表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/96

1番目の婚約解消②

 

 ーーー何でこんなに毎日勉強漬けなのかしら?


 セーシル公爵子息、ルカ=フォーガス=セーシルとコーディル公爵令嬢、アンジェリア=コーディルの婚約が新聞に発表されて1年と少し、アンジェリアは日々歴史や言語、文化、政治と、ありとあらゆる学問に取り組むことになった。


 ルカと婚約する少し前までは、1番上の姉タチアナの山程ある王子妃教育を横目に、公爵令嬢とは思えないくらいのんびり過ごしてきたというのに。

 最近では、毎日家庭教師から出される宿題のために、広大なコーディル公爵家の庭で1人でゆっくりお茶を飲む時間も難しいくらいだ。

 というのも、ルカのセーシル公爵家の華麗なる家系に関係している。

 アンジェリアと婚約したルカの父であるセーシル公爵がガーライド王家の王族であり、公爵夫人自身もフォーガス国の元王女である。セーシル公爵家に嫁ぐためには、両国の貴族が学ぶ学問を会得しなくてはならない。そのため、幼いながらもアンジェリアは毎日参考書の山に頭を突き合わせていた。


「ほんと、ルカってば、いつ勉強していたのかしら? 婚約前も私と頻繁に遊び回っていたわよね?」


「セーシル公爵嗣子様は、ご誕生のときから少しずつあらゆる学問に触れてきたと聞きます。それに、紳士たるもの、必死な様子は他者には見せないものですから」


 マリアナは、主人のアンジェリアの不満を気の毒に思いながら、少しでも励みになればとアンジェリアの好きな紅茶をテーブルに用意した。

 アンジェリアはマリアナの用意してくれた大好きな紅茶に手を伸ばしながら、フォーガス王家の歴史の参考書を読み進める。


「…でも、マリーも不思議に思わない? ルカはいつも疲れなんか見せないわよ? ルカだけ、毎日28時間くらいあるんじゃないかと思うわ!」


「では、アンジェリアお嬢様も毎日4時間長ければ、ルカ様のように完璧にこの参考書の山をこなせると?」


「もう!マリーの意地悪ー!!」


 マリアナに軽口を叩きながらも、アンジェリアは真剣に参考書を読み進めていく。アンジェリアの努力もあって、家庭教師が提示したスケジュールよりは少し早めに学問を会得していた。少々文句は多いが、頑張るアンジェリアに家庭教師からの評判も良い。


 アンジェリアは、セーシル公爵家との縁談が決まった後、勉強のため、子供達を集めた何かしらの茶会に参加することも減った。

 結果、コーディル公爵家の屋敷ではアンジェリアが1人で静かに机に向かって過ごす事が多くなっていた。


 一方で、アンジェリアの一番上の姉のタチアナや兄のギルバードはガーライド王室の第一王子と年齢が近く、親交を深めていた。

 2人は幼い時より、コーディル公爵が日々王宮に通うのについて行った。その縁で今では、第一王子の王子妃候補や側近候補に上がっている。そのため、タチアナは王宮での王子妃教育、ギルバードは側近見習いがある。2人はアンジェリアとは反対にコーディル公爵家の屋敷にいることは少ない。


 アンジェリアの直ぐ上の姉のセライアも、社交的な性格も相まって母の公爵夫人と共に、日々、子供連れOKの茶会に勤しんでいた。

 こちらも、今日は朝から、遠方の侯爵家にお邪魔しているらしい。母もセライアも、コーディル公爵家の屋敷には、夜にならないと帰宅しない予定だ。


 広大な公爵家の屋敷に、ただ一人留守番をすることが増えたアンジェリアだったが、静かで落ち着いた雰囲気の屋敷を気に入っていた。


「ねぇ、マリー? 今日は昼食の後、離れの図書室でガーライド王国の法規関連の入門書を探したいの。夕方には部屋に戻るわ」


「なんだかんだ、アンジェリアお嬢様も熱心ですねーーー畏まりました。では、夕方に少し遅いティータイムの準備をさせていただきますね」


「うん。ありがとう」


 ーーーできるだけたくさんの知識を身につけたいもの!

 ーーー天使のようなルカの婚約者になれたのだから、周りに認められる淑女を目指さなきゃ!


 アンジェリアの婚約者、ルカは母方のフォーガス王家の特徴を色濃く受け継いでおり、金髪に碧眼、突き通った肌を持ち、長い手足で、小さな天使が地上に舞い降りたかの容貌をしていた。

 また、10歳にしては思慮深く、落ち着いていたために、同世代の子供達には、憧れの対象といった意味合いで、少し遠巻きに見られていた。


 対してアンジェリアと言えば、濃いブロンズヘアで人懐こい大きな栗色の目をしており、子供らしく元気いっぱいの明るい性格であった。

 ただ、アンジェリアの母の故郷、サスティアル王家が世界最強の魔力を有する国であり、滅多に国交を開かないことで有名だったため、他の貴族と比べると少し特殊な環境にあった。

 サスティアル王家は一般の貴族にとっては謎に包まれた存在であり、周りの貴族の子息達から少し距離を取られていた。


 ルカもアンジェリア共に、高貴な生い立ちにあり、周りから浮いた存在であった。そのため、自然と2人はお互いに関心を持ち惹かれていった。幸いにして、領地も隣同士、親の爵位も同じであり、母親同士が親友という気安さから、両家の交流も多かったのである。


 ーーーーーー


「うーん。この辺りにあったと思うんだけど…」


 昼食の後、アンジェリアは屋敷の離れの図書室で目的の本を探していた。

 コーディル公爵家の図書室は国立図書館に次ぐ規模があり、一部は一般にも解放されている。アンジェリアはコーディル公爵家専用の閲覧室で、午前中に引き続き勉強を始めようとしていた。


「あら? ーーなんて珍しい! サスティアル王国の新聞だわ!」


 目的のガーライド王国の法規関連の入門書を探していると、母親の公爵夫人が定期的に入手しているサスティアル王国の新聞を見つけた。

 サスティアル王国の、特に新聞などはサスティアル王国から門外不出とされている。どうやら、サスティアル王国の元王女の母が王族の権限を使って、取り寄せたものをうっかり仕舞うのを忘れたようだ。


 ーーーラッキー! サスティアル王国の新聞なんて、早々お目にかかれないわ!


 アンジェリアは、すっかり興味が勉強からサスティアル国の新聞へ移ってしまった。

 コーディル公爵家専用の静かな図書室には、周りに咎める人間もいない。たまには、勉強をサボっちゃおう! なんて思いながら、アンジェリアは新聞を広げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ