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Ⅱ-Ⅱ 黒川さんからの呼び出し ①


「おはようございます」


 夢のようだったお盆休み(3連休)が終わり、だるい体で出勤する俺。

 休み明けって本当地獄だよな。


「わ~、おはよう~」


 そこには瀬戸さんの姿が。


「あれ? 瀬戸さん今日は早いですね」


「今日は私が開錠当番だから~」


 ニコニコとしながら瀬戸さんは答えてくれる。

 開錠当番とは、総務部の部屋など8階の各部屋の鍵を開ける当番のことだ。

 総務部長を除く5人でまわしているのだけれど、順番は週替わりで俺、碧依、俺、瀬戸さん、俺、柊木さん、俺、黒川さんとなっている。理不尽じゃねこれ。


「そうですか~」


 やべっ、思わず語尾がうつっちまった。


「そう言えば佐和君、なんで私だけ敬語なの~?」


 すると瀬戸さんが顎に人差し指を当て、首をかしげながら聞いてきた。

 そのポーズ可愛いですね。写真撮ってもいいですか。

 指摘されて考えてみるけれど、そう言えばなんで俺この人に対してだけ敬語なんだろう。同い年で同期のはずなのに。


「なんででしょうね?」


「私に聞かないでよ~」


 困惑する瀬戸さん。

 碧依や柊木さんなんかと比べて瀬戸さんと話をすることは少ないから、こういった表情も新鮮に思えてしまう。


「うーん、じゃ、なんとなくで」


「え~」


「涼太君?」


 瀬戸さんと楽しく話していると、急に背後から冷気を感じた。

 恐る恐る振り返ると、そこには笑顔の碧依が立っている。想像通りです。


「お、は、よ、う」


「お、おはようございます」


 心なしか声が震える。やめてっ、アイアンクローだけはやめてっ!

 しかし碧依は俺を一瞥だけすると、ため息をつき、そそくさと自分の席に着いた。

 良かった~と思うけど、よくよく考えたら俺ってばただ同僚と喋ってただけですよね。

 仕方ないので瀬戸さんとの会話はそこで打ち切って、俺も自分のデスクのパソコンを立ち上げる。

 静かに画面が明るくなり、パソコンが立ちあがったかと思いきやすぐに暗転した。

 あれ、おかしいなと思っていると、そこに文字がタイプされていく。


「ワタシノヘヤマデキテ」


 黒川さんか。何の用事だろう。

 出会ってからちょくちょく仕事の依頼をされていたけど、全部画面越しによろしくだったしな。

 実際に会うのはどのくらいぶりだろうか。

 俺はゆっくりと立ち上がると、総務部のドアを開ける。


「どこ行くの?」


 負のオーラが霧散した碧依が素の表情で尋ねてくる。

 そうそう、そっちの方が碧依は可愛いよ。


「黒川さんから呼び出し」


 ちょいちょいと自分のパソコンを指差しながら碧依に言う。

 碧依は俺のパソコンを見ると納得した表情で、行ってらっしゃいと手を振ってくれた。今の夫を仕事に送り出す新妻みたいじゃない?


「あんた、またバカなこと考えてるでしょ」


 すると背後から今度は柊木さんが現れる。

 勘の鋭さは相変わらずですね。

 俺は否定も肯定もせず、ハハハと乾いた笑いを浮かべながら総務部を後にした。




□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □




「リョータ。これについて説明をして欲しい」


 サーバールームに到着した早々、バシンと一枚の紙を炬燵机に叩きつけられた。

 なになに、と俺は炬燵に入りながらその紙を眺める。

 そこにはビッシリと数字が羅列されていた。


「なにこれ?」


「とぼけないで!」


 バンと炬燵机を叩く黒川さん。

 いやいやいや、マジでわかんねっす。


「ごめん、数字の意味が分からなくて」


「――。じゃあ説明してあげる」


 黒川さんは数字の先頭らしきあたりを指差した。

 よくよく見るとそこには、ryota、aoi、shion、ainaと書かれていた。

 これって俺とか碧依の名前だよな。でもshionって誰?


「これは、この3日間の涼太たちの座標を1時間ごとに記録したものなんだけど」


 うん?


「最初の2日は五葉さんの、最後の1日は柊木さんの座標と近似値を示しているの。どういうことか説明してくれる?」


 そんなことよりも、どうやって俺たちの座標を調べたのかを先に説明して欲しいんですけど。

 ただ、怒髪天状態の黒川さんには聞き入れられないだろうから、とりあえず先に答えておこうか。


「そりゃ、まぁ、その期間はそれぞれの方と一緒に居ましたもので」


「なんでっ!」


 黒川さんはバンと両手を炬燵机に叩きつけ、ぐいと身体をこちらに乗り出してくる。


「そ、そういう約束をしましたもので」


「――ズルい」


 黒川さんが消え入りそうな声でそうつぶやく。

 ズルいって、黒川さんも俺とどこか行きたかったってこと?

 ウルウルと涙目で黒川さんはずっとこちらを睨んでいる。俺が悪いのこれ?

 しばし沈黙が続いた。とりあえずこの場を何とかしないとなと思い、俺は黒川さんに提案した。


「じゃあ今度どこか行く?」


 すると黒川さんは少し表情を明るくして、「うん」と可愛らしく頷いた。

 その表情に思わずドキッとしてしまう俺。

 最近俺ってば胸高鳴りすぎじゃない? でも、それは仕方がないことなんだ。総務部のみんなが可愛いのが悪いんだから。

 ドキッとしたっていいじゃない、可愛いんだもの、りょうた。


「で、どこへ行きたい?」


 色々としょうもないことを考えてしまったけれど、俺は黒川さんに尋ねた。

 出かけるとは言っても、結局どこで何をしたいのかにもよるし。

 最悪次の休みって来年なんだよな。正月も休みだけど、そこは無理だから……。後で部長に聞いてみるとするか。


「うーん」


 しばし、黒川さんは考える。

 そんなに悩むことかなぁ。柊木さんなんて即答だったぞ。

 「買い物ってどこいくの?」に対しての「駅前の商業施設!」って。

 数分間悩んだ末、ポンと黒川さんは手を打った。閃いた! って感じで。

 そして口を開き、ちょっと恥ずかしそうに言った。


「リョータの家、行きたい」


「は?」

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