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Ⅰ-Ⅰ ようこそ総務部へ ②


「ところで総務部ってこれで全員なんですか?」


 柊木さんからのタコ殴りの刑が終わり、俺は一息ついて部長にそう尋ねた。


「いや、あと2人居るよ。1人はサーバールームに籠っているし、もう1人は……」


「ぶちょ~。ただいま戻りました~」


 そう言いながら1人の女性が部屋に入ってきた。

 腰まで伸びた茶髪を揺らし、ニコニコと笑っている。


「丁度よかった。紹介するよ。彼女は瀬戸藍那(せとあいな)。瀬戸社長のご令嬢だ」


「は?」


 瀬戸社長って、俺が務めるこの『瀬戸商事』の社長のことだよな。

 そのご令嬢って……。


「どうも~、瀬戸藍那です~。ぶちょ~、この人が例の生贄さんですか~?」


 何だかおっとりしていて優しそうな人だ。ん? 生贄?


「あぁ、そうだ」


 おい、そこの部長よ、何肯定しているんだ。

 なんだよ、生贄ってなんだよ!


「ちなみに瀬戸は建物備品管理担当だ。さっきも剥がれた壁紙の状態をチェックしに行ってもらっていたんだよ」


「はい~。バッチリ撮ってきましたよ~」


 そう言いながら瀬戸さんは手に持っていたデジタルカメラを部長に手渡した。


「いや、それより生贄ってなんですかっ! めちゃくちゃ聞き捨てならないんですけどっ!」


 さりげなく話を進めようとする二人に待ったをかける。


「あれ~? まだ仕事の内容説明していなかったんですか~?」


 瀬戸さんがおっとりと話しながら俺の目の前の席に座った。

 その瞬間俺の目にとんでもないものが飛び込んでくる。

 立っていた時は生贄という言葉に反応してしまい気づかなかったが、今目の前に座った途端、机の上にとんでもなく二つの大きなメロン、否っ! スイカが置かれたのだ。

 俺は先ほどの言葉などどうでもよく、それにくぎ付けになるが、瞬時に走る右腕の痛みによって現実世界に戻される。

 見ると五葉さんが無言でニコリと笑いながら俺の右腕を抓っていた。

 先ほどのような怒り顔ではないが、背中に怖気が走るほどの圧力を放っている。


「エッチな目で見ないで」


 彼女はただ一言、俺にだけ聞こえる声でそう告げた。

 俺は、黙ってコクコクと頷く。

 すると彼女の圧力はふっと解かれ、普通の笑顔に戻った。

 やばい、柊木さんの時と違ってマジで殺られると思った。

 というか何故ここまで怒ったのか分からないが、今後瀬戸さんと話すときは注意するようにしよう。

 くわばらくわばら。


「そういえばまだ佐和君には説明していなかったね。今後の君の仕事内容について」


「あ、はい」


 俺は五葉さんから部長の方に向き直る。


「ただ営業部長からは『新設の課』とだけ伺っています」


 そう、営業部長からは課が新設されるので、そこに抜擢された的な話で聞いている。


「うむ。それで間違いない。君は今日から『()()()()』として働いてもらう」


「庶務担当……ですか?」


「あぁ、そうだ」


 部長はコクリと頷いた。


「ここ総務部では、私、経理担当の柊木、建物備品管理担当の瀬戸、広報担当の五葉、そしてこの場には居ないシステム管理担当の黒川(くろかわ)の5人で回している……が、いかんせん仕事の方が上手く回らなくなってきていてな。完全な人不足だというのは分かっていたから、私が社長や専務へ打診したところ、1人増員してくれることとなったんだ。それで新しい課として庶務課というのができたという話だ。まぁ、各課に1人しかいないから担当という方が正しいから皆そう呼んでいる。ちなみに各課長は私が全て兼任している」


「はぁ。それで結局僕の主な業務は何になってくるんですか?」


「うむ。庶務担当とはズバリ」


 ビシッという効果音が付きそうな勢いで部長は俺を指さした。


「皆の雑用係だっ!」


 刹那の間、総務部の部屋に沈黙が流れる。

 が、すかさず部長が続ける。


「つまりは、私を含めてここにいる5人全員の仕事の補助をやってもらうと言う訳だ。ちなみに君のスケジュールは早い者勝ちとなっていて、すでに8月末頃まで埋まっているからしっかり働いてくれたまえ」


「ちなみに休みとかは……?」


「今年は君が来てくれたからお盆休みは取れるな。それ以外はない」


 その一言を聞いた瞬間、俺以外の3人の顔がパッと明るくなった。


「部長本当ですか? 直前になってやっぱ出勤とかは無しですよ!」


「やったよ涼太君。今年も実家に帰れるよ!」


「私も~、嬉しいわ~」


 えっ、やだ何この空気。

 俺、営業部の時週休2日だったんですけど。

 この部署ってそんなえげつないところなの?


「佐和君」


 俺が戸惑っていると部長がポンと俺の肩に手を置いた。


「これが地獄の総務部の現状さ」


 そして儚い表情でそうつぶやいた。


「嫌だーーーーー!」


 俺は、この部屋から逃げ出そうとドアに手をかけるが、俺の身体を3つのもの凄い力で止められる。


「さわく~ん? どこへ行こうというんですか~?」


「逃がさないわよ佐和。あたしのお盆休みのために死になさい」


「涼太君。今なら私は修羅になれます」


 ずり、ずりと俺は机の方に引き戻される。

 やばい、戻ったら戻ってしまったら俺の安穏な生活が――。


「「「じゃあ今日からよろしくね」」」


 三方向から向けられる笑顔に俺は、


「はい」


 と頷くしかなかった。

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