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4回目の婚約解消をされたなら

1話が少し長めのお話です。

最後はハッピーエンドを目指して進んでいきます。


自身の身分に囚われ、自分の感情を抑えなければならない少し可愛そうな女の子のお話です。

 

 コーディル公爵家、御令嬢アンジェリア殿


 ○○日、王宮夏のガーデンにて、

 ガーライド国第三王子カーディス殿下ならびに聖女キアラ様のご婚約記念のガーデンパーティーを王妃様の主催の下開催されます。

 貴殿には是非とも参加してほしいとの、カーディス殿下からの御言葉がございます。

 何卒御出席されるよう。

 心よりお待ちしております。


        内務省 長官 サザーランド



 広大な庭に面した明るい室内には、白を基調に上品にあつらえた家具、繊細な美術品が飾られ、テーブルには庶民には手が届かない高級茶が置かれている。

 まさに、高位貴族、ご令嬢の私室!という雰囲気だ。

 しかし、その部屋の主人ーーまだ大人の女性とは呼ぶにはまだ少し早いーー可憐で美しい少女が、盛大な溜め息をつきながら、ソファーにごろんと寝転んでいた。

 手には王宮からの招待状があり、それを団扇のようにしてパタパタと顔を扇いでいる。


 ーーーすごーく上品で高級そうで、封書のセンスのかなり良い招待状なのに。元婚約者を婚約発表の場に参加させるなんてーーー


「ねぇ、マリー?やっぱり、私は、この茶会を欠席してもーー」


「いけません!これは、王妃様、直々の高位貴族のみを集めたお茶会です。当公爵家がお2人のご婚約に反意がないことをアピールするためにも、アンジェリア様は必ずご参加くださいませ」


 さぁ、きちんと座ってくださいーーと侍女に叱られても、少女は全く気にしない。


 ーーー婚約に反意なんて、あり得ない。二人とも、愛してるだの、永遠だのと、幸せそうにーーー


 ーーー私から、大切な人を取り上げておいて、王族は永遠の愛を誓うのねーーー


「まぁ、お父様はそう言ってたけれど…ね?ーーちょっと、傷心で臥せてるとかってどう?欠席の言い訳としては悪くないでしょう…?」


「通じません!アンジェリアお嬢様自身、第三王子殿下とのご婚約にも、全く乗り気ではなかったではありませんか?傷心など、直ぐにでまかせとばれましょう。ここは、周りの視線など、どうか我慢なさいませ!」


 少女ーーアンジェリアが、上目遣いでお茶会の欠席を嘆願しても、彼女の侍女は全く取り合わない。


「確かに、カーディス殿下との婚約は乗り気ではなかったわよ?ーーでも、やっぱり婚約は無し!って言うならば、最初から婚約なんて話、王族から持ってこないでほしいかったわーーただ、婚約解消記録を伸ばしただけになったではないのーー」


 はぁー、と少女が特大の溜め息をつくと、侍女が『幸せが逃げますよ』と注意してきた。


 ーーー幸せが逃げる?ーーー


 ーーーどんなに望んでも、私に幸せは戻ってきてはくれないのに?ーーー


 ーーー逃げて困る幸せは、私には、もうないのに?ーーー



 少女と第三王子カーディスとの婚約は、これまでの少女の国に対する働きが認められ、その褒美として国王から与えられたものだった。

 そして、少女は国の意向に従って、それまでにも3回婚約をしており、これまた政局の変化によって3回婚約が解消ーー破綻となっていた。

 第三王子カーディスとの婚約はアンジェリアにとって4回目であったため、婚約が破綻したのも4回目となった。

 王公貴族は少女の事を気の毒には思いつつも、滅多におきない婚約解消ーー破綻が4回も起きた公爵令嬢として面白おかしく、縁起の悪い()()()と影で噂していた。


「ねぇ?マリー?それにしても、わざわざ元婚約者の私を、新しい婚約者の披露のために呼び出して、何が楽しいのかしら?ーーお目出度い席に、不吉な『破綻娘』を呼ぶなんて、ほんと、カーディス殿下もかなり趣味悪いーー」


 少女は抑えきれない不満を並べていると、思わず自身の不名誉なあだ名を口にしてしまった。そして、その通り名をひどく嫌う少女の侍女は、直ぐに少女の話を遮った。


「お嬢様は『破綻娘』ではありません!我がガーライド王国の公爵家の立派なご令嬢でございます!!」


「その公爵家の立派なご令嬢は、これまで王家のために、何度も苦行を強いられていますけれど?それなのに、きっと嫌な思いのする、お茶会に参加しなくてはならないのーーー?」


 少女が侍女に問えば、侍女はぐぅーーっと言葉に詰まった。本当は、侍女もその少女の待遇に納得はしていないのだ。けれどもこれ以上、少女の置かれる状況をさらに悪化させたくはない。


「ーーーはぁ、わかりました。では、アンジェリアお嬢様は、王妃様主催のお茶会をご欠席されますか?

 後で、第三王子の元婚約者が婚約破綻が、悔しくて恥ずかしくて、お茶会から逃げたーっなんて、後ろ指さされるんですよ?アンジェリアお嬢様がそれで良いのならーー」


 侍女は少女に、お茶会を欠席した場合の評判について述べた。たぶん、少女自身が状況を一番理解しているのだ。分かってはいるが、気持ちが整理できないため、駄々を捏ねているに過ぎない。


「ーーーわかったわ…。ただ、納得いかないだけ…」


 少女の侍女は、疲れたように頭を垂れる少女の手を引っ張り、豪華なドレッサーに座らせた。そして、お茶会のために取り寄せた特別豪華な宝石類をテーブルに並べて準備に取りかかる。


 王妃主催のお茶会への参加を拒んでいるのは、コーディル公爵家の三女、アンジェリア=コーディルである。そして、彼女に仕えているのは、主人より4歳だけ歳上の専属侍女、マリアナである。

 アンジェリアとマリアナは乳姉妹の仲であり、昔からの気安さがある。王宮のお茶会にアンジェリアを参加させるべく、時に励まし、叱りながら、テキパキと主人の身だしなみを整えていく。


 先日、王宮からお茶会の招待状が届いたコーディル公爵家は、ガーライド王国の5大公爵家のひとつであり、王家からの信頼も厚い。アンジェリアはそのコーディル公爵家の末娘で、当主のコーディル公爵は、子供達の中でも特にアンジェリアを可愛がっている。けれども、アンジェリアに甘い公爵も、今回は王族の婚約発表という名目がお茶会にあるためか、お茶会の欠席を許してはくれなかった。


「タチアナお姉様が王太子殿下の婚約者に、無事収まったのに。また、王城に出向いて行かなければならないなんてねーーそれに、王家にとっても、私はもう用済みーー」


 鏡に写った自分をぼんやり眺めながら、アンジェリアは、この期に及んでも、王宮に行かなくてはならないことを嘆いた。アンジェリアは、今まで、国内外の情勢の悪化により、自国の王族だけではなく他国の王族にも振り回され続けていた経緯があった。

 ようやく、情勢が安定して、自身と王家との直接的な繋がりがなくなり、この度お役目御免となったのだ。


「まぁ!用済みとは何ですか!?アンジェリアお嬢様は、ガーライド王家のために、これまでたくさんの苦難を歩んで参られました。これからも王家は、お嬢様を無下にはなさらないはずです!

 それに、王太子妃にお決まりになった、タチアナお嬢様のお立場もあります!ーー第三王子の婚約者披露のお茶会くらい乗りきってくださいませ!」


「はいはい、マリーの言う通りにするわ」


 アンジェリアは、とうとう愚痴るのも面倒になり、両手をひらひらさせて降参のポーズをした。


 コーディル公爵には3人の娘がおり、長女のタチアナは、先日揉めに揉めて、ようやく王太子殿下の婚約者に決定していた。そのため、第三王子の婚約者にすでに決まっていたアンジェリアは、王太子妃決定に押し出されるように、第三王子との婚約が解消になったのである。

 ひとつの公爵家から2人の娘が同時期に王家に嫁ぐのは流石に不味い。王太子殿下の婚約者として、年長であり、地位の高い者に嫁ぐタチアナが優先された形である。

 一方、今後アンジェリアは王家から婚約を解消された令嬢として、社交界で今後生き抜くことになる。アンジェリアは、王太子殿下とタチアナの婚姻により、将来の国王の義妹になる。そして、婚約を解消した第三王子と義理の兄弟と言うなんとも言えない微妙な関係になってしまった。


「ほんとうに、カーディス様とキアラ様の婚約には異議がないんだけど。周りの視線が痛いのよね…私が参加したら、みんな修羅場を期待して、好奇な目で見てくるに違いないわ」


「お辛いのは理解できますーーけれども、欠席されれば、第三王子妃の立場に未練でもあるのかと詮索されましょう。コーディル公爵家のアンジェリア様には、お二人のご婚約に異がないことをお示しになってきてくださいませ」


 マリアナは、険しい表情を浮かべるアンジェリアに、何とか爽やかな印象を与えるよう、お茶会用のメイクを施した。次はドレスへお着替えをーーと、マリアナがアンジェリアを姿見の前に連れていくと、侍女のアンナが、ちょうど衣装部屋からドレスを持ってきた。


「わかってるのーーでもね、精神的に疲れるのは避けられないわ。きっと、影でこそこそと、あることないこと……気が重いわ…」


 姿見の前にアンジェリアを立たせて、侍女2人がかりでコルセットをつけていくと、アンジェリアの眉間のシワが濃くなった。


 アンジェリアの元婚約者、第三王子のカーディスは、アンジェリアとの婚約解消の後、直ぐに新たな婚約者を据えていた。


 ガーライド王国の国教会に突如お告げがあり、聖女キアラが現れたのだ。聖女は国に反映をもたらすと約束された存在である。そのため、聖女が他国に渡れば大問題である。幸いにも、聖女を年齢の近いカーディス殿下と引き合わせ、お膳立てをすれば、直ぐに2人は恋に落ちた。そして直ぐに2人の婚約が発表になったのだ。


 もちろん、その少し前には、アンジェリアの姉のタチアナが王太子妃の指名を受けていた。そして直後に、アンジェリアとカーディス殿下の婚約について、王宮から解消の通達がきていたーーという、流れなのだが、民衆は、面白おかしく新聞や雑誌に、()()()()()また、惨敗!約束通り、恋に破れたアンジェリア!!等と騒ぎ立てた。


 反対に、アンジェリアの姉のタチアナがずっと慕っていた王太子と結ばれ、今度は、聖女キアラがガーライド王国に現れて第三王子と結ばれた!!ーーと、民衆は2組の恋愛に大いに騒ぎ、喜びに湧いていた。


 その渦中に不幸にも巻き込まれてしまったアンジェリアは、ここ数日ずっと気分が塞ぎ気味である。


 マリアナは嘆くアンジェリアを気の毒に感じていた。けれども、断ることは赦されないお茶会のため、せめてアンジェリアを最高にキレイに仕上げなくてはと意気込んでいた。


「この度もご婚約解消は、アンジェリアお嬢様には非はございません。全て政局のせいでこざいましょう?ーーーさぁさ、しっかりなさいませ。ご帰宅されましたら、ラティルのチョコレートケーキをご用意させて頂きますよ?」


「本当に?あそこのチョコレートは王宮でも評判なのよね!マリー絶対よ!」


 チョコレートが大好きなアンジェリアに、街で行列が途切れなくて評判のケーキ屋の名前を出せば、アンジェリアは少し元気を取り戻した。マリアナはようやく落ち着き、素直に着替え始めた主人を誰よりも美しくすべく、気合いを入れ直して準備に取りかかった。



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