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辺境伯一族の恋物語

悪役令嬢の姉 リディアの恋 〜辺境伯一族恋の物語〜

作者: 浅村鈴

私はフェルゼン辺境伯の5人兄弟の4番目で次女として生まれる。

妹は私が5歳の時生まれた。

生まれた妹はセレンティアと名付けられ、本当に可愛くて側を離れるのが辛いくらいだった。

そんな可愛い妹が小さな時から夢でうなされる事があった。

しゃべれる様になった頃ベットで泣く妹に聞くと、自分は悪役令嬢だから、王家に断罪されるのだと、自分の所為で家族の私達も領民達も皆殺しにされるのだと。

ごめんなさいと何度も泣きながら言っていた。

セレンティアは一所懸命考えて、王家の力が領地に及ばない様に、力や財力を付けることに決めた。

実行する為に寝る間も惜しんで勉強して、父の領地経営に声を上げ、冒険者や商業ギルドを立ち上げ、魔導士達を育成する為にプログラム作りまでした。

領民の為に学校や病院まで作った。

普通なら貴族の幼い娘が出来るはずないのに。

セレンティアは12歳で成し遂げていた。


『私は悪役令嬢だから、皆を幸せにしなきゃいけないの』


それが、妹の口癖だった。


大好きな大事な妹。

貴方が皆を守るなら私は貴方を守るわ。


愛しい悪役令嬢の妹を守る為、知識や人脈を作る為、17歳になった私は帝国に留学する。



「国が違うと雰囲気も空気も違うのね」


初めて国を出て違う国に入り感じた事。

帝国には叔母さまが嫁いでいる。

叔母さま宅に居候しながら、帝立学園に通う事になる。



「叔母さま!」


「リディア!いらっしゃい!」


叔母さまは、さっそく抱きしめてくれた。

父の妹である、叔母さまは愛しいセレンティアに似ている。

父と叔母さまが似ているんだから当たり前なのだが。


「今日からよろしくお願い致します。

学校が無い時はお茶会や舞踏会にも参加しますから」


「分かっているわよ。人脈作りでしょう?

私のツテで招待状は頂いているから安心して。

一緒に参加しましょう」


「はい!」


叔母さまは帝国の宰相であるアラン・ドランジェ侯爵に王国で出会い、嫁いでから今では帝国の白銀の薔薇と言われている。

叔母さまの人脈を私がもっと広げて、未来にセレンティアが辛い思いをする様なら、力を貸して貰える様にするのが、私の出来る事。


私達がセレンティアを大事にしている様に、叔母さまもセレンティアを愛してくれてる。

夢見の事も知っている。

叔母さま自身、昔元婚約者から

『お前は悪役令嬢だっ!』

て言われた過去があるらしい。

だから私がやろうとしている事も理解してくれて、社交界で困らない様に、ドレスも、服も、小物等全て用意してくれた。

全てはセレンティアの為に!


帝立学園では王族、貴族、商家、市井、身分関係なく実力ある者が学んでいる。

人脈を作るのが1番の目的で来た学園生活だけど、知らない事を知る事は楽しくもあり、負けずに頑張ろうと思える。

学園の中には森に近い沢山の木々や花があり、領地を思い出し、放課後散策しているとガラス張りの温室を見つけた。

温室の中に入ると、金髪碧眼のエプロンをした男子学生が水やりをしていた。


「いらっしゃい、迷子ですか?」


優しい笑顔で声を掛けてきた。


「あ、勝手に入ってすみません。

散策していたら、温室を見つけて、入ってしまいました」


「大丈夫ですよ。此処は学園の奥にあるので、人が来る事はめったにありませんが、立ち入り禁止ではないですから。

お好きな植物はありますか?」



「植物はどれも好きですが、1番好きなのは白銀の薔薇です」


妹に似た白銀の薔薇。珍しくて、栽培が難しい種類だから滅多に見る事は出来ない薔薇。


「見ますか?」



「え?あるんですか?ここに?」



「はい。温室の奥で僕が育てている、鉢植えがありますよ」


薔薇が咲く、温室の奥に案内してくれた。進んで行くと、鉢植えの白銀の薔薇が目に飛び込んできた。


「綺麗…」


見事に咲く白銀の薔薇に見惚れていた。


「一輪だけですが、どうぞ」


そっと薔薇を差し出してくれた。


「え…。貴重な薔薇なのに。切ってしまって良かったのですか?」


「特別です」


優しく微笑んでくれた。


「ありがとうございます」


嬉しくて胸が躍っていた。


薔薇は暫く部屋の花瓶に飾り、散る間際に本に挟んで、乾燥させてから栞にした。

薔薇を頂いた時、自己紹介をしていた。

温室の主の名前はレオンと言うらしい。留学生で私より2歳上。


リディアは息抜きをしたい時、温室に足を運ぶ。

毎日行くと温室の主に気を遣わせてしまいそうだったから、本当に時々。



温室へ入るといつもいる人の気配がしない…。


今日はいないのか……。

いつ来ても此処は澄んでる。今夜は夜会だったわね…。帰らなきゃ。


澄んだ空気を吸い込み元気チャージをした。


今夜の夜会では叔母さま夫妻とエスコートは従兄弟のエリオット兄様がしてくる事になっている。

侍女達が気合いを入れて、用意を進めてくれる。



帝国に留学して二ヶ月、夜会でも顔見知りが増えた。


「リディア!夜会に参加してくれたのね!」


帝国に来て1番の協力者になったのは、目の前にいるクリスティーナ皇女。

見た目の可愛さと明晰な頭脳を併せ持つ素敵な皇女様。少しセレンティアに似てる。


「ご招待ありがとうございます。今日のドレス、良く似合ってますわ」


「ありがとう!リディアの瞳と同じ色のドレスにしたのよ!」


くるくる表情が変わるクリスティーナは本当に可愛い。


「…!?レオン?」


「どうしたの?」


「知り合いが居たような気がして…」


「もしかして、好きな人?」


「! そんなんじゃないんです!」


「リディア、可愛い」


そんなやりとりをしてると、背後から人の気配がした。


「一曲お願い出来ますか?」


ダンスの申込者はレオンだった。驚いたけど、返事を待たせる訳には行かない。


「喜んで」


手を出し、手を取られ、ダンスフロアに向かった。


「レオン様もこの夜会に招待されていたのですね」


「はい、俺は皇室預かりの留学生なので。

今夜はリディアを見つけたので、普段ダンスはしないのですが、声を掛けてしまいました。

迷惑ではなかったですか?」



「とんでもない。嬉しかったです」


不思議と素直な気持ちが言葉に出た。


普段ダンスはしないと言ったレオンだけど、とても上手なリードだった。


レオンとのひと時は夢の様だったが、帝国に来た目的を忘れる訳にはいかない。


有力貴族や商人の奥様方を紹介してもらい、友好を積み重ねる。


夜会は戦場だ。


週末の夜会の為学園が休みなので、朝はゆっくりすることが出来た。

ふっと温室の花が見たくなり、屋敷の馬車で学園に送ってもらった。


やっぱり此処は落ち着くわ。


温室の真ん中にはテーブルと椅子が置いてあり、座って花を眺めていると、レオンがティーポットとカップを2個持ってきて、カップをテーブルに置き、紅茶を淹れてくれた。


「俺が作った紅茶葉の紅茶です。どうぞ」


紅茶を作る?なんか凄くない?なんて、思いながら頂くと


「美味しい!柑橘系の香りも好きです!!」

個人が作った紅茶の美味しさに驚いた。


「好みに合って良かったです」


リディアは鞄から持ってきていた手作りのマフィンを出した。


「良かったらどうぞ。

私が作りましたが味は保証しますよ。

妹が好きでよく作っていたものですから」


「妹さんの事大事なんですね」


「はい!大事な愛しい妹です!!

家族思いな子なんですよ。セレンティアは」



「セレンティア?

リディア、貴方のご実家の家名は?」


妹の名前が出た途端レオンの表情が変わった。


「我が家ですか?

父はフェルゼン辺境伯です」


「…!!私は貴方の妹のセレンティアの夢見に助けられ、命を救われたんです」


「え?どう言う事なんですか?」


リディアはレオンの言葉に驚いて立ち上がった。


「私はレオン・ラウカニア。

ラウカニア現国王の弟です。

王国では死んだ事になっていますが、辺境伯や宰相が死んだ事にしてくださり、トルーシャ帝国の皇帝預かりの身です」


「お父様が?でもセレンティアに救われたとは?」


「セレンティアの夢見で、俺が無実の罪で国王に殺されると言っていたそうです。

彼女は帝国に流行る疫病や災害なども言い当てていて、被害を未然に防げました。その事は皇帝の知る事となり、私を保護して頂き、今のこの時が、あります。

私はセレンティアのおかげで、生きています」



夢見でいつも苦しんで泣いていたあの子の言葉に皆が動いて、沢山の人が助かっていたのね。


「貴方が生きていて良かった…」


自然と言葉が出ていた。



「セレンティアの力になれるなら、俺は命も捧げる覚悟です」


「私も…。セレンティアも貴方も守って見せます!」


お互いの出会った意味を、存在を改めて実感し、2人は抱きしめ合っていた。



帝国に来て4年の月日が経っていた。

父からの早馬の知らせで、王家が動いたらしい。セレンティアを手に入れようとしていると。

4年の間、国王一家を追い落とす手筈は整っている。

後は計画を進めるだけだった。

私は実家に一足先に戻り、計画を実行する為、セレンティアが王城に行くのに付き添った。

王の謁見に向かうと案の定、結婚を迫ってきた。

父はセレンティアには知らせず、前以て幼馴染の恋人のマックスと婚姻させていた。

当てが外れた国王の次の行動も手に取るように分かっていた。

宰相も、枢機卿も3大公爵家も騎士団長も今でも王家から無理難題を言われている上に、夢見では冤罪で一族死罪にさせられている。

何年も話し合い、時を待った。

国を変える為に。


今がその時!セレンティアは泣かせない!!


「国王、貴方は先程罷免されました。

新しい王も決まっております」


「はぁ?罷免?

誰がそんな事出来ると言うのだ。それに新しい王だと?誰だ!それは!!」


「前王様、王を罷免するには3大公爵家並び宰相、教皇、帝国帝王のサインが揃えば出来ることをお忘れですか?」


宰相がサインが書かれた書類を見せた


「それから新しい王は貴方様の実弟のレオン様です!」


「レオン?馬鹿を言うな!レオンは死んだはずだ!!」


「レオン様は亡くなっておりません。国王の命令で処刑せよと言われましたが、身代わりの死体を用意し、帝国で過ごされていました。貴方達一家は自分の欲の為だけに、国民からの税を使い、今では国庫は空に近い。

お金が無くなると潤った領地を手に入れる為謀反をでっちあげ家門を潰してきた行為は皆が知っております」



「もう誰も兄上達の命令を聞く者はおりません

貴方方はこのまま牢に入って頂きます」


「放せ!無礼者!放さぬかぁー!」

3人とも往生際悪く暴れていた。



「セレンティア嬢、はじめまして。

私は貴方に命を救われたんですよ」


レオン新国王がセレンティアに近づいた


「私に…ですか? 私は何も…?」


「貴方の夢見が私や国を助けてくれたのです。感謝しています」



セレンティアはレオンを助けた覚えは一切なかった。

言葉がしゃべれる様になった頃、夜中に泣きながら両親に怖い夢の話をしていた。

幼い子が何度も鮮明に話す事を書き留め、その話が現実になっていくに連れ、名前が出た者に両親は相談して行った。

王弟のレオン、宰相、騎士団長、3大公爵家、教皇、帝国帝王にまで。

セレンティアは自分が断罪されるだけでなく、罪のない人が殺されたり被害に遭う事も辛く鮮明に語っていた。

はじめは誰も信じる事はなかったが、災害や凶作での被害なども言い当てた為、いざと言う時に皆で動ける様にしていたのだった。国の為に。

決定的だったのはレオン王弟殿下の殺害命令だった。

秘密裡に帝国に逃し、逆に国王一家が決定的なボロを出すのを待った。


「俺は正しい、国民に寄り添った王になる事を君に誓うよ。

リディアと共に」


リディアはセレンティアを抱きしめた。


もう怖い事は何も無いわ。貴方が皆を守った様に、これからは私達が貴方を守るから。


セレンティアは安堵から、初めて思いっきり声を出して泣いた。

リディアの腕の中で。


レオンはセレンティアに誓った通り、国民に寄り添った王になり、リディアは王を支え、生まれた子供達も愚王にならない様にしっかり教育した。

前王一家の浪費で国庫は傾いていたが、セレンティアの知識を借り、負債もあっという間に返す事が出来た。


城下町では市井の娘姿に変装した、仲の良い姉妹をたまに見る事があったが、それが、王妃と妹だと市民にバレていたのは2人は知らない優しい事実だった……。


読んでくださってありがとうございました!


評価頂けると励みになります!


ブックマーク、感想、誤字脱字のご指摘も嬉しいです。



「なんて素敵な悪役令嬢」のセレンティアの姉、リディアの恋の物語です

フェルゼン辺境伯一族の恋の物語は、短編で少しずつ書いていきますので、よろしくお願い致します。


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