ある晴れた昼下がりの街角
時は西暦20XX年、人類は絶滅の危機に瀕していた
ありきたりな事を言って本当にすまないが
世の中は大きく2つに分けることができる。
老人か若者か、目が良いか悪いか、1月22日であるか否かなど様々な事例があるが
今回はカレーであるかどうかである。
味・見た目・等が異なったとしても、とにかくカレーと思えばカレーであるし。
たとえカレー屋が出してきた世間一般的にマジョリティなカレーであっても
自分がカレーではないと思えばカレーではないのだ。
今、自分はその決断を迫られている。
「男だろ、さっさと食えって」
大皿に盛った物を目の前に置くとまるで新妻が料理の感想を待つような顔をして見つめてくる。
いや、確かにカレーだ。
注釈をつけるなら見た目は、である。
この世界にきて日が浅い中ここまでの物を仕上げてくるとは流石としか言いようがない。
どう見てもニンジン、じゃがいも、玉ねぎとしか見えないものまで入ってまるでCMから飛び出してきたかのような見場の良さに幼き頃、狭い台所で期待して待っていたあの初心な気持ちを呼び覚ます。
(ただ、見た目以外は未知数なんだよなぁ・・・)
つい先日食べたリンゴのような物は食えるには食えたが何故かショウガのような味がした。
想定とは異なる味に面食らったがもしかするとあれはまだマシな例であり、食ったら死ぬ的なものが存在しないとは言えない。
「因みに聞くんだけど、味はどうだった?」
「どれだけの回数作ったと思ってんだよ、新作以外するわけないじゃん」
これは新作という扱いではないのか・・・
さっきも言ったけど確かに見た目はカレーだもんな、米は無いけど
「なんだよ私が信用できないってのかよ?大丈夫だよ食った程度じゃ死にゃしないって」
新婚ホヤホヤの二人であればどんなに甘いシーンだろうか、恥じらう新婦があーんと口に運んでくれるカレーを力いっぱい頬張ると感動の余り「美味いよ嫁ちゃん!」とか言っちゃう感じ。
しかし現実はやや引きつり気味の顔をした女が鼻の先に突き付けたスプーンを何とか口に入れようと顎に手を添えて固まっている。
「わかった!自分で食うから押さえつけないでくれ」
つかまれた顎を後ろに引くと手に持ったスプーンを奪い、そのまま口に突っ込んだ。
この感じ懐かしいなぁー、昔を思い出すよ。
夕方に裏の空き地でみんなと遊んだっけなぁ・・・、かくれんぼで。
子供の頃って相手にどれだけ差をつけて勝てるかに必死で時間も忘れてで遊ぶんだけど
隠れてる最中にどこかの家が作ってるカレーの匂いが風と共に流れてきて夕飯の時間だと知る感じ。
まぁその時の自分は隠れることにコミットしすぎて消防車を待ってたんだけど。
やっぱ猫がやっと通れる程度の幅は無理だったか、顔がハマって抜けなくて死ぬかと思った。
この時は何とか消防署のお兄さんが壁をぶち壊してくれて助かったんだけど今回はたぶん無理だ。
あ、このまま死ぬなうん死ぬ死ぬ。
志半ばで悔いしか残らないけどこれは死ぬわ。
僕は死んだ。
次に目を覚ました時は砂ぼこり舞う地面と熱いキスを交わしていた。
転げまわったせいか体中砂まみれで不快感が凄い。
そしてそれ以上に喉が焼けておりまともに声すら上げることが出来ない。
なんてこったこれでは歌を歌えないではないか!
「どうやらこれは唐辛子と似たような味のするもの・・・と」
遠くでレシピ本に細かく結果を記載しているのが見える、ちくしょう人体実験だったか。
「やーおつかれさん、助かったよ。てっきり外側と同じく内側も強固かと思ったけどそうでもないんだね」
そりゃ姉さん、いくら腹にパンチ食らって平気な人間でも唐辛子一気飲みは死ぬ思いするだろ。
「とりあえず喉を癒すだろう飲み物を作ってみるから待っててよ」
あぁなるほど、続くんですね実験は。
まさか神もモンスターにやられるでも無く実験で食べた物に殺されるとは思ってもないだろう。
次はせめて意識が飛ばない程度の物にしてくれと願いつつ夢に落ちた。
食べ物の味がすべてトマト味となり、嫌いなものは苦虫を嚙み潰したような顔で死んでいった