2話
「はい、ケイトにはこれね」
シズは野菜炒めとスープ、パンを乗っけた板をカウンターに置く。そして、スープとパンをつける。
うん、きれいに盛りつけられた。
料理の出来に満足して、シズは頷く。長袖の上にエプロン。下は靴にかかるぐらいの長さのズボン。汚れてもいい安物の服だが、料理をするため、毎日洗って清潔にしてある。清潔な格好で料理を作るのは、シズが常に心がけていることだ。
相手が気分よく食べてもらえるように。
そのために、料理も一品一品心を込めて作っている。
それを受け取ったケイトは、眉をひそめる。
「シズ、俺もっとがつんとしたものが食べたいんだけど。油いっぱいの。ほら、昨日オーク仕留めただろ。あれとか」
「お前格闘家だろ。スピード重視の。ダンジョン前に油が多い肉なんて食うなよ」
ケイトは半袖にゆったりとした長ズボンという動きやすい服装をしている。まだ装備はつけていないが、この上に、急所を守るために革製の胸当て。手には金属製の小手を装着する。シズの言った通り、素早さを生かして戦うタイプだ。
戦闘では前線を戦いつつ、ときには後方の魔法職を守る。そんな彼が、胃もたれで動きが鈍ってパーティーが壊滅、なんてことになったら笑い話にもならない。
「でもな……朝ご飯だから。これじゃ、がつんと力が出ないし」
「バフかけてあるよ。それに、肉なら夜に出すから」
「わかった……はあ、ちゃんと肉出してくれよ」
ケイトは不満な様子を隠すことなく言う。料理を持ち、パーティーメンバーが待つテーブルに歩いて行く。
シズが料理を提供しているのは、サンイン王国で最大手の冒険者グループ――グローリーに併設してある食堂だ。
シズは、この食堂をひとりで切り盛りする料理人だ。
たったひとり。ほかの料理人も補佐をしてくれる人もいない。
たったひとりで、朝から夜まで料理を作り続けている。
いまは早朝で、食堂にいるのはギルドに入ったばかりの若い冒険者のみ。若い冒険者は、力量的に受けられる依頼が限られているため、朝早くにギルドに行って依頼を受ける。
若い冒険者が出払うと、中級以上の冒険者がやってくる。実力の確かな彼らは、選べる依頼が多いため、早朝から活動する者は少ない。
若者が多いため、ケイトのように肉を好む者が多い。だが、これから依頼だということを考えれば、避けたい料理だ。
それでも依頼を完遂できる実力者なら別だが、そんなものはグローリー内では一握りしかいない。
やってくる冒険者たちに合わせて料理を作り、提供する。やってきた冒険者すべてに料理が行き渡る。
「一段落したな。弁当を用意するか」
弁当の料理も、バフ効果つきだ。冒険者は、とくに若い冒険者は、朝から夕方までダンジョンに潜ることが多い。そのため、グローリーでは希望する冒険者には弁当が支給される。もちろん、その弁当もシズがひとりで作る。
「シズ、いるか」
弁当作りを開始しようとしたとき、声がかかる。
カウンターに目をやると、端整な顔立ちの青年が立っていた。刺繍が多く施された豪奢な服。腰には剣が差してあるが、持ち手や鞘には緻密な装飾がなされている。
青年の横には、若くかわいい女性がいた。踊り子のような衣装を身に纏っている。
「朝ご飯にしては早いですね。いま朝ご飯を用意しますね、マスター」
シズを呼び出したのは、ヴェルスタッペン・フォン・ロレ ーヌ。グローリーの代表だ。
次は20時に更新します。
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