1番目の婚約解消④
ーーーしばらく婚約者のルカに会っていない…。少しくらい我が儘を言って会いに来てもらおう!!
思い立ったら吉日!ーーアンジェリアは早速、家令のセバスチャンに頼み、セーシル公爵家へお茶のお誘いを送った。
セーシル公爵もコーディル公爵と同じくガーライド王国のトップクラスの貴族であるため、直ぐに予定が空くとは考えにくい。
さらに、ルカは第三王子が同い年であるため、最近は王子の側近候補として王城に上がることも増えている。
アンジェリアは、1年前と比べてルカと遊べる機会が徐々に減ってきている事に不満を感じていた。
ーーー今日、連絡してもルカに会えるのは、きっと数日後になるわよね…
上位貴族は窮屈だなぁ、と思わず溜め息をつくと、お茶の準備をしていたマリアナが、その様子を見てクスクス笑い出した。
「アンジェリアお嬢様は、本当にセーシル公爵子息様の事が大好きなのですね。お側で見ていて微笑ましいです」
「もうからかって!! ーーゆっくり2人で遠出したのは、1年前の私の誕生日祝い位なものよ? しかも、私の誕生日は第一王子殿下の誕生日と同じだから、当日には会えないし…タチアナお姉様も殿下のご婚約者候補筆頭だから、家族で私のお祝いも出来ないしね」
アンジェリアは自身の誕生日に、たくさんのお祝いの贈り物を頂くことはあっても、当日に家族で祝ってもらったことはなかった。王太子に最有力の第一王子殿下の誕生祝いは盛大なもので、数日間に渡り王宮では、祝賀の夜会がある。国内の貴族はこぞって第一王子殿下の夜会に参加するのだ。公爵家であっても王家を立てる意味もあり、第一王子の夜会を優先させていた。これまでにアンジェリアの誕生日会は、残念なことに開かれたことはない。
「せめて、セーシル公爵子息様にたくさんお会いできれば、そう寂しくもなくなりますのにね?」
「もう!マリーは直ぐにからかうんだから!いいのよ、一緒にお出かけしなくても、お茶会とかで少しでも会えてるんだからーーそういうマリーには誰か好きな人はいないの? この屋敷にも若い人は、そこそこいるでしょう?」
「…お嬢様のようなお子様に心配される日が来ようとは…私もまだまだですねーーこほんーー私は、侍女のお仕事のお勉強と、アンジェリアお嬢様のお相手で手一杯でございますので、色恋している暇がないのです」
マリアナは、そういたずらっぽく笑うとアンジェリアの前にお茶菓子を差し出した。
「ーー?! これって!サスティアル王国のチョコレート!! どうしたの?!」
「アンジェリアお嬢様がお好きだからと、奥様が先日、お取り寄せなさいました」
「本当に? ちょうど食べたかったの! さすがお母様だわ! ーーーうーん! あぁ! 美味しいー!! もったいないけれど、マリーにも1つあげちゃうわ! いつもありがとう!」
「まぁ! アンジェリアお嬢様ったら。では、ありがたく頂きます」
アンジェリアが、部屋に他の侍女がいないのを確認してからマリアナにチョコレートを差し出すと、マリアナは遠慮する訳でもなく、喜んでチョコレートを受け取った。マリアナもまた、アンジェリアと同じくお菓子好きで、休みの日には屋敷から外出し、王都で評判のお菓子をアンジェリアへお土産に買ってきてくれる。
「せっかくだから、マリアナも椅子に座って食べれば良いのに。誰もいないんだから、お茶も一緒に飲もうよ?」
「ばれれば、侍女頭に叱られますので」
アンジェリアは1人のお茶会にちょっぴり寂しさを覚えて、乳母姉妹のマリアナに椅子をすすめたが、マリアナは即答で拒否をした。
「もう! マリーの頭でっかち! バーバラもそんなに怒んないって」
侍女頭のバーバラはマリアナの実の母であり、使用人達にはとても厳しい。けれども、公爵家の兄姉達とどことなく距離のあるアンジェリアには甘いことが多いのだ。
アンジェリアも、常に忙しく動き立ち回る実の母の公爵夫人よりも、バーバラに気安さを感じているし、懐いている。
アンジェリアが、どれだけすすめても椅子に座らないマリアナに拗ねていると、コンコンーーと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「おや? 僕のお姫様はまた、ご機嫌斜めなのかな? ーーー部屋の外までアンジェの拗ねた声が聞こえたよ?」
「へ?! ルカ!? どうしてウチに?」
アンジェリアとマリアナが慌ててドアの方を向くと、天使の様な美貌のアンジェリアの婚約者のルカが微笑んでいる。その直ぐ後ろには、鬼の形相をした家令のセバスチャンがアンジェリアとマリアナを睨んでいる。
どうやら、セバスチャンがルカをアンジェリアの部屋に案内したきたようだ。そして例に漏れず、アンジェリアの声が廊下まで響いてしまっていたらしい。
ーーーこれは、また、後で説教かしら…?
ーーーお嬢様が大声でお話されるからです!!
アンジェリアとマリアナが顔を見合わせて、目で会話をすると、セバスチャンが、ゴッホン!! と大きすぎる咳払いをした。
「ル、ルカ! どうぞこちらの席に、ちょうどお母様から頂いた美味しいチョコレートがあるのよ。ねっ?! マリー?!」
「は、はい! お嬢様! セ、セーシル公爵子息様、只今、お茶をご用意いたします。どうぞお席に!」
アンジェリアとマリアナが慌ててルカに席を薦めるのを、セバスチャンは目を細めながら確認した。そして、ルカに、ごゆっくり。と挨拶をして戻って行った。