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1番目の婚約解消③

 アンジェリアは他の兄姉達とは異なり、産まれたときからサスティアル王国特有の魔力を持っていた。

 コーディル公爵夫妻はガーライド国王と相談の上、揉め事が起きないよう、アンジェリアの魔力については一部の王族を除いて極秘扱いとした。

 もちろん、サスティアル王家もアンジェリアの魔力量を把握した上で、アンジェリアの安全のために公表は差し控えていた。


 世界最大の魔力を有するサスティアル王国では、その力を諸外国に悪用されるのを恐れて、他国との国交をほとんど絶っている。アンジェリアの母がガーライド王国に嫁いだのは、百年に一度あるかないかの大事件だったらしい。


 サスティアル王国の人間が諸外国に出てこないのは、子供の魔力も関連している。サスティアル王国の人間同士の婚姻では、魔力を持った子供が誕生するが、国外の者との婚姻では魔力をもたない子供が誕生する。

 そのため、サスティアル王国の王族では、特出した魔力を維持するために、国内の貴族間での婚姻が推奨されているのだ。


 例外としては、サスティアル王国外の王族や貴族との婚姻でも、奇跡に近い形で、魔力を持つ子供が誕生することもあった。サスティアル王国の書物には数百年前の過去に2人ほど、国外で微力な魔力を持つ子供が産まれた記録が残っている。

 けれども、アンジェリアようにサスティアル王族並みの魔力を持つ子供の誕生は今までになく、そもそも魔力を持つ子供の誕生は500年ぶりのことだった。


 ーーーそれに、魔力が弱いとサスティアル王国内で生きて行けないのよね…。


 サスティアル王国内には強力な魔力が渦巻いているため、何も策をとらなければ、周りの諸国の自然環境に悪影響を与えてしまうのだ。そのため、サスティアル王国の周りには魔力放出を防ぐためのシールドが張られている。このシールドのせいで、魔力が少ない人間は、サスティアル王国に長時間留まることが出来ない。強い魔力に当てられて内臓が腐敗してしまうらしい。


 サスティアル王国の新聞には、毎日、シールドの濃度が天気予報のように載っている。


 ーーーふむふむ…東海岸にあるローン港のシールド濃度が来月あたりに下がるのね…サスティアル王国貿易庁が諸外国との交易を行う…っと


 ーーーまぁ! お母様に頼んで、久しぶりに、サスティアル王国産のチョコレートを取り寄せれないかしら?!


 アンジェリアは母の公爵夫人に頼み、サスティアル王国にある人気の老舗のチョコレートを買って貰うことにした。

 アンジェリアがさらに新聞を読み進めると、ガーランド王国には広がっていない情報も目に入ってくる。


 ーーーふむふむ、サスティアル王国外での魔法石が発掘された件について…?


 ーーーあれ? 魔法石って、サスティアル王国外でも採れるの?


 新聞によると、サスティアル王国外で魔法石が採れるのは250年ぶりらしい。コーションという小さな国で魔法石の鉱山が見つかったと記載されていた。


 魔法石とは、魔力がない人間でも弱い魔法を使える便利な使い捨てアイテムだ。お湯を沸かしたり、ライトの熱源になったり、病気の治療にも使われる。

 サスティアル王国では純度の高い魔法石がたくさん採れるため、諸外国に貿易品として輸出している。諸外国はこれを買い求め、主に貴族の生活用品としてや医療用として利用している。


 アンジェリアは2、3年前に、母であるコーディル公爵夫人に魔力石について教わった事を思い出した。


『ねぇ。かかさま。サスティアル王国は、どうして魔法石を他の国に渡す量を制限しているの? みんなきっと、もっと欲しいのにーーアンジェのおじさんてば、意地悪な王様なの?』


『うふふーーお兄様ーーサスティアル国王は、決して意地悪で制限をしているわけではないのよ? ーーただ、多すぎる魔法石は人々の争いのもとになるの。生活を便利にするだけに用途を抑えなくてはならないのよ』


『争い事?みんな石を使って喧嘩をするの? 石の投げ合い?』


『まあ! アンジェったら! ーーーでも、そうね、アンジェの言うように、石の投げ合いで済めばどんなに良いかーー魔力石はね、使い方を間違えると、とても危険なの。魔法石を使えば武器の殺傷能力を増幅することが簡単に出来てしまうわ。サスティアル国王は人殺しに魔法石を使って欲しくないのよ』


『ーーふーん。おじさんも大変なのね!』


 ーーー今思い出すと、サスティアル国王をおじさんって呼んでいたっけ


 ーーー言葉遣いが酷く悪いって、お父様にものすごい剣幕で説教されたなぁ…


 父親であるコーディル公爵に、サスティアル国王を『おじさん』呼ばわりしていたのを見つかって、アンジェリアは今までにないくらい、叱られた事も思い出してしまった。


 ーーーふーん、コーション国の魔力石の埋蔵量は、良くて10年、短くて数年程度の量なのね…それでも周りの国は喉から手が出るほど、その鉱山をほしいはずだわ!


 ーーーでも、これって…とても嫌な予感がするーーお母様の仰ったみたいに、何か争いが起こらなければ良いけれど…


 サスティアル王国の新聞には更に、ローン港の交易にはサスティアル王国の副将軍、シャーナ公爵が同行すると書かれていた。


 ーーーシャーナ伯母さまも?サスティアル王国外での魔力石発見といい、シャーナ王妹殿下の同行といい何だか胸騒ぎがするわね…


 シャーナ公爵はアンジェリアの母の姉にあたり、サスティアル国王の妹でありながら、魔力量の多さと騎士としてのずば抜けた素質で、サスティアル王国の副将軍の職に就いていた。アンジェリアは、シャーナ公爵が妹であるコーディル公爵夫人に極秘で会いに来た時、面会をしたこともあった。


 ーーーものすごく綺麗なのに、大雑把な…おおらかな人柄だったわね


「あら? 珍しい!! アンジェリアお嬢様がお勉強をサボっていらっしゃるなんて!」


「ーー?! マ、マリー! びっくりした!! ーーそうね、久しぶりに気になる書物が置いてあって…」


 アンジェリアはあまりにも新聞に没頭していたらしい。約束していたティータイムの時間はとっくに過ぎてしまっている。部屋に戻らないアンジェリアを心配して、侍女見習いのマリアナが図書室に様子を見に来たようだ。


「ーーこれは…? サスティアル王国の新聞ですか? たしか、奥様が朝早くお読みになられておりましたねーーーアンジェリアお嬢様は、すでにサスティアル語も完璧なのですか?」


「小さいときに、お母様がサスティアル語を教えてくださったのよ。今でも時々、あちらの言葉を使ってくださるわ」


「小さいときって…お嬢様はまだ8歳でしょうに」


「あら本当ね! まだまだ、子供だったわ! もうこの際、勉強なんてやめようかしら?」


「ーーその言葉を聞いたら、婚約者様のルカ様が泣きますよ」


「ふふ、そうだと嬉しいわね」


 何でも完璧にこなすルカはまさに神童である。そんな婚姻者は、端から見てもアンジェリア自身を強く望んでくれているらしい。アンジェリアは、それがとても嬉しく、膨大な勉強をこなす励みになっていた。


 ーーーそういえば、ルカに最後にあったのはいつだったかしら?


 アンジェリアは忙しくてなかなか会いに来てくれない婚約者を寂しく思いながら、部屋に戻る準備を始めた。


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