、恐ろしい事は考えたくもない。
親衛隊でありながら、自らが慕う者より女王の命令は絶対だった。
「"お茶会"については調べておきますから・・・・・・」
「「今度、一緒に"お茶会"行こうねー!!」」
「俺、も・・・・・・参加する・・・・・・」
四人の慰めにようやく気を持ち直したのか、元気良く頷き、昼食を再開した。
そんな彼らを尻目に、親衛隊員達はどうか彼らが女王の機嫌を損ねないようにと願うばかりだった。
――その願いは、お茶会が開催された時点で虚しく。
お茶会が終了した後、女王は小さく笑っていた。
自称・女王の犬と名乗りをあげる霧沢は、女王・真里谷のティーカップに新たな紅茶を注ぐ。
「楽しそうですね、委員長」
「霧沢は楽しくないかい?」
「委員長が楽しいのならば、私も楽しいです」
「相変わらず気持ち悪い思考。でも嫌いじゃない」
「有難うございます」
淡々としたやり取りの中に、笑いが含められただけで穏やかな会話に聞こえるのはこの二人だからであろう。
真里谷は紅茶を一口含み、また笑った。
「ねぇ、霧沢。僕の好きなものを知ってるかい」
「綺麗なもの、でしょう?」
「正解。ではその逆。嫌いなものは何だろうか」
「それも知っていますよ」
――汚いもの、です。
それも正解、と笑ったのはどちらだったか。