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Ⅱ-Ⅴ さらなる亀裂 ②


「かーらーすー。なぜなくのー。からすのかってでしょー」


「うっさいわね、仕事しなさいよ仕事。っていうか歌詞も間違ってるし」


 うるせー、誰のせいで碧依に嫌われたと思ってるんだ。

 あぁ、思い出すとまた涙が出そうだ。

 人に嫌いと言われることがここまで心に突き刺さるものだと初めて知った。

 それが碧依ともなればダメージ数倍だ。


 とは言え傷心に浸っていては柊木さんも言う通り仕事にならない。

 はぁ、と溜め息をつくとパソコンに向かった。


「ん?」


 すると、パソコンが暗転し文字が打ち込まれていく。

 おや? 黒川さんかな? 何の用事だろうか。


「ワタシノヘヤガヘンナノニセンキョサレタノ。リョータナントカシテ」


 変なのに占拠された? サーバールームが?

 ……、碧依か。直感だけど多分間違いないな。

 これは、迎えに行ったほうがいいのかな。

 でも現開発チーフがなんて言うかだよな。

 俺はチラッと柊木さんの様子を伺う。

 柊さんは手元の資料とパソコンとの間を何度も往復しながら見ている。

 現状の商品の洗い出しが終わって、次に新商品のテーマを決めるって言ってたからそのアイデアを練ってるんだろうな。

 集中しているところ悪いけど、一応確認取らないと後で何を言われるか分からないので、俺は恐る恐る声をかけた。


「柊木さん。ちょっといい?」


「なに?」


「いや、碧依がどうも黒川さんのところにお邪魔してるっぽくてさ。迎えに行ってこようと思うんだけど……」


 さて、どんな返しがくるか。

 最悪の場合は「はあ?」と機嫌を悪くされるパターンだけれども。


「え? ああ、うん。いいんじゃない?」


 あれ? 意外とあっさりだな。


「いいの?」


「なによ。しつこいわね」


 本当にいいのか再確認したけれど、それに対してちょっと機嫌が悪くなった。

 さっきの件、俺が思うほど柊木さんってあんまり気にしてないのかな?

 まぁ柊さんが良いというのであれば迎えに行ってくるとしようか。


「それならちょっとサーバールーム行ってくるから」


 俺はそう言うと、立ち上がり足早に会議室を後にした。




□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □




「リョータ、あれ」


 黒川さんが指さす先。

 そこには炬燵に入りながらパソコンで作業をしていた碧依だった。


「あー、うん。うちのがご迷惑をおかけしまして」


 とりあえず黒川さんには謝っておく。何も関係ないのに巻き込んですんません。

 なんて声をかけていいのか分からないけれど、とりあえず碧依のもとへ。


「碧依、こんなところに居たのか」


 ……、無視。いや、聞こえなかったのかな。


「あのー、碧依さん?」


 再度声をかけてみるけれど、碧依の返事はない。

 顔色一つ変えずパソコンの方へ目を向けている。

 うん、無視確定かな。地味に一番傷つくやつだよね。でもそうか、そこまで碧依は俺のことを……。

 がっくりとうなだれながら俺は立ち上がった。


「リョータ、どうしたの?」


 黒川さんが心配そうに俺に声をかけてくれる。


「いや、何か碧依に嫌われちゃったみたいで。会話もしてくれないよ」


「なんで?」


 黒川さんは小首をかしげて尋ねてくる。

 そこで俺は碧依に聞こえないようコソコソと何があったか端的に黒川さんへ伝えた。


「なるほどね。それで私にあんなことを言ったんだ」


「あんなこと?」


「五葉さんが私と組んで欲しいって言ってきたの。正直断りたくてリョータに連絡したんだけど……」


 組んで欲しいって、商品開発の件か?

 俺たちとやりたくないけど一人ではと思って黒川さんを頼ったってところか。


「今の話ならどうもそういう訳にはいかなさそうだね」


 そして黒川さんが五葉さんをの方を見てため息をついた。


「分かってくれるの?」


「面倒くさいことになってるなとは私も感じたよ」


 分かってくれるのは瀬戸さんだけだと思っていたけれど、それは過ちだったみたいだ。

 ここにもちゃんといたじゃないか、俺の理解者。


「ごめん。俺は黒川さんのことを勘違いしてたみたいだ」


 思わず黒川さんを抱きしめたくなってしまうけど、理性でなんとか抑える。セクハラ反対。


「……、何だか馬鹿にされてる気分」


 いえ、気のせいですよ。


「とりあえず五葉さんは私の方でなんとかしてみるから、リョータは柊木さんの方をお願いできる?」


 俺と黒川さんの2人がかり作戦か。それなら俺が碧依担当の方がよかったけれど、こうなった以上は黒川さんに任せるしかないよね。碧依口きいてくれないし。あ、自分で言っててまたへこんできた。


「了解。悪いな面倒かけて」


「ううん。私もリョータに色々助けてもらってるし、このぐらいは……ね。それに総務部が空中分解しそうなのを指をくわえて見てる訳にもいかないし」


「黒川さん……」


 黒川さんの好意に感動を覚えてしまう。

 ちょっと暗いパソコンオタクだと思っていた俺を許してください。


「ありがとう。それじゃあ碧依のこと頼むよ」


「任せて」


 頼もしい一言。こんなに黒川さんって頼りなったんだな。


「だから、リョータも発信機の件よろしく」


 あー、そんなのありましたね。このごたごたですっかり忘れてたわ。

 しばらくは柊木さんと一緒だと思うし、その辺はいつか機会があるだろう。

 というかやたらと俺に協力的なのはそれもあるからなのかな。いや、そう考えるのは黒川さんに失礼だろう。

 単純に黒川さんは俺が大変だと思って行動してくれているんだ。


「おう、任せてくれ」


 だからと俺も黒川さんにそう返し、会議室へ戻るのだった。















「涼太君の……バカ」

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