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希死念慮の崖

作者: 芹川紅菜

『飲みに行こうぜ』

2日前、薄暗い部屋で適当に動画サイトを周回していた。いい感じに動画のオチと重なって、半ば苛々としながらチャットを開いた。

 

 飲酒に手を染めたのは16歳と数ヶ月。当時の俺は高校に入学したばかりで、学業よりも自分の小遣いを自分で貯めれる事に、小さな自尊心を見出しかけていた。

初手のバイトにしてはハードで、初めての社会経験にあたふたしていた俺は、最初からシフトに満足に組み込まれていなかった。

そんな灰色に彩れた日々の半ば、帰り道に酒の自販機を発見した。金も心も前より余裕のできた所に、好奇心に勝てる道理もなく初めての飲酒を一人こそこそと楽しんだ。

 それから中学時代の友人達を飲み仲間へと変貌させるのにそう時間はかからなかった。

不良品が周囲にバイ菌を振り撒く速度は、大人が思うそれより遥かに早い。

メッセージの相手も、そんなダメな仲間の一人だった。

 この三年で友人も様変わりした。やはり、早くから悪事に手を染めるような奴は、その先の歯止めが効かない。

飲み仲間の半分くらいは、ツマミに窃盗物を持ってきたり、帰りにチャリをパクったりとやりたい放題していた。そんなこんなで音楽性の違いって奴で仲違いしたその後にも交流が続くこいつに、俺はそれなりの親愛を感じてた。

 後でいいか、なんて思いつつも変にマメな性格が、アプリの上の1の表記を許してくれない。

文面に迷ったが、外に出るのが億劫なので『今日はいいや』と適当に返信した。

 直ぐには返信が来ない。忘れた頃に『そっか、悪いな』って、いつも通りの文字。

そのまま止まって動かない。



 今、合法的に酒を飲むようになって。

普通の友達と、酒を飲むだけの友達の区別ができて。

ようやっとあの日が理解できた。

俺たちには俺達しか居なかった。

酒を飲もうぜって言って深夜に突発的に集まって、小さな公園のベンチで安酒を呷る、それだけに大層な意味を付けられたって困る。

どうしても一人きりじゃ埋められない孤独を、情けなくても洗い合う、そんな間柄で見つめられてた。

酷く理不尽に感じる。小さい事を見落としたって思ってた。思ってたのは俺だけだった。

古文でやった和歌みたいに、見てるだけの光景に隠れてる、必死のサインが多すぎる。

 葬式には行かない。そういう間柄じゃないと思うから。

 

 同じ言葉を喋って、同じ景色を見て、同じ時間を生きたのに。同じ思いを背負えなくてごめん。 

 

上空からの遥かなる景色の上。明かりを灯す一つ一つの命達の前に、偲んだ心ごと飲み干した。


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