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Ⅱ-Ⅴ さらなる亀裂 ①


「ということで、何か商品開発を任せられることになったのだけども」


 総務部の部屋へ戻ってきた俺たち。

 とりあえず柊木さん指揮のもとまずはどうしよう会議が開かれることとなった。


「まずは私たちの現状の仕事とどう並行するのかよね」


「それなら心配はいらない」


 柊木さんが切り出すと、部長がすっと立ち上がる。


「私が柊木の、そして瀬戸が五葉の仕事を引き受けるということでどうだろうか。瀬戸に関しては五葉の前任だから問題はあるまい?」


「ないです~」


 部長に呼応する形で瀬戸さんがほっこりと答える。


「だから残りの3人でそちらに専念してくれて構わない」


 部長はドンと胸を叩いて任せろと笑った。


「助かります」


 俺が申し訳なさそうな顔でそう言うと、いやいやと部長は笑った。


「いいんだ。あの専務の悔しさに歪む顔を見れると思うだけで活力が沸いてくる」


「あー」


 笑ったってか、不敵な笑みだなこりゃ。

 何があったのか部長は相当専務のことをお嫌いの様子で。


「コホン。とりあえず当面の仕事は二人が何とかしてくれるということで。じゃあ早速だけど現状ある商品の洗い出しから始めましょうか」


「オッケー」


「あぁ、ちょっと待ってくれ」


 俺たちが早速仕事を始めようとすると、部長が待ったをかける。


「ここでは集中できないと思ってな。期間中はこの階の会議室を押さえてるんだ。だからそこへ移って仕事をするといい」


「そこまでしていただいたんですね。なんか至れり尽くせりで」


「なんていうことはないさ。言っただろう私にも目的はあるんだよ」


 そしてまたフフフと怪しい笑みを浮かべ始める。いやもう専務どんだけ恨み買ってんだよ。




□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □




「じゃあさっき言ってた現状ある商品の洗い出しから始めましょうか」


 会議室へ移ってきた俺たち。柊木さんがそういうと、手元のパソコンで商品資料の確認をし始めた。

 ちなみにパソコンは黒川さんから予備のノートを借りてきた。


「了解」


 俺は一言返事をすると、手元のパソコンで確認を開始する。

 営業部時代に何個かは取り扱ったことがあるから、その点に関しては2人よりかは活躍できるだろう。

 が、しかしそんなことよりも気になるのはもう1人の方だな。

 めちゃくちゃ不機嫌そうな顔して作業してますね。なぜかは分かる気はするけど。


 30分ぐらい確認したところで、各々今の瀬戸商事で売り出している商品についてまとめあげる。

 それを報告しあっていたところでまた事件が起きた。


「ねぇ、碧依。一体どこ見て仕事してたの?」


「私は自分なりに一生懸命考えたよ」


 あーあ、まーた始まったよ。止めるか? 止まるかなぁ。


「なぁ、二人とも。そんな言い合いせずにさ」


「「涼太君(あんた)は黙ってて」」


「御意」


 なぜ俺に対してだけ一致団結するのだろうか。


「もういいわ。佐和、これよろしく」


 そう言って柊木さんは資料を俺に渡してくる。


「お、おう」


 俺はその勢いに負けてそれを受け取る。なんかよろしくない空気感。


「なにそれ……」


 すると碧依がバンと机を叩き、おもむろに立ち上がった。


「私こそもういいよ! 別で考えるから」


 そう言って会議室を出ていこうとする。

 いやいやいや、それはマズイだろ。


「どーぞ、お好きに」


 柊木さんも止める気はさらさら無いらしい。

 ったく、こいつら。


「碧依。待てって」


 俺はすかさず出ていこうとする碧依の肩をちょっと強めに掴む。


「なにかな涼太君。痛いんだけど」


 言葉に棘があるね、少し俺傷ついた。

 だって、ちょっと気になる女の子から冷たい目を向けられたんだぞ。

 でもそれよりも今大事なのは仕事だ。泣きそうな心をぐっとこらえて碧依に言葉を投げる。


「今回は失敗できないって部長も言ってただろ。皆で協力しないと」


「ひーちゃんが私は必要ないって」


「言ってないわよ。耳悪いんじゃないの?」


 あー、もう柊木さんちょっと黙って。


「遠回しに言ってたでしょ!」


「とりあえず碧依、俺の話だけ聞いてくれな、な?」


 ボルテージが上がる碧依を何とかなだめようとする。

 ホント横やりやめてくれないかな。収まるものも収まらなくなるだろ。

 やばい、俺もだんだんイライラし始めてきた。


「碧依、これは仕事なんだから。我がままはやめとこ」


「我がままってどういうことかな?」


 あ、地雷を踏んだ音がした。


「碧依が今やってることでしょ」


「は?」


 あー! もうだから黙ってろって言ってるでしょーが!

 や、言ってなかった。思ってただけだった。


「いや、碧依。柊木さんも悪気はないんだぞ。ただな――」


「ああ。そういうことなんだ」


 俺が何とか柊木さんのフォローを始めようとすると、それを遮って碧依がこちらを睨みつけてくる。

 そういうことってどういうこと!? と思っていると、今まで熱くなっていた碧依から熱が抜け、次第に冷めたオーラを纏い始める。

 すっと瞳からは光が失われていき、顔には影がかかった。いやいや、その表情やめてめちゃくちゃ怖い。


「涼太君はひーちゃんの味方なんだ」


 いや、味方って。どっちかというと俺はいつでも碧依の味方だぞ。恥ずかしいから本人には言えないけど。


「私なんかよりもひーちゃんを選ぶんだ」


「いや、選ぶとか選ばないとかじゃなくて」


 仕事だからさ、と碧依の腕を取ろうとすると力強く振り払われた。


「触らないでよっ! 涼太君なんて大嫌い!」


 そのまま碧依は俺を振り切って会議室から飛び出して行ってしまう。


 大嫌い。

 大嫌い。

 だいきらい。

 だいきらいだいきらいだいきらいだいきらい……。


 会議室の中で俺はただ立ち尽くすだけだった。

 脳内に、碧依から放たれたかくも切ない言葉を余韻として残しながら……。




「なに突っ立てんのよ。仕事が進まないでしょ」


 あぁ、この世に神など居ない。

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