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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

伸びる草

作者: 関尾遥

 私はとある都市に住む華の女子高生だ。


 そんな私には困った性格の妹が二人いる。


 一人は小学生なりたてで、名前は百合。百合は、いつも家の中のものをあらゆるところに隠しては、困り顔になる私や両親を見てほくそ笑んでいる。時には、自分が隠した場所を忘れたと言い、家族総出で探し回る始末だ。


 そしてもう一人が、幼稚園年長さんの小百合。小百合は悔しいことに私よりも容姿端麗で、ご近所から絶大な人気を得ている。しかし、小百合が可愛いのをいいことに、時々知らない男の人が小百合に飴玉や、スーパーボールなどのおもちゃを渡してくるらしい。小百合の何が困った性格かというと、そういう得体の知れない人物から渡されるものまで受け取ってしまうくらい注意が足りてないところだ。


 私はそんな妹二人と一緒に何気ない日々を送っていたのだが、まさかあんなことになろうとは・・・。


 それは夏休みの初日のことだ。私は大量の課題を横目に、妹二人を連れて公園に出かけることにした。二人とも、最近新しくできた遊具で遊べると言って滅茶苦茶はりきっている。


 「お姉ちゃん、もっと速く歩けないのー?」


 十歩ほど離れたところから、百合がせき立ててくる。それに対して小百合は、私にべったりくっついて離れない。


 公園に着くと、いきなりベンチに座る男が目に入った。帽子を目深に被っていて顔は見えないが、何やら演歌っぽい歌を口ずさんでいるため、声で男だとわかった。その男以外には公園には誰もいないようだった。


 私がその男に気をとられている内に、百合は小百合の手を引っ張り、例の遊具の方へ走っていった。


 「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよー。」


 百合が私に何度もそう叫んでくる。


 「私はいいよ、疲れたし。」


 私はそう答え、公園の入り口に突っ立っている。ほんとは、高校生にもなって遊具で遊んでいるところを、通りがかった知り合いに見られたくないからだけども。


 二十分くらいして、トイレに行きたくなった私は、妹たちにこう言った。


 「ちょっとお姉ちゃん、この公園の公衆トイレに行くけど、おとなしく遊んでてねー?」


 そう言って私がトイレに向かってる最中、百合が返事をするのが聞こえた。


 「はいよーっ。」


 おい、ちょっと待て。どこでそんな言葉遣いを覚えた。そう思いながらも、私は公衆トイレに向かう。


 そして、公衆トイレから入り口に戻った時私は驚愕した。百合が遊具でまだ遊んでいる一方で、小百合が何故かベンチに座り、先ほど演歌を口ずさんでいた男から怪しげな植木鉢を受け取っているではないか。


 男は小百合に何やら話しかけており、しばらくすると立ち上がり、公園を出ていった。ここで男を問い詰めることもできるのだが、何せ得体が知れないため、私はベンチに残った小百合を尋問することにした。


 「何で遊具で遊ばず、あんなよく分からない男の人と一緒にいたのか、教えてくれる・・・?」


 質問をした時の私の顔がよっぽど怖かったのか、小百合は涙組みながら話し始めた。


 「あのね、途中までは百合姉ちゃんと一緒に遊具で遊んでたんだけどね。急にお歌の男の人がね、お嬢ちゃんいいものあげるからこっちおいでって言ってきたから、百合姉ちゃんに伝えて私だけベンチまで行ったの。そしたらこの植木鉢を貰ってね。」


 そう言って小百合は植木鉢を私の目の前に掲げてきた。植木鉢は大きさは半径15センチくらいで、中には土が敷き詰められており、雑草らしき草が5センチくらいひょこっと顔を出しているのが分かった。


 小百合が続けて言うには、男はその雑草らしき草を指さしながら、この草に水を一滴あげるだけで、面白いことが起こるよとだけ言い残したようだ。そして、好奇心に駆られてそのまま植木鉢を受け取ってしまったそうだ。


 何でそんなもの貰ったのと思った私だが、まあいつものことだ仕方ないと捉えることにした。それよりも、百合よ、おまえは姉失格だわ。


 小百合があまりにも嬉しそうだったため、私はその植木鉢を家に持って帰ることに決めた。


 そうして帰宅したのだが、お茶を飲みにリビングに向かう百合に対し、小百合は早速洗面台に植木鉢を持って行き、雑草らしき草に水を一滴垂らしていた。すると不思議なことに、草がじわじわと伸び始めたのである。


 「ねえねえ、お姉ちゃん!すごいよ見てみて!」


 小百合のテンションが最高潮に達した。


 「ほんとだ、確かに草が伸びてるねー。」


 そう答えながらも私は一つの疑問にたどり着いた。


 この草って、どこまで伸びるんだ・・・?


 そんなことを思った矢先、10センチほど伸びたところで草の動きが止まった。


 「あれ、止まっちゃったよお姉ちゃん。」


 そう言いながら小百合は私の方を見る。


 そんな悲しそうな顔をしないでよ、むしろ草の動きが止まってほっとしたわ。そう思いながらも私はこう小百合に言った。


 「わあ何でだろうね。とりあえずお部屋に飾っておいたら?」


 「うん、わかったー!」


 小百合はそう言って二階に上がり、百合と小百合の共同部屋に入っていった。二階から下りてきた小百合に聞くと、どうやら百合の勉強机の上に勝手に鉢を置いてきたようなので、私は百合にも植木鉢の件を話しておくことにした。


 「ふーん、で?」


 百合は全然興味がなさそうだったが、鉢を置くことは許可してくれるそうだ。


 公園から帰るのが遅かったこともあり、もうすっかり夜になっていた。両親はまさに今家を出発し二人だけで夫婦水入らずの海外旅行に行こうとしているところだった。


 「それじゃ、留守番よろしくね?」


 母はそう私に告げると、父と一緒に車で出かけて行った。


 私は晩ご飯を買って帰るのを忘れていたことを思い出した。


 妹二人を面倒見ながら買い物するのが億劫に思った私は、百合にこう告げた。


 「お姉ちゃんは今からスーパーに買い出しに行くから、二人でお部屋に行って遊んで待っててね?」


 「はいよーっ。」


 百合はそう言って、冷蔵庫からジュースを取り出しコップに注いだ後、小百合とともに二階へ上がっていった。


 私はタイムセールのことも考え、急いでスーパーへ向かった。


 そうして私は買い物を終えて家の前まできたのだが、明らかに様子がおかしい。私はまたしても驚愕した。家の周りに人だかりができており、しかも二階の一室が燃えているのである。燃えているのは位置的に百合と小百合の共同部屋だ。消防車が1台止まっており、消火活動の真っ最中だった。


 途方に暮れている私を目がけて、野次馬の中からでてきた小百合と百合が、泣きじゃくりながら突っ込んできた。


 良かった。二人は無事だ。


 安堵する私に向かって、小百合が事の経緯を話してくれた。


 聞くところによると、最初二人は部屋で人生ゲームで遊んでいたそうな。しかし、小百合の方が飽きたようで、百合に遊びの中断を要求した。しかしどうしても続きがしたい百合は、駄々をこねるかのごとく両手を上に突き上げた。その際、百合の勉強机においていたコップにぶつかり、中のジュースがすべて植木鉢の草にかかってしまったのである。


 ここまで聞いた時点で既に私は身の毛がよだつのを感じた。


 小百合によれば、続きはこうである。


 ジュースを浴びた草は先ほどとは違い、ものすごい早さで伸び始めた。


 コップ1杯分を浴びたのだから、草の成長具合は計り知れないだろう。


 最初こそ二人はその光景を見て唖然としていたが、すぐに百合がこう言った。


 「どうしよう・・・。そうだ!相手は植物なんだから、根元をはさみで切ってしまえば、きっと成長は止まるはず!小百合、はさみを取って!」


 慌てて小百合ははさみのある場所へ向かう。だが、あるはずのところにはさみが無い。


 「百合姉ちゃん、はさみないよ・・・?」


 小百合がそう言った途端、百合が頭を抱えながら言った。


 「そうだった、はさみは昨日私が隠したんだった・・・。でもどうしよう、どこに隠したのか全く思い出せない・・・。」


 二人の顔が青ざめる。そうこうしてる内にも、草は成長を続け、ついに二人が部屋の入り口に追い詰められるほどの長さになってしまった。それでもまだ草は伸び続けていた。


 「た、助けを呼ばなきゃ!」


 そう言って二人は部屋を飛び出し階段を駆け下りた。


 すると、インターホンが鳴った。


 焦っていた二人は、誰が来たのか確認するのも惜しんで、ドアを開けた。するとそこには、公園で会ったあの男が立っていた。男は言った。


 「お嬢ちゃんたち、一体何かあったのかい?いきなりこの家から泣き叫ぶ声が聞こえたもんだから、インターホンを鳴らしたんだけども。」


 普通なら何故公園のあの男が家の近くに来ているのか気になるところなのだが、二人にはそれどころではなかった。


 「あのね、おじちゃんがくれたあの草にジュースをこぼしちゃって、そしたら草が伸び続けて大変なことになっちゃって!どうしたらいいの?」


 そう訴えかける小百合に、男は拳サイズの石を渡して言った。


 「いいかい、これは魔法の石だ。この石を伸び続けている草に向かって投げつけると、草の成長は止まるよ。」


 これまた俄に信じがたい話ではあったが、焦っていた小百合はその石を受け取り、百合と一緒に部屋まで戻ることにした。


 そして二人は部屋のドアを開け、未だ伸び続ける草に向かってこう言い放った。


 「草よ、止まれー!」


 それから小百合は男から貰った石を草に投げつけた。


 すると、草にぶつかった石が突然燃え始めたのである。炎は瞬く間に燃え広がり、部屋中を駆け巡った。


 二人はすぐに階段を駆け下り、家を脱出した。その後、近所の人の家に行き、消防車を呼んで貰うことにした。


 以上の経緯を聞き終えた私だったが、他の人に話しても信じて貰えないようなこの火事の原因を、信じることにした。


 炎は無事鎮火した。草の成長こそ止まったものの、当然部屋は全焼である。


 普段温厚な私だったが、この時ばかりは公園のあの男に対し殺意を覚えずにはいられなかった。



 

 



 

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